
技術面・費用対効果で未知の部分が多いブロックチェーン関連の開発費——BlockChain Engineer 後編
ブロックチェーン関連の開発は技術的にも費用対効果の面でも未知の部分が多いので、開発費用を見積もることは難しい。
——ちなみに、ご自身で暗号資産を買ったり、値上がりしそうな暗号資産の情報を入手できたりするようなことはありますか?
A氏:一応買っていますが、有名な通貨をたまに買うくらいですね。開発と投資はまったく異なる分野なので、エンジニアだからといって暗号資産投資に強いとは思っていません。
B氏:エンジニアはそういう投資的な話よりも技術の話が好きな人の方が多いですからね。ブロックチェーン業界の情報についてはできる限り幅広く収集していますが、それだけで投資に有利になるということはないように感じます。
もちろん、値上がりしそうな通貨の情報なんてどこからも入ってきません。珍しいケースとしては過去に関わったプロジェクトの報酬として、そのプロジェクトの独自トークンを受け取ったことがあります。といっても、大きな利益を得たわけではないのでちょっとしたおまけの報酬という感じでした。
——ではここから、ブロックチェーンエンジニアやブロックチェーン関連企業がどのように動いて収益を上げているのか聞かせてください。ストレートに聞きますが、今お二人が関わっている企業・プロジェクトは儲かっていますか?
A氏:私が関わっている企業はスタートアップで、まだプロダクトを開発中です。なので事業による収益という意味ではプラスにはなっていません。現時点では資金調達によって得た開発資金を使っている段階ですね。
B氏:私も同様ですね。ただ、私が今携わっている企業はブロックチェーン以外の部門で収益を上げているので、ブロックチェーン開発は先行投資のようなものです。
A氏:純粋なブロックチェーン事業で収益を上げている企業やプロジェクトは今はほんの一握りではないかと思います。取引所であったり、DeFiで成功したようなケースですね。
——なるほど。ブロックチェーン開発はどのような経緯で始まるのですか? 営業をかけたり、どこかから発注が来たりするんでしょうか?
A氏:もちろん発注を受けるケースもありますが、どちらかといえば自社で何らかのプロダクトを開発するという形が多いとは思います。
というのも、そもそもブロックチェーンエンジニアの数は非常に少ないですし、ブロックチェーン関連のサービスを作ろうとしている企業もそれほど多くはありません。たいていは自社で何らかのブロックチェーンサービスを作ろうと考えて、それからエンジニアを集めるケースが多いのではないでしょうか。
B氏:そうですね。私は過去に他社から協力依頼という形で受注を受けたことはありますが、基本的には自社のプロダクトを作っているという企業が多いように感じます。ただ、最近では下請けとしてブロックチェーン開発をする企業も増えてはいます。
A氏:自ら営業をするようなケースはあまりないと思います。ブロックチェーンを活用することでコストが下がったり利便性が上がったりするようなメリットがあるかどうかを皆で探っている段階ですし、そもそも営業をかけるような製品パッケージがありません。
——たとえば社外の人からブロックチェーン関連のシステムを作れないかと相談が来るようなことはありますか?
B氏:個人的にも、会社としてもよくあります。ただし、それ自体が仕事に直結して依頼を受けるようなケースはほとんどありません。たいていの場合は興味を持っているという程度の話で、具体的にブロックチェーンを使ってどういうシステムを作りたいのかというところまで話が進むことは稀ですね。
A氏:大企業に勤めていてブロックチェーンについて学びたい、という方からの相談を受けることがよくありますね。ただし、実はブロックチェーンについてよく知らないというケースも多いです。なので、ブロックチェーンとは何なのか、何ができるのか、みたいな話をして終わることが多いです。
B氏:そういう技術コンサル、システムコンサルのような活動をする方も徐々に増えているように感じます。一般的なIT業界でいうところのSI(システムインテグレーター。顧客向けにシステム開発・導入などを支援するサービス業)のような職種も、今後はブロックチェーン業界に求められるのかもしれません。
——たとえばブロックチェーンエンジニアを複数抱えているスタートアップに何らかのシステム開発を依頼したらどの程度費用がかかるのでしょうか?
