AIが自ら財布を持ち、勝手に支払いを済ませる時代は、本当に目前に迫っているのだろうか。米資産運用大手BlackRockは2026年9月、AIとデジタル資産の関係を分析したホワイトペーパー「The Machine-Native Economy」を公表した。
同社はAIを「機械ネイティブな知性」、暗号資産を「機械ネイティブなマネー」と位置付けた。どちらも、人間ではなく機械が扱うことを前提に生まれた仕組みだという意味だ。その上で両者の接点として、「トークン化」「機械間(M2M)決済」「計算資源(Compute)」の3つをあげた。
なかでも同社が重視するのが、AIエージェント(人間が細かく指示しなくても、自分で判断して作業をこなすAI)による決済だ。AIが外部のサービスやデータを使うたびに発生する支払いは、1回あたりわずか数円以下で、しかも24時間絶え間なく続く。
こうした取引は、口座開設の手続きや高い手数料を前提とする既存の決済網には馴染まない。その受け皿として、AIが支払いをするための共通ルール(決済規格)が、この1年で一気に出揃った。Coinbaseの「x402(402 Payment Required)」、StripeとTempo(テンポ)が共同開発する「MPP(Machine Payments Protocol)」、StripeとOpenAIの「ACP(Agentic Commerce Protocol)」、そしてGoogleの「AP2(Agent Payments Protocol)」である。このうちx402は2026年4月にCoinbaseの手を離れ、業界共同の財団が運営する規格となった。そこにはGoogle、Visa、Mastercardまでもが名を連ねる。
その決済手段の本命とされるのが、ステーブルコイン。同社の集計によれば、2025年の取引高は、ボットによる自動取引や取引所内の資金移動などを差し引いても11兆ドルを超えた。2020年から2025年の年間成長率は約80%に達する。給与振込や口座引き落としに使われる米国の自動決済網ACHの約8.5%を、大きく引き離す伸びとされている。
流通する時価総額も、2026年9月時点で3,000億ドルを超える。もっとも原典は、VisaやMastercardとの比較について「測定方法が異なり直接比較はできない」と注記している。ACHの年間処理額93兆ドルには、なお遠く及ばないことも認めている。
AIを動かす計算能力そのものを、原油や金のように売買できる「商品」にする動きも、すでに現実の日程に乗り始めた。Goldman Sachsは、Amazon、Microsoft、Alphabet、Metaの巨大IT企業4社によるAI関連の設備投資が、2025年から2030年の累計で5.3兆ドルに達すると試算する。こうした動きがあるなかで、CME GroupはSilicon Dataと組み、10月5日にあらたな先物を上場する予定だ。AI向け半導体を借りる料金の相場を、将来の価格であらかじめ売買できるようにするものである。ICEも競合商品を発表している。