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AIに美意識はあるのか? 過熱と流行により取り残されつつある疑念

Noriaki Yagi
2023/11/10

—はじめに

ファッションのトレンドは、あらかじめ決められている。国際流行色委員会の加盟国17ヵ国が5月に2年後の春夏、11月に2年後の秋冬カラーを決定している。つまり、今から2年後の春夏のカラーというトレンドは決定されているということだ。

一方で、ユーキャンが行なっている流行語大賞にノミネートされる流行語をみると、全てのトレンドが事前に決められた枠組みのなかで造られていくものではないこともわかる。

今年ノミネートの「蛙化現象」は、グリム童話の「かえるの王さま」が由来のようだ。1,800年代に造られた物語は形を変えてZ世代にうけている。

ほかにも、生成AIやChatGPTはあたらしいテクノロジーとして、その操作性と技術力が故に多くの人が認知、活用することとなりノミネートに至るまで認知が広がった。トレンドには、事前に決まっているものとそうでないものがあるようだ。

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—流行はマスアダプションを意味するものでもない

少し前、2021年の流行語ノミネートには、「NFT」というワードがリストされていた。同年のNFT領域は、米国のアーティストビープル氏のNFTが約75億円で落札されたり、Twitterの創業者ジャック・ドーシー氏の最初のツイートが、3億円以上の値をつけたりした。

しかし、「NOT A HOTEL」等rのNFTを活用した取り組みや、大阪万博で活用される予定のSBTのように、多くの人に活用され始めるには約2年の歳月がかかった。

流行語大賞にノミネートされるような言葉であっても、ノミネート時点で、実際に活用される技術になっているのかどうかはまた別の話のようだ。


—ChatGPTの登場で加熱したAI開発競争

2023年の流行語には、ChatGPTや生成AIもノミネートされている。ChatGPTを開発したOpenAI社の企業価値は10兆円を超えるといわれ、GoogleやMicrosoftも後を追うように開発競争に加わった。

一時期、暗号資産市場を騒がせたイーロン・マスク氏も例に漏れず参加する動きをみているといかにAI領域の将来的なポテンシャルがあるかがわかる。

世界のAIの市場は現在の70兆円規模から、2030年までに300兆円規模に成長にまで成長するともいわれている。AI市場は今後数年の間で大きな成長と動きがある市場ということだ。


—AIの活用が急速に広まったのはなぜか

1960年~1970年代にパズルの推測等を目的としてAIは研究されていた。2000年代後半に、高度な並列処理能力を持つGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)が、AIの深層学習に適していることがわかり、長い歳月をかけて、深層学習(ディープラーニング)の技術は発展し、ChatGPTのような新型生成AIが誕生した。

現在の生成系AIはコストがかからず利用することができ、優れたUI・UXが提供できたことも人気を博した理由だろう。


—AIに美意識はあるのか?

前置きが長くなってしまったが本記事の本題、「AIには美意識があるのか」について掘り下げてみよう。

英国の大学評価機関のクアクアレリ・シモンズが毎年9月に公表している世界の大学ランキングのアート・デザイン部門で、毎年高評価を受ける英国のロイヤルカレッジオブアートという美術系の大学では、グローバル企業の幹部トレーニングというプログラムが10年ほど前から人気のようだ。

ビジネスにおいて、これまで培われた論理的思考に加えて、デザイン的な思考がグローバル企業のトップ層に重要視されはじめている事を暗に示していると思う。

AIを活用する人々は増加し、デザイン思考も兼ね備えた優秀な人材が個人で大企業に対抗するプロダクトを世に送り出すことがあってもおかしくないが、そもそもツールとして活用されるAIが美意識を持つことはあるのだろうか。

「美意識」を広辞苑で引くと、「美に関する意識。美に対する感覚や判断力」とある。一旦この前提を頭の片隅において展開させたい。

山口周氏が書かれた「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」という書籍には、「正解のコモディティ化」「自己実現欲求を満たす消費への移行」「システムの変化にルールの制定が追いつかない」という3つの主な理由から、グローバル企業がデザイン思考を兼ね備えた人材を重宝する動きが出ているのではないかという考察があった。

AIは「正解のコモディティ化」を加速するツールとして、役目を担っているように思えるが「美意識」の定義に立ち返ってみると、「美に対する感覚や判断力」とある。ネット上にあるデータを参考に、あたらしいアイディアを提案するAIの行為は、一定の判断力を持っているともいえるのではないだろうか。