A氏:通常のシステム開発と同じで、基本的には人月計算ですね。たとえばブロックチェーンエンジニアなら1ヵ月100万~150万円くらいの計算で、あとは開発までにかかる時間で合計金額は決まります。
ただし、ブロックチェーン関連のシステム開発は未知の部分が多いので、『こういうシステムならいくら』と最初から明確に決められるケースはあまり多くないと思います。
まずは暗号資産やNFTを活用するような金融分野でブロックチェーンが活用され、それから他分野に広がる
——お話を聞いていると、まだブロックチェーンを活用したシステムのようなものはあまり世間に出ていないような印象を受けます。
A氏:わかりやすいものだと、取引所とDeFi、あとはブロックチェーンゲームやウォレットあたりは多くのプロダクトが出ています。たとえば取引所の裏ではユーザーがみえない部分で強固なセキュリティを求められる資産管理のためのシステムが必要になったりします。
また、ブロックチェーンゲームならゲーム部分とブロックチェーンをつなぐためにブロックチェーンエンジニアが必要となります。
B氏:GoogleとかAmazonのように、世間の誰もが使うようなシステムの裏でブロックチェーンが活用されているというような状態にはなっていません。そういう意味では、まだ一部の業界だけで活用されているともいえますね。
——では、将来的に誰もが実はブロックチェーンを使っている、という状態になるような分野はありますか?
A氏:それは難しい質問ですね。よくいわれるのは金融と物流でしょうか。あとは小売、ヘルスケア、自動車などの製造業、エンターテイメントなどもブロックチェーンの活用先としてよくあげられます。
このあたりの分野は実証実験なども進んでいて、将来的にはブロックチェーンが活用されるようになるかもしれません。
B氏:それぞれの分野ごとに活用方法は異なりますが、特に注目されているのはブロックチェーンのトレーサビリティの部分でしょうか。
トレーサビリティというのは追跡可能性のことで、たとえば製造業で部品がいつどこで作られて、どういう経路で輸送されたのかといった情報を管理するためにブロックチェーンを使います。
A氏:将来的にはそういう使い方が広まる可能性はありますが、しばらくは暗号資産やNFTを使った金融分野が中心になると思います。たとえば暗号資産を利用したレンディングサービスなどですね。
あとはSTOという言葉が一時期話題になりましたが、証券などのブロックチェーン上でトークンとして発行して、その取引などを簡単に行えるようにするというような、これまでの金融システムの利便性を高めるようなサービスが今後増えていくと思います。
——ありがとうございました。最後に、ブロックチェーン開発に関わっていて楽しい部分と、今後のブロックチェーン業界に期待することを教えてください。
A氏:とにかく技術の進歩がめざましく、毎日のように変化が起きるという点ですね。ブロックチェーンに関連する技術を学ぶことが楽しいというだけではなく、ブロックチェーンに関連するあらたなプロダクトに感心することも多いので非常に刺激的です。
B氏:私はブロックチェーンに興味を持っている人と出会えることが楽しいですね。そういう方とNFTの価値について語り合ったり、ブロックチェーンによって起きる変化について議論する時間がとても好きです。
ブロックチェーンといえば暗号資産の投機的な面ばかりが注目されがちですが、最近になってようやく外部の方からも技術に対する関心が高まったように感じます。ここからは、社会の役に立つプロダクトを生み出して、ブロックチェーンの価値を多くの方に知っていただくことが重要かと思います。
個人的には、ウォレットだけで世界中の人と送金しあえるようになったという点だけでも、ブロックチェーンはすでに世界を大きく変えていると感じていますが、これからさらに世界を変えていけるようなプロダクトが誕生してほしいですし、自分もそういうプロダクトに関わりたいと考えています。
〈関連記事はこちら〉
「年収は?」「仕事環境は?」意外と知らない「現場」のハナシ。——BlockChain Engineer前編
不足するブロックチェーンエンジニアは高待遇——BlockChain Engineer 中編

20代男性。ブロックチェーンエンジニアとして活動しつつ、NFTプロジェクトなどにも参画した経験を持つ。

30代男性。複数のブロックチェーン開発企業を経て現在はスタート アップ企業に勤務。主にバックエンド開発を担当している。