
誤報に躍る暗号資産市場 これからのメディアのあり方と存在意義とは——
—はじめに
自身もメディアに身を置く者として、このような内容で原稿を書くことは気が進まない面もあった。ただ、一端の編集者としても、Webメディアや出版業界に携わらせてもらっている者としても、メディアを運営する上で考えていることについて、表現することは許されていると認識しており、今に至る。
この文章は組織を代表するモノではなく、私個人が考えていることであるということを汲み取っていただき、読み進めてもらえれば幸いだ。また、特定の組織や個人に対して批判的な意見を向ける意図もないことはご理解いただきたい。
◉「編集長Focus」
次世代テクノロジーや金融・経済のトピックを題材とするビジネス誌、「Iolite(アイオライト)」の編集長が、今話題のトピックと最前線を追います。
—誤報が世界に与える影響
10月16日、コインテレグラフ英語版より、ビットコインの現物ETF承認という報道がX(旧Twitter)を通じて行われた。
しかし後に、コインテレグラフはこの報道が誤報であったと訂正し、謝罪文と共にX上での誤報に至る経緯が記された記事を英語版、日本語版共に掲載された。
記事内の経緯について書かれた項目には、テレグラムチャンネルから信憑性の欠ける情報が社内のSlackチャンネルに共有され、別の担当者によって事実確認をせずに、Xに投稿された事実がテレグラムのスクリーンショットと共に記されている。
またこの行為は、コインテレグラフのソーシャルメディアの運営プロセスに違反するものであったことも付け加えられていた。
▶︎CoinMarketCap参照
この誤報を受けて、16日には最高値30,625ドルを付けるも訂正の報道後に価格は戻し、終値28,480ドル近辺と落ち着いた。
しかしその後も、米金融当局のハト派的な発言や米株の上昇等が味方し、10月23日には36,743ドルの年初来最高値を更新する。
確実視されつつあるビットコイン現物ETF承認を目標に、さまざまな材料を織り込み結果として現在も35,500ドル近辺で推移(11/2現在)するなど堅調だ。
メディアにおける事実確認は、最もセンシティブな課題で取り扱いの難しいモノだ。
こと暗号資産という題材になれば、どのようなメンバーが属しているのか不明なメディアも存在し、まれに事実と異なる報道をなかったことのように削除してダンマリを決めるメディアもある。
そのような環境でも、今回の一連の出来事を謝罪と共に正確に伝える努力をしたコインテレグラフの対応については、学ぶことが多かった。
—大手メディアでも後味の悪い対応
ウォール・ストリート・ジャーナルは、ハマス関連の武装集団が数千万ドル相当の暗号資産を受け取り、現在の中東の戦争を支援するために使われていると報じた。
しかしブロックチェーン分析を手掛けるチェイナリシス等がこの報道に反論し、資金提供は数千ドルの範囲であると述べた。
ウォール・ストリート・ジャーナルはこの反論に反応せず、現在も訂正していない。
この出来事が要因となったかどうかは定かではないが、この報道を受けてエリザベス・ウォーレン上院議員をはじめとする有名議員たちが、米国の暗号資産に関する規制強化の動きをおこなったともいわれている。
—ChatGPT、新機能実装でメディアの報道のあり方と存在意義が問われる
情報過多の時代といわれ情報が錯綜する昨今、メディアの収益構造がゆえの根深い問題であるとは感じつつ、暗号資産、ブロックチェーン、AI等の比較的あたらしい技術に関する情報の取り扱いにはより一層、細心の注意が必要だと改めて考えさせられた。
そんななか、テクノロジーによる代替も少しずつ進んでいる。ChatGPTは10月、有料会員向けではあるものの、リアルタイムの情報を加味して参照する機能を実装した。
今まで、2021年9月までの情報にしかアクセスできなかったChatGPTは、最新の情報にアクセスしてリアルタイムで速報性のある記事については劣っているとされていた。
想定されていたことではあったが、いよいよ最新の情報にも対応し始めたということだろう。これにより、少なからずニュースサイトが淘汰されていくことは想像するに容易い。
—検索エンジンにも革命か
GoogleのSearch Labsというテスト部門がデモを行なっている「生成AIによる検索体験(SGE)」では、検索に対する回答としてソースへのリンクは表示されるものの、AIによって生成された回答文が同時に表示されるようだ。
これは、より簡易的な情報収集であればあるほど、記事に遷移せずとも情報取得することができる未来を意味していると思う。SEO(Search Engine Optimization)対策のように、Googleの仕様にOnline記事を最適化する手法が機能しなくなる未来まである。
—情報媒体に求められる独自性とは
大手メディアのように組織的に情報を配信している企業もあれば、個人でSNSを活用して情報配信を行なっている方々も多いと思う。現在Online記事は、Googleのアルゴリズムに則って独自性を含めてランク付けされている。
誰でもネットを漁れば有益な情報配信を行う媒体になり得る今、最後に人を惹きつけるのは、独自性を生み出す物書きの人間性なのかもしれない。物書きはクリエイターであるという認識が改めて認められつつあるのだろう。
画像:Shutterstock
◉Noriaki Yagi
大学在学中に飲食業務に従事。その経験から、飲食店のコンサルティング事業及び、アミューズメント領域への人材派遣事業を立ち上げ、代表に就任。同時に自身のブランドを確立させる目的からSNS運用を始める。SNSの運用では、合計フォロワー数1万人を達成後に認知度の拡大を受け、自身のアパレルブランドを立ち上げる。2021年9月に株式会社J-CAMに入社。YouTubeやTwitter運用に従事した後、2022年4月より編集長に就任。2023年3月に「Iolite(アイオライト)」を創刊。