暗号資産市場の主要マーケットメイカーであるWintermuteは2026年9月2日、市場のボラティリティと資金流入の歴史的推移に関する詳細な分析を公表した。同社の分析によれば、過去の強気相場を牽引してきた資本流入のチャネルは、追加資金による相場押し上げ効果が著しく薄れている。
2024年から2025年にかけて相場を牽引したのは、現物ETFと企業のデジタル資産トレジャリー(DAT)だった。JPMorganの推計では、2025年の流入約1300億ドルのうち半分超にあたる約680億ドルが企業トレジャリー由来である。だがこの二つのエンジンは2025年10月以降に失速し、DATの追加購買力は枯渇。ETFフローも流入と流出を繰り返す不安定な状態が続いている。
同社が問題視するのは、これらの経路がビットコインとイーサリアムに資金を集中させ、アルトコインやDeFiへの波及を伴わなかった点だ。2025年の下落率はBTCが約6%、ETHが約11%だったのに対し、この3銘柄を除くトークン全体では60%近くに達した。
こうした旧来の資金循環が限界を迎えるなかで、あらたな流動性エンジンとして浮上したのが「現実資産のトークン化(RWA)」である。同社の集計では、RWA市場の直近12ヵ月における純増額は約160億ドルに達し、これは暗号資産時価総額全体の0.9%に相当する。オンチェーンのトークン化資産価値は同期間におよそ3倍となり、約300億ドルに達した。
Franklin Templetonが提供するトークン化MMF「BENJI」は9つのチェーンに展開され、対応する投資信託FOBXXは約7億2,600万ドルの運用資産残高を持つ。Ondo Financeのプラットフォーム「Ondo Global Markets(オンド・グローバル・マーケッツ)」は、2025年9月のローンチからわずか8ヵ月で預け入れ資産10億ドルに到達した。
また、BlackRockが発行する「BUIDL」は、2025年年央に約29億ドルまで積み上がった後、2026年初には17億ドル台まで落ち込み、直近では25億ドル規模で推移する。残高こそ市況に連動して振れるものの、その用途は着実に広がった。2025年6月のDeribitを皮切りに、同年11月にはBinance、2026年4月にはOKXとStandard Charteredの枠組みでも、取引所の担保として受け入れられている。
これを追うように、Ethena(エテナ)はBUIDLを準備金の90%超とするステーブルコイン「USDtb」をAnchorage Digital Bank(アンカレッジ・デジタル・バンク)経由で発行した。しかし、USDtbはGENIUS法の枠組みに従う支払い用ステーブルコインであり、保有者へ直接利回りを支払うことはできない。国債の金利は、あくまで発行体の準備金の内側で積み上がる。
技術基盤においては、本人確認(KYC)や制裁リスト照会の結果をオンチェーンIDに紐づく「クレーム」として保持し、その適格性をスマートコントラクト側で検証する「ERC-3643(T-REXプロトコル)」など、参加者を限定する「許可制」の規格が業界標準となりつつある。
制度面では、2025年7月に成立した米国の「GENIUS法」が、支払い用ステーブルコインの発行者による保有者への直接的な利回り支払いを禁じた。利回りを生む準備資産を抱えていても、その果実を保有者へ渡す経路だけが塞がれた形である。
もっとも、法律の骨格は定まったが運用の細目はこれからだ。通貨監督庁(OCC)が2026年3月2日に公表した実施規則案は、準備資産の構成、資本、カストディ、そして利回り禁止の適用範囲について200問を超える照会を示し、60日間の意見公募にかけられた。争点の一つが、準備資産に占めるトークン化商品の比率に上限を設けるかどうかである。BlackRockはこれに反対する意見書を提出した。前述のUSDtbのように、BUIDLを準備金の中核に据えるステーブルコインはすでに複数存在し、上限規制はその構造そのものを組み替えることになる。