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toshinao-sasaki vol4佐々木俊尚
AI
メタバース
金融・経済

佐々木俊尚の考える「AIと人間の"対話"」 Tech and Future Vol.3

村上 弘樹
2023/09/28

AIへの指示についても、人間同士の付き合いにおいても、「論理」が重要視されるようになる

佐々木俊尚氏にテクノロジーと社会の未来を訊ねる連載企画。
今回のテーマはAI、そして人との「対話」

——今回はご著書である『AIの未来からビジネス活用術までChatGPTについて佐々木俊尚先生に聞いてみた』が発売されたこともあり、改めてAIと人間の「対話」についてお聞きできればと思います。まず、今年も後半に入り、生成AI全体の話題も落ち着いてきたと感じるのですがいかがでしょうか。

佐々木俊尚(以下・佐々木):ガートナーという米国の会社が毎年発表している『ハイプ・サイクル』というものがあります。あたらしいテクノロジートレンドが出てくると、最初は期待度がマックスな『過度な期待』のピーク期、熱狂期みたいなものがあり、その後必ず幻滅期がやってきて、幻滅期が過ぎた後に初めて啓発期、普及期に入り、本格的な生産性の安定期に入ります。

8月後半にそのハイプ・サイクルが発表されて、ChatGPTや生成AIはまさにそのピーク期で、メタバースが幻滅期という状況です。だからChatGPTは今年後半ぐらいから来年ぐらいにかけて幻滅期に入る可能性もかなりあるだろうなと。

——現状の生成AIにおける課題にはどのようなものがあるでしょうか。

佐々木:AIが間違った回答をする、いわゆる『嘘を吐く』という『ハルシネーション』という問題があります。これに関しては、ChatGPTがインターネット全体を学習した後、対策として人力で、ヘイトや差別につながるもの、フェイクニュースなどの怪しいデータを取り除いているんですね。

しかし、取り除いたデータだけでもその量は膨大で、それを完全に取り除く、というのは難しいんじゃないか、という話はされ続けているわけですよね。

また、少し前に話題になったんですが、『視覴(※)』っていう単語があるんです。それは本来存在しない単語で、ChatGPTが生成したんです。でもその単語で検索すると、大量にWebページがヒットする。なぜかというと、それだけChatGPTの生成したページがすでに蔓延しているという話なんですね。

ここで問題になってくるのが、ChatGPTはインターネット上のデータを学習しているわけです。そのネット上のデータはもともと、人間が作った物のはずだったのに、AIが作ったWebページがどんどん増えてくると、それをまたChatGPTが学習する。だから自分自身を学習し続けるだけになってくる。そうすると一体、この先何が起こるのか予想がつかない。

もう1個の問題として、ChatGPT、対話型AIに質問すると、その入力したデータやテキスト内容も学習されてしまう。そうすると、機密情報などを含めて質問すると、それも学習されて他の会社の回答に含まれてしまうということが起きます。だから日本企業でも7割程は、ChatGPTは会社で使わない方針という調査結果とかも最近出てますね。

この問題に関しては、Microsoftの365 Copilotや今後リリースされるWindows Copilotにおいて、著作権や知財の処理が滞りなく行われる仕組みになっています。こうして問題が回避されて『ツール』として使えるという認識が広まれば、幻滅期を乗り越えて、本格的な普及期に入ってくる可能性はあると思います。

※視覴
本来存在しない単語。ネットで検索すると、AI出力されたと思われる文章内において、「視覴者」という使い方が見受けられる。「聴」を「覴」としたAIのアウトプットは、ハルシネーション(人工知能の幻覚)の典型例として話題になった。


AIの「ツール」としての実用性が広まることが「幻滅期」から「普及期」へと進むためのカギ。

——Windows CopilotはOSを対話型で操作するというUI(ユーザーインターフェース)の導入で話題になっています。今後はこうしたUIが一般的になっていくのでしょうか。

佐々木:PCにしてもスマートフォンにしても、マウスやタッチスクリーンを使ったGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)だったわけです。そしてスマートフォンの先のUIは何なのかというのはずっと議論されてるんですよね。

ChatGPTが登場する少し前までは、1個はジェスチャーでもう1個はスマートスピーカーにみるような音声入力だといわれていました。現状のスマートスピーカーのAIはあまり賢くはないわけです。でもあの中身がChatGPTになればそれも賢くなる。だからそこが融合して音声もしくは言葉のやり取りというUIが主流になっていく可能性は高いと思います。

もうすでにChatGPTも音声入力はできるようになってきているので、テキストと音声でコミュニケーションをとるということ自体が、すべてのUIの根幹になる。昔のSF映画でみたような、コンピューターに話かけると返事をしてくれるのが当たり前になってくるわけです。

——現段階としては、AIにどのように指示を出すか、ということはやはり重要なポイントなのでしょうか。

佐々木:そうですね。よくいわれているのは『質問をする力』こそが次世代にとってとても重要な能力になるだろうということ。

『プロンプトエンジニアリング』みたいな言葉も出てきていますが、今やっているプロンプトエンジニアリングは条件設定の仕方であったりとか、すごくChatGPTに限定されたやり方で細かい話をしているんです。あれももう少しGPT4が進化していけば、変わっていく可能性は十分ある。

どちらにしろ、曖昧な質問には曖昧な答えが返ってきて、詳し く聞けば詳しい答えが返ってくるのは間違いないとは思うので、質問する能力としては変わらない。だからそこを小手先の細かい技術ではなくて、より人間の知性をどう発揮するかぐらいの深いところでの質問をする力と考えた方がいいんじゃないかと思いますね。


「パトス(感情)」的なコミュニケーションから「ロゴス(論理)」的な対話への変革期

——AIに対する指示や質問と、リアルな人間同士の関係における会話力的な違い、というものも出てくるのでしょうか。

佐々木:対話AIに質問する力をみんなが考えていって洗練させていくと、それが人間同士の会話にも影響を与えると思います。要するに恋人同士の会話は変わらないと思いますが、普通に仕事の話でも、よくわからない曖昧ないい方って多いじゃないですか。

そこがより厳密なやり取りが求められるようになっていく可能性はあるんじゃないかと。日本のおじさんビジネス用語が駆逐されるということですね。

昭和の時代というのは、パッションとかエモーショナルな会話力が求められたわけです。それよりロジックというのかな、かつてアリストテレスが『弁論術』という本を書いて、人を説得するには、パトス(感情)とロゴス(論理)とエトス(信頼)の3つが必要だといっている。

日本の昭和のコミュニケーションってやたらとパトス的だったのが、よりロゴス的なものに引っ張られていくということが今、起きてるんじゃないかな。

それこそ今年から、高校の授業で国語が2つに分離されて、『文学国語』と『論理国語』にわかれるんですよ。論理国語というのはレポートを書いたりとかそういう実用的な文章を書く能力で、今まではあまり国語の授業では重要視されていなかった。

そこが欠如していたのが、日本に議論の文化が成り立たない、1つの問題であるということもよく指摘されているわけです。



the book


『AIの未来からビジネス活用術までChatGPTについて佐々木俊尚先生に聞いてみた』
ChatGPTにおける基礎知識から、ビジネスに有効に使える業務効率化のテクニックまでをわかりやすく解説した一冊。まだChatGPTに触れたことのない人も、上手な使い方がつかめない人も、さらなる活用法をみつけ出したい人にも最適な本となっている。また、ChatGPTの秘めている「落とし穴」や今後、社会に与えていく可能性など、専門的な視点も丁寧に説明されている。



Profile

佐々木 俊尚(Toshinao Sasaki)
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)など著書多数。



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