──9月25日から公開中の映画『シャドウワーク』は、賃金の発生しない労働を指すこの言葉に、女性たちがみえないところで引き受けているものという別の意味を重ねた作品です。演じてみて、気づかされたことはありますか?
ファーストサマーウイカ(以下、ウイカ):この物語で行われるシャドウワークは、交換殺人です。表向きは傷ついた女性が避難してくるシェルターですが、実態は、そこにいるみんなが共犯として結託して、加害者を始末する。もちろん犯罪です。でも、人生を滅茶苦茶にされて復讐をしたいという気持ちはとても理解できます。同じ傷を負った者同士でしか断ち切れないものがあるだろうとも感じました。
私が演じた奈美は、料理上手で、深い愛で入居者を受け入れる役どころです。身近な人に傷つけられた人たちが、この奈美のような優しさにまず救われる。彼女たちの愛や優しさを取り戻す、重要な役だと思います。
──10月2日公開の『ファーストボイス』では、原告となる女性・上原恵を演じられています。撮影前に傍聴された本物の法廷で、最も印象に残った光景はなんですか?
ウイカ:入った瞬間、別世界に感じました。傍聴のエリアが木の柵で区切られていて、劇場のようにも感じましたが、空気が特殊で。証言台に立って前に出てきた被告人は、現実の街中では出会わないオーラというか、気を放っている。すごく声が小さかったり、突然泣き出したり。理屈が破綻していて、会話になっていなかったり。
あの場にしかない緊張感を役に活かしたいと思いました。恵は原告として訴える立場ではあるけれど、傍聴席からの視線があって、訴えているのに「本当にそういうことがあったんですか」と疑われる。誰も自分をまだ信じていない状態のなかで声をあげる。その空気感はすごく勉強になりました。
──現場に足を運ぶことで初めて得られるものがある、と。
ウイカ:この作品は実際の事件から着想を得たフィクションなので、実際の関係者の方もいらっしゃいます。撮影前にお会いして、当時のお話を直接うかがいました。現実に当事者が存在するお芝居は、いかに自分ごとに思えるかが大事だと思っています。その差を埋めて、他人事じゃなくしていく仕事ですね。
──『シャドウワーク』の奈美は法から逃れている側、『ファーストボイス』の恵は法に訴えることを選んだ女性です。一見正反対の道を通った2人に、通じるものはありましたか?
ウイカ:『シャドウワーク』は思考実験がテーマにあって。トロッコ問題ってあるじゃないですか。レバーを切り替えて1人の命を奪うことで5人の命が救われる。どっちを選びますか、という。犯罪かどうかは一旦置いといて、考えてみてね、と投げかけている作品なんです。
逆に『ファーストボイス』は、今まで法律になかったところに声をあげて、常識を覆すという話です。今でいうと、AIの著作権みたいなことかもしれないですね。まだグレーなものがいっぱいある。2つの作品は、形は違えど女性が被害を受けて立ち向かうという共通項があります。こういう作品が重なるというのは、世の中がそれを取り上げたくなるフェーズなんだな、と感じます。
一方で、女性の立場を訴えることだけを過剰に押し上げる風潮になるのも、違うのではと思いました。男女だけでなくさまざまな立場のギャップを補い合えた方が理想的だと思う。立場も、生まれも、人種も含めて、立ち返るべき根本の部分に目を向けてもらえたらいいな、と。
