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2023/06/04

地方創生×DX——「自治体DX」の成功と失敗、抱える問題点 後編

「コンサルタント」と「レガシーシステム」がDX推進における問題をさらに複雑にし、さらなる障壁として立ちはだかる

一方で、具体例は避けるが、DX化がうまく進まない自治体も存在する。その理由の1つとして大きいのは、「アナログ文化の根強さ」が関係している場合もある。

そもそも地方自治体は全体的にアナログの業務フローが根強く残っている場所が多い。DXに限らず、デジタル化全般に職員や役職の抵抗感があると、当然DXの推進は滞ってしまうことになる。

またDXは本来システムや業務フローを大きく変えることを目的にするものだ。そのため、アナログ・デジタルに関わらず「変化を嫌う」気風が強い自治体の場合には、同様にDX化が進まないことになる。



またDXに対する理解が根本的に不足している場合もある。地方自治体の場合は、競合他社との市場競争を行う必要がある民間企業とは異なり、積極的に新技術を取り入れる必要がない場合も多い。そのため自治体全体でDXに対する意識や理解度が低く「そもそも何をどうしたらいいのかわからない」という場合も存在する。

またDXそのものに対する理解や意欲はあっても、ITやデジタル分野に詳しい人材がいない、という場合もある。DX化自体は推進したいが、具体的にどうしたらいいかがわからない、というパターンだ。実際の具体的な設備の構築などは、発注業者に任せれば問題はない。

しかし、デジタルやITの知識に乏しい場合、「いったい何ができるのか」「どういった変革が行えるのか」のイメージがつかめず、DX化の方針を立てられない、ということもあり得る。

こうした状態で半ば無理やりDX推進を行っても、結果的に「失敗」となることも少なくない。特に厄介なのが、DX推進以前から問題視されている地方創生の「コンサルタントバブル」という状況だ。

これは2014年の閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に端を発している。この戦略策定により、地方自治体には「地方創生」を名目に多額の予算が導入され、各地方自治体はこの予算を使ってあらたな取り組みを行うべく、地方創生に携わるコンサルタントに依頼することが相次いだ。

従来から自治体の地域活性化分野ではコンサルタントに外注することが常駐化していたことも拍車をかけた。

そもそも自治体の地域活性化には全国各地で入札が行われている。しかしこの入札が終わってから、落札に成功したコンサルタントが、別地域の成功した地方創生事業にヒアリングに行く、ということも多い。この順序が逆転した現象が通例となってしまっている。

もともと地域で事業を行い、才能がある人間の場合には、地方創生などという行政の動きの前に、自分から事業を展開していることが多いことは想像に難くない。案件を受託してからヒアリングに行くという行為自体に疑問が残るのである。

こうしたコンサルタントのなかには、実際には素人同然で基本的な知識もないものも多いという。そしてそのコンサルタントが、ヒアリングしてきた成功事例を真似て事業案を出すこともしばしばある。

地域活性化は、基本的にその土地にあった戦略を考えなければ成功しない。どこか別の地域における成功事例の劣化コピーを持ってきても、当然成功するとは限らないのだ。

しかし、この地域活性化という分野では「補助金」を使って事業そのものをでっち上げることはできるため、こうしたコンサルタントの出現が後を立たないのだという。

そして自治体DXにおいても、同様のことが起きているという。「DX推進」といわれても知識のない地方自治体が、その方針をそのままコンサルタントに投げてしまうという事例である。

そもそも、地方創生にしてもDX推進にしても、それぞれの自治体において事情や住人たちの要望などが異なっているのが当たり前である。それを外から来たコンサルタントに丸投げすること事態に無理があることは明らかだろう。

こうしたコンサルタントによる失敗の主な問題点としてまず「需要の不一致」がある。それぞれの自治体の中で業務フローは異なり、地域の事情も異なれば住民の要望も異なる。こうしたなかでデジタル技術を用いて業務やサービスの刷新を行うには、それまでそこで仕事を行ってきた人間が主体的に変革に取り組む必要がある。

自治体がチームとして問題解決のために知恵を出し合い、自ら実行することが、DX化を成功させるための糸口になるのである。

特にDX化はツールを導入するだけのIT化とは異なり、システムや業務フローそのものを改革するもの。その特性上、客観的な第三者であるコンサルタントの意見よりも、実際に現場で働く人間の声が必要なのである。

加えてこうした問題点には、地方自治体の財源が税金であることも少なからず関係している。民間企業であれば、多額の予算をかけてDX化を推進したのにも関わらず、業務の効率が下がりでもした場合には経営が大きく悪化する。そうして労働環境が悪化するのであれば、コンサルタントへの責任追及も重くなる。

しかし地方自治体においては倒産することもないため、コンサルタントが付き合いやすく、とりあえずの要望を聞いてくれていれば、何となく「DX化が推進した」のだから仕方ないと責任追求の手を緩めがちになってしまうのである。

本来であれば、DX化が適切に行われれば業務フローのタスクは減り、人材にもゆとりができる。公共サービスに関わる作業量なども減らすことが可能になるので、全体的にサービスの質の向上、場合によってはサービス料金の値下げも行えるはずだ。

しかし、こういったさまざまな理由でDX化に失敗した場合には、むしろ業務タスクは増加し、結果的にサービスの質低下を招いてしまうことも少ない。実際に、こうした現象は地方自治体だけではなく、銀行などを含めたさまざまな民間企業でも見受けられている。

加えて、日本は80年代からデジタル化やIT化には力を入れてきた背景があり、それが返って現在のDX化を邪魔する結果になってしまっている場合もある。PCやデジタル化の初期に組み込んだシステムを長年にわたり修正、改善を繰り返して使用し続けてしまったために、システムが複雑化し大胆な全体的な刷新ができなくなるという問題だ。

これは一般的に「レガシーシステム化」と呼ばれている。DXを無理に推進し、このレガシーシステムを無理に改変すると、既存のコンピュータシステムがブラックボックス化してしまい、そこに蓄積されているデータが活用できなくなる可能性なども存在する。

一方でこのレガシーシステム化はかねてから問題視されており、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、日本全体のレガシーシステム化がこのまま進むと、2025年以降には毎年12兆円の経済的損失が発生するという可能性を発表した。

これは「2025年の崖」と呼ばれており、この2025年の崖問題が、国内でDXという言葉とその推進が広まるきっかけとなったのである。レガシーシステム化問題を解決するためにはDX化が必要だが、レガシーシステムがある故にDX化が進まない、というある種のジレンマにはまっている一面も存在する。

最後に、海外の成功事例に触れておきたい。ドイツでは、デジタル技術を用いてエコシステムや地方創生ソリューションを作る「デジタルビレッジ・プロジェクト」が2015 ~2019年の間に行われていた。

このプロジェクトの1つに「ポケットビレッジ」がある。これはニュースメディアと連携し、デジタルビレッジに関するニュースが閲覧できるアプリを活用することで地域コミュニティの活性化を目指したもの。

住民同士、そして住民と行政がスマートフォンでポケットビレッジを通してつながり、地域イベントや自動車の相乗りなどの情報を共有できるようになった。この結果、地方経済の発展やSDGsにも成果が上がるという、世界的なDXの成功例となっている。


成功した場合にはサービスが向上するが、失敗すれば悪化する。諸刃の剣でもある根本的な改革がDX



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村上 弘樹