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「ブレイン・マシン・インタフェース」にみる“念”で機械を動かす最先端の脳科学の可能性

Iolite 編集部
2024/06/05

ブレインテックの市場規模は数年で5兆円規模に

未来では脳とAIがつながる!?そんなSFファンタジーのような技術「ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)」が実際に世界各国で研究されているほか、日本国内でもいくつかの企業で研究・開発が進められている。BMIにはどんな手法があり、何をもたらすのだろうか?

ブレイン・マシン・インタフェース」通称・BMIという技術をご存じだろうか。BMIとは、信号源及び操作対象である" 脳"と" 機械"をつなぐ存在、脳波を読み取る脳波センサーや脳波を解析するプログラムなどを総称し、簡単にいえば脳と機械をつなぐ技術のことだ。

たとえば、念じるだけでロボットアームを動かすような技術の基盤を支えるもの、広義にはブレインテック(BrainTech)の一領域とされている。SFファンタジーのような技術だが、BMIを始めとするマンマシンインターフェースの研究が始まったのは1970年代頃で、意外とアイデア自体は古くから存在していたようである。

▶︎「ブレイン・マシン・インターフェイス」は重度障害者でも念じただけでロボットアームを動かし、日常生活を自然と行える技術を目指している。


実際に人体に外部機器が移植されたのは1990年代中頃になってからといわれている。21世紀に入ると、機能としては不十分ながら視覚や聴覚を補助する人工感覚機器やモーターによって動作する義手・義足といったBMI 機器の人間への移植事例が増加していた。

BMIは世界各国でも研究・開発が進められている。たとえば、米国では2013年、オバマ大統領の時代に脳神経科学を推進する巨大プロジェクトである「Brain Initiative」が発表され、シリコンバレーを中心とした大手企業やスタートアップ企業が次々に市場へ参入した。

実際に大手企業Microsoftは脳で考えただけでアプリを動かす技術の特許を取得している。また、テスラ創業者のイーロン・マスク氏が設立したNeuralinkは、脳で考えただけで電子機器を動かすサービスの臨床試験を始めている。

イスラエルではシモン・ペレス大統領時代にIsrael Brain Technologies(IBT)を設立、多くのブレインテックプロジェクトが現在も進行している。IBTが主催するカンファレンスは隔年で開催され、多くのスタートアップ企業や投資家、政府関係者が世界中から集まるほどだ。

また、IBTはブレインテックを活用した事業に関する資金援助のための活動や創業支援を積極的に行っており、こうしたIBTの後押しもありイスラエルでは100社以上のスタートアップ企業がプロジェクトを進めている。

EUでは「Human Brain Project」と呼ばれる脳の仕組みを理解するプロジェクトが進行中で、その予算規模は2013年からの10年間で約10億ユーロといわれており、脳の全容解明やシミュレーションなどに力を入れている。

中国では2016年から15年間にわたり、国の資金援助のもと「China Brain Project」と呼ばれる脳神経の研究が進められているほか、韓国でも脳科学分野の研究として2016年から「Korea Brain Initiative」というプロジェクトが始まっている。


今後はますます参入企業が増えていくことが予想されるほか、政府主導のプロジェクトも開始されても不思議ではない

このように世界各国で開発・研究が進められているBMI だが、BMI の研究・開発は海外だけで行われているものではなく、日本国内においても多くの企業が研究・開発に取り組んでいる。日本では海外のように政府が音頭を取ってプロジェクトを進めているわけはなく、企業ごとに市場へ参入している形となっている。

たとえば、主に日本国内でシステム開発や情報技術のコンサルティングを行っている株式会社メディアシークは、脳の状態を整える「ニューロフィードバック」という技術を活用した治療用アプリの研究・開発やワーキングメモリの向上に役立つスマートフォンアプリ「ALPHA SWITCH PRO」の開発を行なっている。

