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JPYC株式会社 岡部典孝
Web3.0
暗号資産

ステーブルコイン・JPYCが見据える次なる展望│JPYC株式会社 岡部典孝インタビュー

Iolite 編集部
2023/07/27

ステーブルコインは安全かつ利便性の高い決済手段

パブリックチェーンでの発行でWeb3.0との親和性も高い

銀行よりも安全で利便性も高く効率の良いものを作らないと意味がない。国産ステーブルコインの先駆けであるJPYCが見据える次なる展望。

ステーブルコインのメリット

——改正資金決済法の施行を踏まえ、今後日本でどのようにステーブルコインが利活用されていくかお考えをお聞かせくださ い。

岡部典孝(以下、岡部):第1段階はWeb3.0、つまりNFTとかブロックチェーンゲームの間で使用され普及していくと考えています。中長期的にはNFTを活用して売買を行う法人にも普及していくと思いますし、そうなるよう期待しています。その先の話になると、DAOやAIなどで取引を行う際に自動取引の形でステーブルコインが使われるようになるでしょう。

——既存金融と比較し、ステーブルコインを利用することで個人・事業者はどのようなメリットを享受することができるとお考えでしょうか?

岡部:銀行決済との比較になるのですが、ステーブルコイン決済はより安全かつ利便性の高いものであるといえます。銀行決済は特殊詐欺に遭うなどの危険性がありますし、効率の面でいえば上昇する手数料の問題もあります。利便性の面でもプログラムを通じて扱おうと思っても対応しにくい。ステーブルコインは今後、世界中の規格が統一されて効率的になり、扱いやすくなると思います。

銀行の信頼性といった部分では、現在不正な送金が増えている状況です。過去、銀行はきちんと本人確認をして、その者同士で送金をしているから安全だと説明してきました。ところが、残念ながら運転免許証など身分証が偽造される時代になってきて、非常に多くの架空口座があるという状況になっています。

銀行式の身元確認が崩壊しつつあるのでしたら、ブロックチェーンでお金の流れを掴んだ方が、効率が良いということになります。

——ウォレットを持っていない人が大半を占める中、ウォレットを持っていない人にオンボーディングする方法についてどう思いますか?

岡部:ウォレットの普及率が銀行口座と同じくらいにならないと普及したといえないなか、大きなところで2つ方法があると思っています。

1つは携帯キャリアの大手3社が標準搭載すること。もう1つは、AppleやGoogleといった企業が標準搭載することです。さらにいえばキラーアプリの登場ですね。ポケモンGOのような、世界中の人がインストールしているようなキラーアプリが登場すれば一気に広まるでしょう。


規制強化の環境で発揮される日本の強み

——ステーブルコインを含め世界的に規制強化の動きが強まっていますが、その上で日本市場の優位性、そして日本だからこそできる取り組みがあれば教えてください。

岡部:日本はいち早く世界に先駆けて規制を法律化し、今年6月にステーブルコインに関する法律が施行されました。他国に先駆け2年くらい先行しています。

事業者は金融庁とコミュニケーションをしっかり取っていれば、突然訴えられるようなリスクを避けることができますし安全に運営できます。米国のように急に訴訟を起こされることもないので効率が良いですよね。今後は海外事業者も日本でステーブルコインの発行を検討するでしょう。

今回の法律では、外国通貨のステーブルコインも発行可能となっていますので、たとえばアジアの法定通貨に連動したステーブルコインを発行する事業者も出てくると思います。

世界の金融取引の大半はドル建で行われていますし、中国の人民元も存在感が増すなかで、これまで日本円は存在感が薄れているという状況にありました。しかし日本の規制下で発行されるステーブルコインが増えれば増えるほど、日本円の存在感が増していくことになると思います。

——海外事業者が日本でステーブルコインを発行する際に規制という高いハードルが存在しますが、どのような形であれば参入が可能でしょうか?

岡部:ライセンスに関しては2つの道があります。1つは信託銀行と組んで展開する形です。もう1つはUSDコイン(USDC)を発行するサークル社とJPYCのような構図ですね。海外事業者が日本の規制をよくわかっている事業者に出資や投資をして展開する方法です。どちらのパターンで発行するにせよ日本にお金が流れてくることになります。

——世界的に暗号資産およびステーブルコインに関する規制整備が進むなか、現在最も懸念している課題についてお聞かせください。

岡部:暗号資産同士の取引で税金が緩やかになるのではないかとの期待が現在高まってきています。その上で1番懸念していることは、たとえばビットコインのような暗号資産同士での取引では課税されないけれども、暗号資産とステーブルコイン同士を取引した際には課税される可能性があるということです。ステーブルコインを用いた取引時も暗号資産と同様の取り扱いをしてほしいですね。


産ステーブルコインが発行され、日本円の存在感も増す

——JPYCは国産ステーブルコインの先駆け的な存在ですが、この度施行された改正資金決済法を受け、今後どのように展開していく予定でしょうか?