—ハルシネーション(人工知能の幻覚)

「視覴」という本来存在しない単語が話題になった。ChatGPT等のAIツールを活用して造られたと思われるネット上の記事において、「視覴者」という使い方が散見される。

漢字の組み合わせや使われ方から推測するに、「聴」を「覴」としたAIのアウトプットがあったと推察できる。これは、ハルシネーション(人工知能の幻覚)の典型例としてよく取りあげられる。

しかし、これをハルシネーションとするか、AIによる創造とするかは、非常に判断が難しいと思う。少なくとも現在の日本語のルールでは、「視覴」という言葉は存在しないが、ルールの制定が間に合っていないという捉え方もできるのではないかということだ。

日本語の「もったいない」という言葉に相当する英語が存在しないとされているが、明日英語でも「もったいない」に相当する表現が現れ、使用されるようになっても何もおかしなことではないだろう。


—人間と戯れるAI

以上のことから、創造することも可能で一定の判断力があるAIには「美意識」があると判断しても良いと思う。これはあくまで意思ではなく意識があるということに念を押しておきたい。

現時点では、AIが何かをしたいという考えを持っているのではなく、自分が何をしているか理解をしている状態にあるだろうということだ。

▶︎ChatGPTより


面白い例がある。1+1=という数式に対してChatGPTは2という回答を出す。しかし、3だという返答を返すと質問者の意見も汲み取ってくれる回答を返してくれる。

直後、同様の質問を投げると回答は2だ。一時的に意固地な質問者に対して、最適な解を知り、誤りであることを知った上で合わせていることがわかる。

自分は何をしているか理解しているという「意識」がAIに存在していることの裏付けには十分であると思う。

—AIに残された課題の解決とシンギュラリティ

諸説あるが、シンギュラリティ(技術的特異点)と呼ばれる人間の脳と人工知能の臨界点が訪れる日は、2045年までにくるという説が有力だ。現時点で残されたAIに関する課題の解決が今後のAIの発展のカギを握っているだろう。


AIの課題
・AIの選択に不具合が起こった場合の責任問題
・セキュリティとプライバシー問題
・軍事利用や肖像権侵害等の倫理的な問題


2045年に起こるとされるシンギュラリティは個人的に、「人間の脳と同レベルの人工知能の誕生」ではなく、「意思を持った人工知能の誕生」に思えて仕方がない。

—ソフトバンクグループ 孫正義氏も語るAI領域の未来

2023年10月4日に行われた「SoftBank World 2023」において、ソフトバンクグループの孫正義氏は、人類叡智総和の10倍を備える人工知能AGI(Artificial General Intelligence)の登場が今後10年以内に起こるといい、次の10年では、人類叡智総和の1万倍の叡智を備えたASI( Artificial Super Intelligence)が登場すると語った。

そして、金魚のニューロンの数が人間のニューロンの数の約1万分の1だとして、20年以内に人工知能と人間の脳の関係は、今の人間と金魚くらいの差が生まれる。「活用するのか、取り残される金魚になりたいのか。日本よ、目覚めよ。」と熱いメッセージで締めくくった。

現在のAIがシンギュラリティの序章であるかのように感じるスピーチの内容であった。


—まとめ

現時点ではAIにもたくさんの課題が残されている。これらの解決がAI発展のカギを握っており、シンギュラリティ(技術的特異点)と呼ばれるXデーに一歩ずつ発展を続けている様相だ。

加速度的に発展する次世代技術にあったルール制定のフローの効率化で、今後起こりえるAIの急速な発展を起因としたイレギュラーな問題にも早期の対応ができるような体制は必要だ。

画像:Shutterstock



Profile

◉Noriaki Yagi
大学在学中に飲食業務に従事。その経験から、飲食店のコンサルティング事業及び、アミューズメント領域への人材派遣事業を立ち上げ、代表に就任。同時に自身のブランドを確立させる目的からSNS運用を始める。SNSの運用では、合計フォロワー数1万人を達成後に認知度の拡大を受け、自身のアパレルブランドを立ち上げる。2021年9月に株式会社J-CAMに入社。YouTubeやTwitter運用に従事した後、2022年4月より編集長に就任。2023年3月に「Iolite(アイオライト)」を創刊。



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