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“MMORPG”をメタバース化してみる 後編
ゲームの中だけで考えるのではなくて、
ゲーム外までを含めたビジネスとして、
NFTや暗号資産を活用する
B氏「個人やギルドで固有の島を購入して、好きなものを建てたり農業をしたりできます。もちろん島はゲーム内通貨で購入できますが、たとえば特殊な物質が算出される島をNFTとして販売すれば、多くのユーザーが買おうと思うでしょうね」
A氏「基本的には、希少なモノをNFT化するという方向で考えていくのが良さそうですね。では、暗号資産をゲームに取り入れるとしたらどういう方法があるでしょうか?」
B氏「課金通貨であるゴールドを暗号資産にするのが自然でしょうね。アルビオン・オンラインではゴールドとゲーム内通貨シルバーの換算レートが決まっているのですが、これも需要と供給に応じて変動する仕組みになっています。
暗号資産であるゴールドの価格にあわせてシルバーとの換金レートを変えるような仕組みを導入できれば、ゲーム内経済を壊さずに済みそうです。
面白い点としては、ゴールドを払ってシルバーを獲得するだけではなく、シルバーをゴールドにも変換できるという点です。なので我慢強い方なら無課金でもシルバーをためてゴールドに変換し、定期プレミアムを購入できます。まあ、ものすごく時間がかかるので非常に非効率ではありますが」
A氏「なるほど。たとえばゴールドを暗号資産にすれば、それを外部の取引所で売買できるようにして、無課金でも最終的にはお金を稼げるという仕組みが作れますね。メタバースというよりもブロックチェーンゲーム的な発想ではありますが、『Play to Earn』と呼ばれる仕組みがそれにあたります」
B氏「ええ。ただし、お金を稼げる仕組みについては、ゲーム開発者としてはかなり疑問があります。ブロックチェーンゲームに関しては『ゲームをプレイしてお金を稼げるなんてすばらしい』みたいな声をよく聞きますが、それって本当にすばらしいことなんですかね?」
A氏「どういうことですか?」
B氏「リアルなお金を稼げるという要素は、ゲーム的な楽しさを損なうものだと思うんです。一般的なゲームの場合、たとえば強力なボスを仲間と力を合わせて倒した時に大きな達成感を得られます。そしてボスを倒した報酬としてレアな武器が手に入ったりしますよね。
本来、ゲームの面白さというのはこの達成感なんですよ。ところが、ゲーム内資産を換金できる場合は『ボスを倒して手に入れたこのアイテムはいくらで売れるのか』という面が重視されてしまうと思うんですよね。
クリアしたという達成感よりも、とにかく金額の多寡が喜びに直結してしまう気がします。ゲーム開発者としては、暗号資産やNFTという要素があるのは構いませんが、その存在理由が『お金に換えられるから』だけではプレイヤーを集められないと思います」
A氏「たしかに、『お金を稼げる』ことばかりをアピールしているようなブロックチェーンゲームは、 すべて短命で終わっています。継続的にプレイヤーを集めるようなメタバースであるためには、むしろ『稼げる』要素はないほうがいいのかもしれませんね」
B氏「たとえば長年プレイ してくれたユーザーが引退する時に、自分が集めた貴重なNFTアイテムをほかの人に譲って、ほんの少しだけお金を手に入れられるという程度のものでしたら、問題ないと思います。少なくとも『10日プレイすれば時給千円くらい稼げる』というような、ブロックチェーンゲームでありがちな収益計算のようなものが成り立たないようにしたいですね。
お金に換えられる ことは副次的な要素であって、基本的には『お金を払ってでも欲しいモノ・手に入れたいモノ』がゲーム内にあり、 そのためにプレイヤーは喜んでお金を払うというくらいのモチベーションがないと、長期的運営は厳しいと感じます」
A氏「ここまで聞いていて、もしかするとMMORPGにNFT や暗号資産という要素を追加することに、あまり大きな意味はないのではないかと思えてきました。NFTや暗号資産がなくてもゲーム内の市場経済は成り立っていますし」
B氏「人によって意見がわかれるところだと思いますが、今のところゲーム内だけをみれば導入するメリットはそれほど多くはないと感じます。MMORPGというジャンル はすでに成熟していて、システムとしては完成形に近いからです。ただし、ゲーム外の部分ではNFTや暗号資産を 導入することでメリットが生まれる可能性は十分にありそうです」
A氏「ゲーム外というと?」
B氏「少し生々しい話になってしまいますが、『メタバース』 や『暗号資産』、『NFT』といったキーワードは、それだけでも大きなプロモーション効果があります。ゲームは次から次へと生まれていますから、少しでもほかのタイトルと差別化するという意味で、これらの要素を導入することは無駄ではありません。
また、暗号資産やNFTは開発資金の調達に使えるという側面がありますよね。近年ではゲーム開発のためのクラウドファンディングもよく行われていますが、暗号資産やNFTのセールがクラウドファンディングに代わるものとして普及する可能性は十分にありそうです。この点は、特に潤沢な資金を用意することが難しい企業にとっては魅力でしょう」
A氏「Web3.0の発明の1つは、誰もが自由にトークン(暗号資産・NFT)を発行して資金調達できるという点であるともいわれています。それを活かして、ゲーム開発のための資金調達をするということですね」
B氏「そのほかにも、複数のゲーム間でNFTを移動するといった使い方も想定できます。たとえばある大手ゲーム企業が、自社サービスすべてで共通して使えるアイテムをNFT化することで、プレイヤーを囲い込むような施策ができるようになるかもしれません」
A氏「ゲームのなかだけで考えるのではなくて、ゲーム外までを含めたビジネスとして、NFTや暗号資産を活用するということですね」
B氏「今のところはそれが現実的かなと思います。ただし、 これはあくまで現在のMMORPGをベースに考えた場合なので、今後NFTを活用したあたらしい発明が生まれる可能性は大いにあるでしょうね。たとえばユーザーが独自にNFTアイテムを作って、その流通量をコントロールするといったように、NFTを使っているからこそできるあらたな遊びが生まれるかもしれません」
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“MMORPG”をメタバース化してみる 前編(6月12日掲載)

◉A氏
Profile│元ゲーム会社勤務のゲームライター。Web3.0業界やブロックチェーンゲーム・メタバースに関心をもって動向を追っているが、従来のゲームと比べて魅力的ではないと感じている。

◉B氏
Profile│某大手ゲーム企業のディレクター・プランナー。MMORPGの開発・運営に長期間携わっている。