岡部:従来のプリペイド式の改正資金決済を受けて2年後を目安としてアップデートする可能性があります。ブロックチェーンゲームなどで使っていただけるようにバージョンアップしていきます。

一方で、資金移動事業者と手を組み、JPYCをより早く日本円に戻せるようにする準備も進めています。また電子決済手段等取引業というあたらしい取引業ライセンスが今回できましたので、これについても弊社は登録する準備を進めています。

具体的にはUSDCやEUROCといったサークル社の規格に準拠したステーブルコインについて、たとえばUSDCを我々に送金していただいたら日本円に変換するといった形の両替商は早くやりたいと考え準備しています。

——サークル社との今後の展開について教えてください。

岡部:CEOのジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)を始め、サークルの幹部は実にJPYCを大切にしてくれていると実感しています。我々にとって重要なパートナーなので、より関係を深めていこうと思っています。

実はスマートコントラクトにおいて、サークルと同じ形式を採用しているのがJPYCの大きな特徴です。当然サークルはさまざまな開発をしており機能を強化しています。

JPYCはその機能にそのまま対応する準備ができています。ライセンスを取得することにあわせて、現在サークルが開発している機能とJPYCの連携を進めていきます。

——JPYCは「ブルーエコノミー」事業の一環で「JPY Sea」というステーブルコインプロジェクトを発表しましたが、こちらの活動について教えてください。

岡部:JPY Seaは青ヶ島における共同組合の金融機関を利用して銀行型のステーブルコインを出そうというチャレンジになります。実際に私も漁協に入らせていただいて準備を進めています。

私も移住してから気づいたのですが、青ヶ島には金融機関が郵便局しかなく、たとえば船を買おうにもお金を借りる手段がなかなかないのです。

JPYCのミッションは「社会のジレンマを突破する」であり、私個人としても金融機関が存在しない青ヶ島で社会課題解決に取り組みたいと考えました。また、青ヶ島での知見をJPYCのステーブルコイン発行事業にも活かしていきたいという思いもあり、JPY Seaというプロジェクトを立ち上げることとなりました。

ただ、銀行の規制が非常に厳しく、現在は実質プライベートチェーンでしか発行できない状況です。今後、規制が緩和されて、銀行のステーブルコインもパブリックチェーンとして出せるようになったら、そのタイミングで投入したいと考えています。

どこかのタイミングで規制は変わるでしょうから、我々も置いていかれないように準備は進めておきたいということです。出資を受けている以上、規制が変わったから出せなくなりましたではダメだと思うので、どのような形でも対応できるように先手を打っておきたいですね。


JPYCがイノベーションを起こすための起爆剤に

——今後、金融機関を始め民間企業でもステーブルコイン開発が行われていくものと考えられますが、JPYCにはどのような優位性があると思いますか? また、今後どのようにステーブルコインに向きあっていくのか教えてください。

岡部:既存のステーブルコイン発行体は銀行を利用したものが多いと承知しています。ただ現在の規制下では銀行ですとパブリックチェーンでは発行できないのでWeb3.0との相性が非常に悪いです。

Web3.0領域に関しては資金移動業をベースにしたJPYCタイプのステーブルコインに優位性があります。規格を揃えてパブリックチェーンで使えるというのが大きな特徴でもあります。

また、我々は他社に比べて規模は小さいですが、だからこそ無駄な資金は使わないので非常に低コストで運営できます。ステーブルコインはWeb3.0、NFTを通じて日本でイノベーションを起こす上で絶対に必須なものです。

現在の日本の決済は手数料が高いのが現状です。ただ単にステーブルコインを出すのではなくて、本当に決済手数料がかからない形でなるべく使いやすいものを出さなければいけないと考えています。

銀行よりも安全で利便性も高く効率の良いものを作らないと意味がなく、そこに1番近いものがJPYCだと考えています。極力手数料をゼロにして構築していくことが我々の大きな社会的責任です。そこに向けて挑戦し続けていきます。


Profile

岡部典孝
日本を代表するステーブルコイン企業JPYC株式会社の代表取締役。CTOやCFOの経験を活かした、技術やファイナンス、イノベーション法務の境界領域が得意。「社会のジレンマを突破する」というミッショ ンのもと、日本円ステーブルコインJPYCでWeb3と現実世界をシームレスにつなぎ、安全かつ自由な経済活動を推進できる社会実現を目指している。



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