
生成AIのカギを握るプロンプトの存在——AI Engineer後編
AIによって職を奪われるようなマイナス面もあるが、使いこなすことで業務を効率化したり、あらたなビジネスを生み出したりもできる。
前編・中編ではそれぞれ生成AI技術が注目されている理由や、それに伴いどのような職業が代替されていくのかについて説明してきた。
後編では生成AIを活用する上でカギを握るプロンプトの存在について触れていく。
——なんだか、AIさえあれば何でもできそうに思えてしまいます。少し俗っぽい質問ですが、株価の予想をAIにやってもらって稼ぐ、なんてこともできたりしますか?
A氏「それはできないでしょうね。そもそもAIは『学習 データを元に、確率的に正解っぽい回答・出力をする』ものです。株価の変動は未来に起きることなので、正解はありません。『株価の変動予測をもっともらしく語る』ことはできても、価格を完璧に予測するようなことはできないのです」
B氏「生成AIは、確率的に正解っぽいものを出力する のであって、正解を出力するものではありません。
おそらく今後、『AIによる自動売買で絶対に稼げる!』などといって投資資金を募るようなサービスも出てくるとは思いますが、『AIがすべての物事を100%予測できるわけではない』ということは理解しておいた方が良いでしょう。
正解がないものに関して、AIだからといって正解を導き出せるわけではありません」
——なるほど。では、AIの悪用を懸念するような意見もありますが、具体的にどのような方法で悪用される可能性があるのでしょうか?
A氏「生成AIを使ったディープフェイクはすでに各所で問題になっています。生成AIを使えば、1枚の画像からその人物が喋っているような動画を作成することができます。有名人や政治家が喋っているような動画を作成して嘘の情報を広めるような使い方は、今後何らかの事件につながる可能性があります。
また、画像だけでも偽の災害や戦争被害があったかのようにみた人を錯覚させられるので、悪用されてしまうかもしれません。芸能人の偽画像を作成したり、美人の女性画像を使って人を騙すような行為も今後増えていくでしょうね。
そのほかの問題として、生成AIで出力されるデータについては、人間のような倫理観を持たせることがまだできていないという問題があります。AIは学習データに基いて出力をするだけなので、質問次第では倫理的に問題がある思想や意見を述べることもあるのです」
B氏「悪事なのかどうか、という議論がある部分ですが、特にイラスト業界では画像生成AIの使用に関する 議論が盛り上がっています。これまで自らの腕でイラストを描いていた人たちが、生成AIを活用してイラストを作成し、販売しているような人たちへの不満をあらわにしています」
——著作権の侵害になるのでは?という意見がありますね。
A氏「そうですね。イラストに限らず、生成AIの著作権に関する議論は世界的に広まっています。論点は大きくわけると2つあって、生成AIの学習データに関する著作権と、出力されたデータの著作権です。
たとえばイラストレーターの方は、自分が描いたイラストを学習されて、自分の画風とよく似たイラストを簡単に作成されてしまうと、仕事をすべて奪われてしまう可能性がありますよね。
なので、自分のイラストを無断で学習データに利用されたくないですし、学習データとしての利用は著作権侵害である、と考える人がいるのは無理もありません。
ただし、少なくとも日本では著作物を学習データとして利用する場合は法的にも著作権侵害ではない、ということになっています」
B氏「出力されたデータについても、日本では著作権侵害にあたるのかは非常に曖昧です。この点については今後判例などが出ない限り明確にはなりませんが、特定の著作物に非常に類似しているようなものでない限りは、著作権侵害にはあたらないという見方が現在は一般的です」
——つまり、仮にイラストレーターの方の著作物が学習データとして利用されたとしても、出力されたイラストが特定のイラストのほぼコピーのようなものでない限りは、著作権侵害であるとするのは難しいということですね。
A氏「そうですね。ただし、イラスト販売サービスなどが独自に『AIイラストの作成・販売禁止』などの措置をとることはできるので、現在はそのような形でAIイラストの利用を制限する動きがあります」
B氏「ただし、生成AIに関連する著作権に関しては、現時点で日本は世界トップクラスに寛容です。たとえば英国では、他人の著作物を学習データとして使用する場合は『非営利目的の場合のみOK』ということになっていますが、日本では基本的にノールールで使用可能ということになっています」
