
Financial Crisis シリコンバレーバンク破綻の見方 ITバブル崩壊の原因と日本への影響 後編
日本への波及リスクは限定的と予想
米国と日本では預金者の「質」が異なるのも理由のひとつ
——今後、リーマンショックのような世界的な金融危機に拡大するのか。FRCはさておき、ほかの銀行は取引先がITスタートアップや暗号資産関連企業だったことが背景にあり、限定的だと考えています。
「同感です。今回はコロナ禍で起きた事象であり、余剰資金をITスタートアップにつぎ込むといったマネーゲーム的な側面も否定できません。米財務省は本来では25万ドルまでしか保護されない預金を全額保護するなど、異例の措置も取りました。FRBが金融機関に資金を供給する枠組みも設け、銀行の連鎖破綻を防ぐ狙いです。
一方、米国は依然として高インフレに悩まされていて、FRBは難しいかじ取りを迫られます」
——利上げ=金融の引き締めは、ITスタートアップにとって逆風です。実際、2021年に752件あったナスダックのIPO件数は、2022年には161件にまで減りました。
「借入のハードルが高くなり株価も低迷、IPOも減るなど、ITスタートアップにとって逆風が吹き荒れています。投資家からしても、こういった時期はリスクのある成長企業より、株価が安定して推移し配当が出る企業に投資したいとの心理が働くでしょう。
何より、高利回りなら株式などではなく、預金や国債といった安全な場所に資金を置く方が得策です。米国の金融政策が利上げから利下げに転じない限り、ITスタートアップの成長やそれに対する投資は鈍化するかもしれません。
ただし、ハイテク株で構成されるナスダック100は、これまでの金融引き締めと債券金利上昇の影響による下落からの反動で、指数は大きく戻っています。投資をする場合は、こういった情報にも注視すべきでしょう。
一方、先ほどと矛盾する動きをみせているのが暗号資産です。利上げにより暗号資産からほかの資産へシフトしたと述べましたが、3月の銀行破綻以降は状況が変わり、ビットコインであれば270万円台(3月10日)だったのが、5月中旬には363万円台にまで価格を上げました。
度重なる金融不安から暗号資産を買い戻す動き、ドルを中心とする法定通貨の根強いインフレリスクが、このような状況を生んだのかもしれません。預金者からすると、不安を払拭できないまま全資産を現金として銀行に預けておくのではなく、一部を暗号資産で持っておいた方が安心という心理があるのでしょう」
米国株の復調は続くのか?
ナスダックの主力銘柄を注目するとみえてくる「もの」がある
——GAFAMといったビッグテックは、今後どうなっていくでしょうか。
「米国の大手テック企業では昨年秋以降にレイオフが相次ぎ、GAFAM(Google=Alphabet、Amazon、Facebook=Meta、Apple、Microsoft)だけで約5万人、米国のテック企業全体で約24万人が解雇。今年に入っても流れは変わらず、1月だけで10万人超がレイオフされました。
コロナ禍でEC取引が急増し、ビッグテックを中心に米国のIT企業は増収増益を記録したが、アフターコロナでも同様の成長は期待できず、抱え過ぎた人員を削減したい考えです。また、GAFAMはすでにグローバルで事業を展開していますが、ビジネス自体の成長性も鈍化し、競争も激化しています。
ただし、各企業はAI、とりわけChatGPTに代表される生成型AIの開発・巨額投資を進めていて、これらが実を結べば収益に大きく貢献するはずです。
たとえば、MicrosoftはChatGPTを開発するOpenAIに10億ドルを投資、Googleは5月に生成型AIの「Bard」をリリースしました。AmazonやMetaもAIの活用を進めています。こういったあらたなビジネスのタネにも注目したいものです。
これを示すかのように、Alphabetの株価は5月11日に急上昇しました。前日にAIを活用するプレゼンを行ったことが幸いし、2日間の株価上昇率は9%。時価総額は1兆4,800億ドルに到達しました。Microsoftの株価も2023年以降は堅調に推移し、5月半ば時点で年初来高値を記録しています。
Appleは今年4月、米国国内でクレジットカード「アップルカード」のユーザーに対して、金利4.15%での預金サービスを開始しました。これは米国の平均金利0.3%台の10倍以上で、驚異的な水準です。
金融不安があるからこそ安全な預金先が求められ、経営基盤が盤石なAppleだからこそ提供できるサービスといえます。Appleとしても、iPhone以外のビジネス基盤の構築は必須で、金融事業に活路を見出したいのかもしれません。
こういった現実を目の当たりにすると、GAFAMとITスタートアップを一括りにITバブルの終焉と片付けることはできません。GAFAMの成長は、今後も期待できると思います」
——米国発の金融不安ですが、日本は今後どうなるでしょうか。
「あらたに就任した日銀の植田和男総裁は金融緩和を継続することを明らかにしています。利上げはまだ先のことで、米国と同じようなことは起きにくいと思います。日本への波及リスクも限定的と考えるのが妥当でしょう」
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