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Web3.0
メタバース
NFT

Return to Origin Iolite vol.1編集後記

Noriaki Yagi
2023/03/29

Editor’s Note
「子どもたちに教わった好奇心が燃料の行動力」

1月中旬、長崎にお誘いいただいて“NAGASAKI MIRAI PORT”の VRアート体験会に参加した。長崎の子どもたちに、メタバースに触れる機会を創るというコンセプトだった。

私もWeb3.0領域を題材にしたメディアを運営しているため、ありがたい事にさまざまなイベントにお誘いいただく。

しかし、子ども向けのWeb3.0領域のイベントはほとんど参加した経験がない。だからこそ、これを機に雰囲気を感じたいと思い参加させていただいた。

当日はお子さんだけで40名以上が参加していただろうか。

VRの世界に初めて触れる子も多かっただろうに、本当にその世界観を楽しんでアートを描いている子どもたちをみて驚いた。私も最後の空き時間にVRアートを体験させていただいたが、絵心がない事を言い訳に大胆な絵が書けなかった。

制限なく広がるメタバースに絵を描くどころか、A4の画用紙でも余るくらい小さな絵を描いていた。モニターに映る自分の描いた絵が、周りからどのようにみられるのかを考えて手が止まったのかもしれない。いつからそんなにつまらない大人になったのだろうか。

大人になると、自分の力でどうにかなるモノとどうにもならないモノに向き合うことになるが、稀にどうにもならないとされていたモノが、どうにかなってしまうことがある。どちらかといえば論理的な思考をしているつもりではいるが、時にはデータを適切に無視する必要性があると思っている。

子どもの頃は空き地に生えていた大きな木の上に、ゴミ捨て場から調達した資材でお手製の秘密基地を作って遊んでいた。父親にこっぴどく叱られたが、電気ストーブの熱線にティッシュで作ったコヨリを近づけて、焦げ付くティッシュの音と匂いを楽しんだりもした。

どちらも20年以上経った今だからいえるようなことだが、好奇心が勝って身体が動いているあの頃の自分を、メタバースに躊躇なく大胆に触れる子どもたちに投影した。

細かい事は大人たちに任せて、好奇心が先行する行動力を持った若者が「事を成す」のだ、という願望に近い偶像の輪郭がはっきりしたような気がした。

1年以上神経をすり減らし、気力を使い果たしてこぎ着けたIolite創刊の時期に、子どもたちがメタバースに触れる体験をみて感じた『原点回帰』への感覚は、私たちが今後のIoliteと向き合う上で大切な指針の1つになると思う。このような機会を巡り合わせてくれた方々には感謝しきれない。

長崎の滞在では少し時間があったため、ゆっくり読書をして思考の整理をした。私は、株式会社幻冬舎・代表取締役社長 見城徹氏の著書から、編集者として、そして人としてのイロハを学んでいる。

不思議なもので、彼の本を読み始めたのは私が仕事を任されるずっと前、大学生の頃だった。

私自身の編集・出版におけるスキルは力不足も良いとこだが、本を読み始めたのが編集長を就任する10年以上前だったということを考えると、この業界にも何かのご縁があったのかもしれない。

本のなかにこんな一節があった。

「人の人生を切り取り、それを金にする出版という職業はいかがわしい。そんないかがわしい職業を成立させるのは編集者の人間力に他ならない」

いわれてみれば、当時の私のような業界の知見も人脈もない人間が、業界の有識者にインタビューをするには、小手先のテクニックなど通用しない。テクニックを持ち合わせていないという方が正しいのかもしれない。

インタビューをどうしても撮りたい方がいて、とあるBarに2日に渡って12時間張ったこともあった。個人の名前で正面突破するしか芸がなかった。

それでも、快諾いただいたインタビューや企画がさまざまな事情で成立しないこともあった。編集者は物凄く泥臭く、でも癖になる仕事だと思っている。

そんな如何わしい出版を成立させるための人間力を持った編集者を集めて、読者の皆様を魅了するのも私の責務だと思っている。

インタビューでは普段撮れない顔を写し、普段いわない事を吐露させ、自分でも気づかなかった良さに気づけるような、鏡のようなメディアにすることを約束する。

Iolite(アイオライト)というブランド名に込められた「夢への羅針盤」というメッセージが、遠い未来に語り継がれることを夢みて―

Noriaki Yagi