被災地から生まれた「JPYCで回る」防災インフラ

2026/08/28 18:13
Iolite 編集部
文:Noriaki Yagi
SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
被災地から生まれた「JPYCで回る」防災インフラ

「AIが作り、人が集める」——震災2日後に立ち上がった情報サイト

2026年7月28日、熊本県を最大震度7の地震が襲った。行政の情報発信が滞るなか、八代市在住のWeb制作者・福原健氏は、被災当事者でありながらわずか2日で災害情報サイト「やつしろ災害情報共有」を公開した。

開発はAIエージェントに任せ、情報収集はAIによるハルシネーションを防ぐためすべて人力。そして運営費は、日本円建てステーブルコインJPYCで募った。集まった支援は33万JPYCを超える。草の根デジタル防災の最前線を聞いた。


──2026年7月28日の地震発生から、わずか2日でサイトを公開されています。まずは、その経緯からお聞かせください。

福原健(以下、福原): 実は、最初から自分でサイトを作ろうと考えていたわけではないんです。ラジオをやっている友人が、私が普段からAIを活用してサイト制作をしていることを知っていて、「情報を集約できるようなサイトを作れないか」と声をかけてくれたのがきっかけでした。

10年前の熊本地震の時にも同じような情報サイトを作った経験はありました。しかし、当時はAIがなかったのでSNSから情報を拾ってまとめるだけの単純なものでしたし、何より今回は10年前と生活環境も違います。私自身も被災し、自宅や実家の片付けに追われていたため、引き受けても運営する時間が取れないのではないかという懸念がありました。

それでも、「今、自分にできることがあるならやるべきだ」という思いに背中を押され、立ち上げたというのが経緯です。

──2日という短さで形にできた背景には、何があったのでしょうか。

福原:もともと仕事で「Replit(リプリット)」というクラウド型の統合開発環境を使ってWebサイトを制作していたので、制作から公開、運用までの流れに慣れていたことが大きいと思います。

ReplitにはAI(人工知能)エージェントが組み込まれており、日本語で指示するだけで必要な機能をスピーディーに追加できます。そのため、現場や周囲からニーズを拾いながら、自分なりに優先度を判断して、登録不要で投稿できる機能・地図表示・「助けて」や「手伝う」といったカテゴライズ・AIによる回答検索と多言語対応など、さまざまな機能を順次実装して行きました。

──サイトを拝見して、作り込まれている印象を受けました。支援や配給のイベントも、日付が過ぎたものはカレンダーに表示されない仕様になっていますね。

福原:過ぎたものは消えて行く形になっています。ただ、あれは私が「そういう仕様にしてくれ」と細かく指示したわけではないんです。ノーコードですべてAIに作ってもらっているので、「こういうものを作りたい」と伝えたら、AIが気を利かせて最初の設計に組み込んでくれました。

災害情報サイトですから、情報は1日、2日でどんどん古くなって行きます。古い情報が自然に隠れて行く仕組みは、設計上とても重要です。

──AIで構築されていると聞くと、掲載情報の収集もAIが行っているのかと想像します。誤情報を生成してしまう「ハルシネーション」のリスクはどう手当てされているのでしょうか。

福原:情報収集自体は、すべて手作業で行っています。AIに任せようとも考えたのですが、誤った情報や古い情報を拾ってきてしまう可能性がある。結局そこを人間が判断するのであれば、最初から手作業でやろうということで、地道に集めています。

SNSの文章をそのままコピーして貼り付け、「Instagramより」「Xより」といった引用元を明記する運用です。そのため、AIが記載のない情報を勝手に埋めてしまうようなリスクは、基本的には起こらない設計になっています。

「くすぶっている感じ」があった——なぜJPYCを選んだのか

──支援の受け取り基盤にJPYCを、チェーンにはPolygonを選ばれた経緯をお聞かせください。

福原:1年前にJPYCがステーブルコインとして金融庁に認められた時から、情報を追っていました。大阪・関西万博で使われたウォレットのニュースにも興味があって、いよいよ身近になって来るのかな、とうっすら思っていたんです。同時に、JPYCを決済に使った何らかのサービスを作れないかと、漠然と考えていました。