ワーキングメモリとは情報を一時的に記憶・処理・利用する能力のことで、日常生活を送る上で必要不可欠な能力だ。

ヨガに最新テクノロジーを取り入れたヨガスタジオ「サイバー・ヨガ スタジオ」を運営している筑波大学発のベンチャー企業・株式会社サイバーヨガ研究所では、自分自身の脳活動や自律神経の状態、ストレスを可視化して、それをもとにヨガのテクニックを応用した自己コントロールのトレーニングを行なっている。

「❶分析❷強化❸適応」の流れで「勝てる脳」を鍛えていくことで、高いパフォーマンスを発揮するためのメンタルコントロールに焦点を置いて研究を進めている。

株式会社neumo は「人類1,000年後の存続への貢献」を理念として、脳神経科学をベースとした音感向上や音感測定の製品開発を展開している企業で、スタンフォード大学やUCLA の支援を受けつつ、独自の技術開発を行なっている。

日産自動車株式会社では、未来に向けた基礎研究の一環として、BMIの研究・開発を進めている。国内を代表する自動車企業だけに脳波測定による運転支援技術の研究に取り組んでおり、この技術はドライバーがヘッドセットを着用することで脳波を計測、解析し、自動運転に適用できるというものだ。

そのほかにも国内を代表する化粧品メーカー株式会社資生堂では化粧品に対する気持ちの変化を脳科学研究で解明しており、塩野義製薬株式会社ではBMI技術に強みを持つLIFESCAPES社との重症脳卒中患者の運動機能回復を目的とした医療機器開発にも取り組んでいる。

凸版印刷では脳科学カンパニー株式会社NeUと共同で行う、人の生体信号・脳活動計測をもとにした科学的クリエイティブ開発手法ニューロデザインの領域で客観的・定量的な視点でクリエイティブの制作に活かす研究を進めている。

このように現時点でもすでに日本国内でさまざまな企業がブレインテック及びBMIの分野で開発・研究を進めている。ブレインテックの市場規模はあと数年で5兆円規模になるともいわれており、今後はますます参入企業が増えていくことが予想されるほか、海外のように政府主導のプロジェクトが開始されても不思議ではない状況だ。

ここまではBMI に関する国内外の取り組みや動向などを紹介したが、では実際にBMI が実用化された場合の問題点などはあるのだろうか。

BMIの導入に対する懸念として議論されているのが、たとえば、脳ハッキングによる操作・洗脳される危険性や脳への刺激・介入によって、個人のアイデンティティ・嗜好性・考え方などが改変されてしまう危険、脳内盗聴や思考盗聴の危険性など、倫理的な懸念に関するものだ。

現段階では空想的に聞こえるかもしれないが、実際にBMI が実用化され、世の中で当たり前の存在になった時は当然こうした懸念が現実問題として浮上してくるだろう。これらの倫理的課題を考慮しながら、BMI 技術は開発・研究が進められているということも知っておきたい。


ワーキングメモリの向上に役立つ「ALPHA SWITCH PRO」


株式会社メディアシークが開発・研究を進めている「ALPHA SWITCH PRO」はポータブル脳波計Muse2と専用アプリ「ALPHA SWITCH PRO」を接続して脳波をベースにしたトレーニングをすることで、さまざまな能力の向上を目指すサービス。

脳波の一種であるα波をトレーニングすることで、短期記憶力を向上させ、集中力を高めるようデザインされたプログラムなどが提供されている。


脳波を計測、解析し、自動運転に適用する「脳波測定による運転支援技術」


2018年より日産自動車株式会社が開発・研究を進めているのが脳波測定による運転支援技術(Brain-to-Vehicle、B2V)だ。

これは脳波測定によってドライバーが行う次の運転操作のタイミングや、ドライバーが持つ違和感を把握するというもので、将来的にはドライバーがヘッドセットを着用することで計測された脳波をシステムが解析、判断し、自動運転に適用したいとしている。



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