クリプトアナリストとして活躍する仮想NISHI氏が「今、この人に話を聞きたい」と感じた人物とともに“本音”で暗号資産業界の動向などについて語り合う本企画。今回は、ビットコイン(BTC)の取得を皮切りに関連事業の展開を目指すANAPホールディングスの川合林太郎氏と対談。ビットコイントレジャリー戦略の先にある計画、そしてビットコイン社会実装の先行事例創出に向けた想いに迫る。
仮想NISHI:初めにこれまでの経歴をお聞かせください。
川合林太郎(以下、川合):私のキャリアは全国展開している「乗馬クラブクレイン」からスタートしました。父親の仕事の関係でソビエト連邦(当時)に住んでいて、乗馬の全ソジュニアチャンピオンになったことがきっかけです。その後、日本の大学への進学が叶わず、そのまま乗馬クラブへ就職しました。
その頃、ちょうどソ連が崩壊しロシアになりました。国が滅びる経験をすることなんてなかなかないと思いましたし、それがきっかけで単身ロシアにわたり、大学を卒業後、住友商事に就職して約3年半勤務しました。その後はロシアのセキュリティ会社であるKasperskyのロシア法人から声をかけられ、14年間セキュリティ関連の仕事に携わっていました。
仮想NISHI:暗号資産業界にはどのようなきっかけで足を踏み入れたのですか?
川合:Kasperskyを退職して間もなく、当時の上司に声をかけられました。彼はビットコインの投資会社や、暗号資産取引所Bitfinexの株主だったのです。
当時、各国で規制が立ち上がりつつある時代で、多くの暗号資産取引所が規制のない地域で事業を行い、規制が整備されたら撤退するということを繰り返していました。しかし、Bitfinexの方針として規制動向に振り回されることなく腰を据えて事業を展開したいとのことで、「規制といえば日本、日本であれば」ということで私にお鉢が回ってきたのです。
ただ当時、私はビットコインのことをまったく知りませんでした。それどころか、ランサムウェアの身代金に用いられる「犯罪者が使うお金」という認識しかなかったため、最初は断ったのですが、結果的に押し切られる形でチームを組成しました。
その後は金融庁とやり取りを重ねて日本でのサービス展開に向けて動いていたのですが、次第に秘密鍵の管理など暗号資産取引所の運営に関して日本の規制当局と実務者間のズレを感じるようになりました。また、セキュリティの観点からも日本の規制に完全にあわせると安全性が担保できないと判断し、2024年末に事業継続を断念しました。
仮想NISHI:ANAPにはどのような経緯で参画したのですか?
川合:Bitfinexの日本法人「イフィネクスジャパン」の事業継続を断念してから、ANAP側からお声がけいただきました。私がBitfinexの日本法人でチームを組んでいた際に在籍していた山本さん(現ANAPホールディングス副社長)が、もともとANAPの親密先企業の社外取締役を担っていて、彼を通じて2025年末頃にオファーをもらいました。
ANAPは当時、アパレル事業で7期連続の赤字が続き、倒産寸前の状態にありました。そこで事業再生ADR手続きを行い、20数億円あった借金の一部を返済して残りを免除してもらう形で再スタートを切ることになったのです。しかし、そのままアパレルを続けても結果はみえているため、新規事業を模索していました。
その頃はちょうど企業が「トレジャリー戦略」と銘打ち、財務戦略としてビットコインなどの暗号資産を保有する戦略が流行していた時期で、私が入社する前のANAPでも「トレジャリーを戦略に組み込めば株価が上がるのではないか」という動機があったのだと思います。
入社してみると体制面でも経営面でもなかなかに厳しい状況でリソースを取られました。しかし、ようやくさまざまなことが固まり、そろそろ本格的に事業を動かせるタイミングが来ています。詳細はまだ話せませんが、ビットコインライフスタイルブランドである「コモンブロック(Common Block)」の販売がようやくスタートできるようになったほか、いくつかのM&Aも検討が進んでおり、本格的にビットコイン事業を進めていける足場が固まったと考えています。

仮想NISHI:ここまでのお話を聞いていると、ソ連崩壊の経験がビットコインに対する想い、考え方にも影響を与えていそうですね。
川合:最初の印象こそ良くなかったかもしれませんが、たしかにビットコインに対する心理的ハードルは低かったと思います。
当時ソ連からロシアに変わり、ハイパーインフレのなかでルーブルの桁が3つ一気に切られて「明日からこのお金は使えません」と突きつけられることが普通に起きる生活でした。その時の「信用に裏付けられた中央集権的な貨幣とは脆いものだ」という実体験があったため、ビットコインの概念を受け入れやすかったのだと思います。
また、ビットコインの根本にある「Don't Trust, Verify(信用するな、検証せよ)」という精神は、私がセキュリティ業界にいた頃からずっといい続けてきたことでもあります。
セキュリティベンダーはお客さんに不安を煽って必要のない製品を売りがちだが、私は「セキュリティベンダーのいうことをまず信用するな」と会社の代表として公言していました。得体の知れないカタカナ用語に煙に巻かれるのではなく、ちゃんと理解して検証(ベリファイ)しなさいということですね。これは暗号資産業界に入ってもまったく同じだと感じています。