XでJPYCに関する投稿をみていて感じていたのは、良い意味での「くすぶっている感」でした。JPYCという革新的な仕組みが公的に認められている一方で、関心を持つ皆さんが「なかなか広まらない」というジレンマを抱えているようにみえた。

だからこそ、今このタイミングで使うこと自体に意味があるのではないか、JPYCの認知拡大にもつながって、結果として被災地への注目や支援を集められる可能性もあるのではないかと考えました。それが採用の決め手です。

チェーンについては、当初から詳しかったわけではありません。JPYCを受け取るウォレットを考えた時に真っ先に浮かんだのが「HashPort Wallet(ハッシュポートウォレット)」で、そこからPolygonチェーンなら手数料無料で送金できると知り、使いやすいと思って採用しました。今回のサイトをきっかけに、チェーンごとにJPYCがあって、間違えると送金できないという難しさも初めて知ったくらいです。その後、X経由でご助言をいただき、Kaiaチェーンにも追加対応しました。

──クラウドファンディングという選択肢もあったかと思いますが。

福原: 考えました。ただ、八代というローカルメインのサイトでは全国規模のアクセス数は見込めませんし、共感を得て日本円での支援を広く集めるのは難しいだろうと思ったんです。

一方でJPYCには可能性を感じていたものの、チェーンやウォレットの知識がないと扱いづらいという課題がありました。ですが、こうした有事の際にこそ思い切って導入することで、「被災地支援の新しい選択肢」を示すことができるのではないか。被災地への支援を形にすることと、JPYCの実用性を証明することを両立できるのではないかと考えました。

──8月24日時点で334,710.18 JPYCが集まっています。実際に運用してみて実感された、パブリックチェーンならではの強みはどこにありましたか。

福原:即時着金で、自分のウォレットにそのまま入って来る点です。以前、償還まで試したことがあったのですぐに日本円に換えられることもわかっていました。 

面白かったのは、送金がちゃんとできるか試すために、まず1JPYCを送って来られ、その後改めて500円や1,000円相当を送ってくださった方がいたことです。銀行で1円を振り込むのは手数料を考えればあり得ませんが、JPYCならそれができます。小数点以下といった端数も含めて送ってくださる方もいました。

クラウドファンディングにも2,000円からといった少額設定はありますが、「応援したいけれど、低い金額だと申し訳ない」という感覚がどうしてもありますよね。JPYCが普及すれば、レジ横の募金箱のような感覚で気軽に寄付ができるようになる。クラウドファンディングとは違う、あたらしい支援の形になると思っています。

──支援ページはサイト内でもかなり控えめな場所に置かれていますね。

福原:災害情報の共有が主目的なのであまり目立つ場所に置きたくなかったのと、基本的にはXのみで周知するつもりだったので、わざと見つけにくい場所に掲載しています。正直なところ、一種の賭けのような取り組みでしたので、これほど多くのご支援をいただけるとは思っていませんでした。

JPYC代表の岡部さんがXで取り上げてくださったことに加えて、岡部さんご本人からも実際にご支援をいただいたことが非常に大きかったと感じています。会社としての直接のやり取りがあったわけではないのですが。

これまでに発生した費用の補填という意味では7割ほどですが、もともとはすべて自費で制作・運営するつもりでしたので、今後の運営まで含めた貢献度としては120%です。感謝しかありません。

自家消費スキームから地域循環へ——手数料0%クラファンという解

──集めたJPYCの使途を「自サイトの運営費」に限定し、第三者への分配を行わない設計を採られています。この判断に至った経緯をお聞かせください。

福原:当初は、受け取ったJPYCを被害の大きかった方々へ直接お渡しできないかと考えていました。

ただ、AIを使って調べたところ、受け取ったJPYCを他の団体や第三者へそのまま分配する場合、法的な規制の対象となる可能性があることがわかりました。X上でも有識者の方からライセンスが必要ではないかとご指摘をいただきました。

