1.有人潜水船による深海探査の意義
水深6,500mの水圧に耐え内部を1気圧に保つ有人潜水船「しんかい6500」は、長年日本の深海研究を支えてきた。モニターやセンサーでは捉えきれない微細な変化を察知する人間の感性が、予期せぬ発見をもたらす点で不可欠である。
2.AIを活用したAUV(自律型無人探査機)
有人船の老朽化やコストの壁を超える解決策として、AUVの開発が進む。AIによる自動物体検知やサンプリング技術を駆使し、有人では不可能な長時間の連続観測や高精細なデータ収集を実現しつつある。
3.多様な探査技術のハイブリッド運用
今後の深海探査は、「人の目で直接みたい」というニーズと「無人で効率的に調査したい」という要望の両立がカギとなる。有人船や無人機など、それぞれの技術が持つ得意分野を組み合わせたハイブリッドな運用が、未知の海を切り拓くのだ。
水深6,500m。そこでは、小指の爪ほどの面積に軽自動車1台分の水圧がのしかかる。生身の人間ではとても耐えられない世界へ、私たちはどうやって到達しているのか。
前号でたどった飽和潜水技術は人が生身に近い形で深海へ潜る技術だった。だが人が潜れる深さには限界がある。そこで現在、深海探査の主役は頑丈な耐圧殻を持つ有人潜水船へ、そして今、人を乗せない無人探査機へと移りつつある。
前回に引き続き話をうかがったのは、JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)。潜水船や無人探査機等の保守整備を担当する川間氏と、無人探査ロボットを開発する前田氏に、「深海への到達技術」がどこまで来ているのかを聞いた。
日本が誇る潜水調査船「しんかい6500」は、チタン合金製の頑丈な耐圧殻(厚さ73.5mm、内径2m)に人が入って潜る。蓋を閉めれば「どこまで潜ってもなかはずっと1気圧」なので、耳も痛くならず、訓練も一切要らない。高齢者も女性も、行きたい深さまで行ける。
機械で潜水する技術には長い前史がある。1930年、米国のウィリアム・ビービーとオースティス・バートンが潜水球で深海を探査したのが、世界初の潜水艇による深海探査とされるが、同年、日本でも実業家・西村一松が豆潜水艇を建造していた。周囲を海に囲まれた日本の潜水艇建造技術は、もともと世界的に高かったのだ。
1970年代、6,000mまで潜れる潜水艇建造構想が持ち上がるも、当時の日本では潜航深度数百mの潜水船の実績しかなく、一気に6,000m級を建造するための技術や経験値が不足していた。
そこで、まず1981年に「しんかい2000」を建造、同船の開発と運用の経験を活かしながら、科学技術を国力とする等の思惑も含め、この到達を後押しした。こうして1989年に完成した「しんかい6500」は、今も深海に人を送り続けている。
ロボット技術が発達した今も、なぜ人を乗せる潜水艇が必要になるのか。その理由に川間氏は「人間の感性」をあげる。高精細4Kカメラでも映るのはモニターの範囲だけ。また、科学センサーでも対象以外のものには反応しない。だが人間は、光が届く限界の薄暗いグレーの部分まで、空間全体を感じ取れる。「予定と違う異変や、本来そこにいないはずの生物にふと気づいて、進路を変えたら発見があることもあるのです」と同氏は語る。