A氏「日本は生成AIを利用して何かを作成することに関して非常に寛容なので、クリエイターの方にとってはやや厳しい環境ではありますが、一方で、あらたなビジネスを生み出しやすい環境ともいえますね」
——生成AIを活用したビジネスとしてはどのようなものがありますか? 今後誕生しそうなものもぜひ教えてください。
A氏「文章生成AIに関しては、幅広いビジネスで利用され始めていますね。すでにAIが執筆した書籍もいくつか発売されていますし、AIが記事を執筆しているウェブサイトもあります。また、生成AIを言語学習に使うという動きもあります。
AIと英語でチャットすることができて、誤りがあれば正してくれるというサービスも次々とリリースされています」
B氏「文章生成AIとチャットボットを使った教育系のサービスは今後増えていくのではないかと思います。 たとえば受験勉強用のチャットボットを作って、利用者の学年や偏差値にあわせて問題を出したり、回答を解説してくれたりするようなサービスがあれば、需要があると思うんですよね」
A氏「何かを教えてくれるだけではなく、単純に話し相手になってくれるようなサービスも生まれるかもしれませんね。生成AIは人間と対話をしているような自然な回答をくれるので、愚痴をいったり相談をしたりするという使い方もできます」
B氏「ChatGPTに性格や設定を指示して、特定のキャラクターになりきって回答してもらうという遊び方をしている人もすでにいます。たとえば画像生成AIで美人を作って、音声生成AIと組み合わせて会話ができれば、『AI彼女』のようなものも作れそうです」
A氏「画像生成AIに関してはすでにめざとい人たちが画像販売を始めています。AIで生成した女性のイラストを販売したり、写真集を作って販売したりしていて、販売サイトの売り上げ上位になっていますよ」
B氏「あとは今後さらに動画生成AIが発展すれば、YouTubeなどの動画をAIで生成するチャンネルも増えていくでしょうね。3Dモデルとチャットボットなどを組み合わせたAIのVtuberはすでにいくつかリリースされていて、人気を博しています」
A氏「生成AIサービスが盛り上がっているおかげで、これまで特定の技術を持っている人しかできなかったことが、誰でもできるようになっているんですよね。著作権などについて議論は引き続きあるとは思いますが、生成AIを使ってビジネスを起こすチャンスはまさに今という感じです」
——では最後に、生成AIサービスを利用するにあたって知っておくべきポイントがあれば教えてください。
A氏「生成AIは、プロンプト次第で出力されるもののクオリティが変わるという点は知っておいた方がいいですね」
——プロンプトとは?
A氏「AIに出力する内容を指定するための命令文のことです。たとえばChatGPTに対して『ブロックチェーンとはなんですか?』といったように質問をする文章がプロンプトですね。画像生成AIの場合は『日本の風景』などのように作りたい画像のイメージを伝える文章がプロンプトです」
B氏「ChatGPTに『ブロックチェーンとはなんですか?』と入力するのと、『ブロックチェーンの仕組みを小学生にもわかるように教えて』と入力するのでは、回答に違いがあります。基本的には、より詳細にプロンプトを記述した方が、ユーザーが求めている回答を得やすくなるんです」
A氏「画像生成の場合も同じで、『日本の風景』と入力するよりも、日本のいつ、どこの、どのようなものが写っている風景なのかをプロンプトで入力した方が、イメージ通りの画像ができあがります」
B氏「生成AIを使えば、自分が作りたいものを簡単に作れると思われがちですが、実はそうではないんですよね。自分が求めているものを言語化して、それをAIに伝える能力が必要なんです。
プロンプトを作って良質な出力をするようにすることを指して、プロンプトエンジニアリングという言葉が生まれるほど、プロンプトは重要です。優れた画像を出力するためのプロンプトを販売する『プロンプトマーケットプレイス』まであるほどですから」
A氏「良いプロンプトを作るために、自分でいろいろと工夫してみるのも良いですが、ほかの人の成功例を学ぶのもおすすめです。たとえば『美人の画像を出力するプロンプト』などはネット上に大量に転がっているので、それを真似て自分なりに必要なキーワードを足したりするのが良いでしょう。
生成AIサービスは、使ってみて出力されるという体験だけでも楽しいので、まだ使ったことがないという方はぜひ触ってみてください」
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◉A氏
AIソフト開発者。生成AIを活用したサービスの開発に従事している。
◉B氏
生成AIを活用したスモールビジネ スを展開。ITライター。