そこで金融庁のフィンテックサポートデスクに問い合わせ、実際にサイトをみていただいた上で確認しました。結果、「預かったJPYCをそのまま別の人に渡すのであれば規制の対象となり得るが、自分の財布に入れて自分のために使う——自家消費するのであれば問題ない」との見解をいただき、現在の形になっています。

行政機関なので待たされるかと思っていたのですが、電話もすぐつながり、回答も即日いただけました。とても対応が早く、丁寧でした。

──とはいえ、震災後は経済的な影響も広がっていったかと思います。集まったJPYCを、直接の分配とは異なる形で地域に還元する構想があるとうかがいました。

福原:そうなんです。ライフラインの復旧が進むと、次は経済の問題になります。震災から1週間ほどで、周囲から生活や仕事への影響を聞くようになりました。ショッピングモールが止まって、仕事ができない方がいるという話も耳に入ってきました

サイトの情報収集は人力で行っていますから、被災して収入が減った方にその作業を手伝っていただき、対価としてJPYCをお支払いする形を考えました。これは寄付をそのまま横流しするのではなく、私が事業として発注した作業に対する報酬です。いただいたJPYCは一度私の財布に入り、そこから私が業務委託費として支払う。金融庁に確認した「自家消費」の範囲内で、支援とサイト運営の両方につなげられる方法だと考え、まずはサーバー経費などがペイできた後からこの取り組みを開始しております。現在3名の方に情報掲載作業を手伝っていただき、毎日JPYCをお支払いしております。

──税務処理についてはいかがでしょうか。

福原:これほど大きな金額が集まるとは思っていなかったので、当初は後回しにしていました。ただ、私自身が個人事業主でもあるので、受け取ったJPYCについては記録を残し、税理士にも確認した上で、確定申告の際に適切な区分で申告する予定です。作業を手伝っていただく方への対価は、1人あたり最大でも50,000円程度を想定しています。

──利用者からのフィードバックはいかがですか。

福原:情報を集めに来られる方がメインなので、書き込みをされる方は全国規模のサイトに比べれば少ないです。ただ、質問掲示板を設置していて、そこに書き込みがあり、回答してくださる方も少しずつ増えて来ました。立ち上げから1ヵ月近く経って、ようやくサイトの活用方法が広まりつつあると感じています。

AI機能については、利用者がどのような質問をしたのかを管理画面から確認できるようにしていて、今後追加すべき情報を判断する参考にしています。

──今回のモデルはほかの被災地や自治体防災にも展開可能だとお考えでしょうか。運用で感じられた課題を含めてお聞かせください。

福原: 展開可能だと考えています。実は開発当初からそのつもりで構築して来ました。今回の震災だけで終わるサイトではなく、別の地域で大きな災害が発生した際にもすぐ活用できる仕組みにしたいと考えています。被災地にいる今だからこそわかるリアルな状況を実証の機会と捉えて、必要と思われる機能を実験的に追加しながらニーズを調べています。

一番の課題は「1人で作っている」ということです。情報を集めることはできても、避難所ごとに物資の偏りがあるといった、現場に行かないと拾えない生の声が取れていません。私はこうしたサイトを制作・運用する後方支援を得意としていますが、それだけでは現場の声を間接的にしか得られない場合があります。

開発、現場活動、防災の知見を持つ方々でチームを作ることができれば、よりよい仕組みにできると考えています。支援金がさらに集まれば、有識者の方々にご参加いただいて、次の災害のための改善点を話し合う会議を開きたいと考えています。その際、登壇や助言に対する謝礼としてJPYCをお支払いできれば、より有意義な会議になるのではないかと思っています。これも寄付の再分配ではなく、サイトをよくするための費用ですから、同じ考え方です。

──この仕組みをさらに一般化する構想があるとうかがいました。

福原: 今回、私が直接ウォレットで支援をいただいた仕組みを、そのままクラウドファンディングにできないかと考えました。仲介手数料0%で、プロジェクト実施者のウォレットに直接JPYCが送られる仕組みであれば問題ないと、金融庁にも確認を取りました。その機能を最近リリースしました。

