
1ドルは、本当に1ドルのまま返ってくるのだろうか。
金融安定理事会(FSB)は10月12日、G20に向けたノート「グローバル・ステーブルコイン(GSC):クロスボーダーの脆弱性と金融安定のモニタリング」を公表した。15日にバンコクで開かれたG20財務大臣・中央銀行総裁会議に向けて公表された文書で、FSBのこれまでの作業を整理し、今後の検討課題を示したものである。
GSCとは、1つの国のなかだけで使われているのではなく、世界のあちこちで使われていて、どこかの国では、万が一そのステーブルコインがつまずくと、経済全体が揺れるほど影響が大きくなりうるステーブルコインということだ。
ちなみにFSBのノートには拘束力はなく、期限もあらたな報告様式も盛り込まれていない。
市場の現在地から確認しておこう。FSBによれば、2026年半ば時点の総額は約3,000億ドルで、前年からほぼ横ばい。金額ベースで99%が米ドル連動である。民間集計もほぼ重なる。DefiLlamaは10月12日時点で3,061.9億ドル、CoinGeckoは10月14日時点で3,034億ドルとし、Tetherが1,841億ドルで約6割、USDコイン(USD Coin:USDC)が約726億ドルで約4分の1を占める。
一方でFSBが問題視しているのは、規模ではなく構造である。銀行は、顔のみえる預金者と口座でつながっており、自分の資産と負債の全体をみながら、払い戻し(償還)の請求に備えられる。
ところがGSCの発行体は、誰がコインを持っているのか、どの国に住んでいるのか、どこで払い戻しを求めてくるのかを、つかめていない可能性がある。コインは国境を越えて動き、持ち主は仮名(アドレスだけがみえ、名前はみえない状態)のままだ。その一方で、コインを支える準備資産と、保有者を守る法的な仕組みは、少なくとも一部が特定の国や地域に錨を下ろしたまま。コインは世界を動き回るのに、裏づけの少なくとも一部は動かない。ノートは、この負債と資産のちぐはぐさを分析の中心に置いている。
とくに厄介なのが、関連する複数の会社が1つのコインの債務をまとめて負う「マルチ発行体」型である。裏づけとなる準備資産は会社ごとに別々に持たれているため、ストレスがかかったときに会社の間で資産を融通しようとしても、うまく進まないということが起きうる。
どの会社でも払い戻しに応じる仕組みなら、請求が1社に集中するおそれもある。しかも保有者がどこにいるのかわからなければ、どの会社がどの保有者にどれだけ責任を負うのか、保有者がどんな権利をもつのかが、危機や破綻の時にあいまいになりかねない。破綻した場合にどの国の倒産のルールがあてはまるのか、判断が難しいケースもあるという。
ノートは、外国で発行されたコインの扱いを含め、国同士の規制がどう噛み合うのかが、多くの国や地域でまだはっきりしていないと指摘する。そして最も重い一文が、GSCと各国の規制の枠組みは、深刻なストレスや破綻の場面で一度も試されていない、というもの。
FSBは今後、国境をまたぐ弱点の監視を強めること、2023年の勧告が各国で実施されるよう支援すること、GSCが経営難や破綻に陥ったときの備えについてあらたなやり方の情報を集めることに取り組む。
ベイリー議長(イングランド銀行総裁)の書簡は、各国の規制は進む速さがばらばらで、国同士の協力もまだ始まったばかりだと記した。2025年10月の加盟国同士の相互点検でも、2025年8月時点でGSCの勧告に沿った枠組みを整え終えていたのは、バハマ、バミューダ、EU、香港、日本の5つの国・地域にとどまっていた。