受け取り側については、マイナウォレットがJPYCの発行されているすべてのチェーンに対応していることがわかりましたので、チェーンを気にせず送金できるよう、マイナウォレットで受け取る前提で設計しています。まずは私自身のデモとしてプロジェクトを立ち上げ、団体で活動されているなど、従来のクラウドファンディングに挑戦するハードルが高いと感じている方々に使っていただけないかと考えています。

──受け取ったJPYCを日本円に換えず、そのまま地域で流通させるという構想もお持ちだそうですね。

福原:サーバー代などは日本円に換える必要がありますが、本来はいただいたJPYCをそのまま八代市内で流通させられないかという構想があります。サイトの作業をしてくれた方にJPYCをお渡しして、それが営業を再開した飲食店で使えるような流れができればすばらしいと思っています。八代市の地域経済を回すことが目標です。まだあたらしい取り組みなので難しい部分もありますが、構想としては持っています。

 

画像提供:福原 健氏

取材協力:ジャンクお宝鑑定団の本アカ


Profile

福原 健 | Takeshi Fukuhara

熊本県八代市在住。コンピュータ専門学校卒業後、印刷・IT関連業界での勤務を経て、2013年に独立。Web制作やグラフィックデザインを中心に事業を行う。

2021年からは、小学1年生から高校3年生を対象としたIT教室「iLudens」を運営し、プログラミングやデザイン、動画編集、生成AIなどの指導にも携わる。

2026年7月よりヴィレックス株式会社に入社し、DX事業部 部長に就任。現在は同社を本業とし、Web制作やシステム開発、生成AIを活用した業務効率化・DXの取り組みなどを担当している。個人事業「office Glean」とIT教室「iLudens」についても、副業として継続している。

2026年7月の熊本地震発生後には、地域の災害情報を集約・共有する「やつしろ災害情報共有サイト」を立ち上げ、AIによる情報検索、多言語対応、JPYCを活用した支援受付など、テクノロジーを活用した災害支援にも取り組んでいる。

SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
Side Banner
Side Banner
MAGAZINE
Iolite(アイオライト)Vol.21

Iolite(アイオライト)Vol.21

2026年9月号2026年07月30日発売

Interview Binance 共同最高経営責任者(Co-CEO)リチャード・テン、SMBC日興証券株式会社 Nikko Open Innovation Lab兼DeFiテクノロジー部 部長 磯野太佑、Fintertech株式会社 取締役/暗号資産金融事業責任者 神脇啓志 PHOTO & INTERVIEW 中野優作 特集「暗号資産取引所の生存戦略─金商法移行後の新秩序─」 Interview コインチェック株式会社 代表取締役 社長執行役員CEO 井坂友之 株式会社マーキュリー 取締役副社長 藤原崇亮 [対談連載]The NISHI Talk:Crypto Conversations 「ビットコインの取得にとどまらない社会実装」 、仮想NISHI×株式会社ANAPホールディングス 代表取締役社長 川合林太郎 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等

MAGAZINE

Iolite(アイオライト)Vol.21

2026年9月号2026年07月30日発売
Interview Binance 共同最高経営責任者(Co-CEO)リチャード・テン、SMBC日興証券株式会社 Nikko Open Innovation Lab兼DeFiテクノロジー部 部長 磯野太佑、Fintertech株式会社 取締役/暗号資産金融事業責任者 神脇啓志 PHOTO & INTERVIEW 中野優作 特集「暗号資産取引所の生存戦略─金商法移行後の新秩序─」 Interview コインチェック株式会社 代表取締役 社長執行役員CEO 井坂友之 株式会社マーキュリー 取締役副社長 藤原崇亮 [対談連載]The NISHI Talk:Crypto Conversations 「ビットコインの取得にとどまらない社会実装」 、仮想NISHI×株式会社ANAPホールディングス 代表取締役社長 川合林太郎 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等