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バイナンス・CZ辞任は「一時代の終焉」 玉座を狙い訪れる新時代

Shogo Kurobe
2023/11/23

衝撃を与えたバイナンスCEO・CZ氏の辞任

11月22日、暗号資産業界に衝撃的な一報が轟いた。バイナンスの創業者にしてCEOのCZ(チャンポン・ジャオ=Changpeng Zhao)氏が、辞任を発表した。


バイナンスといえば、世界最大にして最も著名な暗号資産取引所として知られる。暗号資産の現物、先物取引どちらにおいても世界トップ水準で、世界各国で1億5,000万人以上のユーザーを抱えるなど、まさに「業界の盟主」といえる存在だ。

そんなバイナンスを立ち上げ、業界のリーディングカンパニーにまで成長させた人物の突然の辞任。驚かなかった者などいないだろう。

CZ氏は辞任を発表した際、「私は間違いを犯した」と語った。つまり、責任を取る形での辞任となったわけだ。


バイナンス、そしてCZ氏が認めた罪

CZ氏が犯した間違いとは、かねてより米規制当局らから追求されていたマネーロンダリング対策等に関する法律違反だ。これまで一貫してバイナンスやCZ氏は正当性を主張してきたが、ここにきて事態は一変した。

14日、CZ氏は米国の裁判所より出廷を命じられ、UAEから出向いた。UAEで市民権を有するCZ氏は当然出廷を拒否することもできた。しかし、それでも同氏は法廷に姿をあらわしたのだ。

CZ氏は裁判で、「この問題を終わらせにきた」と語った。本人のなかで諦めの境地に達したのか、それとも司法取引で何らかの権利を勝ち取ったのか、真意はわからない。しかし、どちらにせよ規制当局からの追及という呪縛から解き放たれたかったというのは変わらないだろう。

結果的に、裁判所はCZ氏の姿勢を評価しUAEでの判決が下される14日前までの間、UAEで暮らすことを許可した。顧客へ直接的に損害を与えたわけではないが、事業体の規模感を考えれば極めて異例の対応ともいえる。

バイナンス及びCZ氏が認めた罪は、先述したマネーロンダリング対策の実施に加え、銀行秘密法、経済制裁に関する違反だ。特に、米国が定めた制裁対象国と米国民との取引を可能にしていた点を当局は問題視している。さらに、マネーロンダリング対策を疎かにした結果、イランや北朝鮮などといった国々に資金が流れ、それが軍事資金になっているとの見方も示された。


和解金は米国において過去最大規模

すでにバイナンスとCZ氏は司法省と司法取引を行い、和解している。

各規制当局に支払う和解金をまとめると、バイナンスは約43億ドルを支払うことで合意した。日本円にして約6,400億円にのぼる類を見ない規模の和解金だ。司法省によれば、これは米国における企業に科した罰金として、過去最大の規模となる。

さらに、今後の司法取引次第ではあるが、CZ氏自身も5,000万ドル(約74億円)の罰金を支払う見込みだ。これに加えて、CZ氏は米国で18ヵ月服役する可能性も浮上している。こちらも司法取引次第にはなってしまうが、少なくとも数ヵ月の服役となる可能性は十分考えられる。

和解内容には、グローバル版バイナンスの米国完全撤退も含まれる。バイナンスはすでに米国法人としてバイナンスUSを運営しているが、こちらはこれまで通り運営されるようだ。

ジャネット・イエレン財務長官によれば、あくまでも撤退するのはバイナンス本体であり、同取引所とは運営母体が異なる上に、ライセンスに則って運営が行われているバイナンスUSは影響を受けることはないとしている。


CZ氏の辞任は「一時代の終焉」

CZ氏の辞任を受け、暗号資産業界は転換期を迎えることとなる。業界の一喜一憂、喜怒哀楽、そのすべての中心で立ち回っていたCZ氏が一線を退き表舞台から立ち去ろうとしていることは、一時代の終焉を物語っている。

同じように語る人物がいる。カルダノの創設者であるチャールズ・ホスキンソン氏だ。ホスキンソン氏はCZ氏を「(暗号資産業界が)急速に成長し革新であることを体現した、我々の時代における暗号資産業界の最も偉大な起業家だ」と絶賛した。

また、米暗号資産取引所コインベースのブライアン・アームストロングCEOは、「今回の一件が規制の明確性を示す触媒となってほしい」と述べた。コインベースもSEC(米証券取引委員会)より証券法違反等で提訴されていることから、規制当局らに対する要望とも取れるメッセージだ。

上記の2人も指摘しているが、バイナンスとCZ氏の事実上の敗北を受け、業界の関連企業は今後、完全に規制に準拠しない限りグローバルで戦えなくなる。あるいは、許可を必要としないDeFiなどのサービスを興起させることで芽が出るかもしれないが、いずれ大規模な規制の対象となる未来は目に見えている。

さらに踏み込んでいえば、世界の中心で玉座につく米国の意にそぐわないサービスがあれば、どこの国で事業を行おうとも何らかの形で動きを制限される可能性があるだろう。

我こそは世界の盟主と名乗り、先進性を打ち出して先頭に立とうという者こそ、実は後ろ足を引っ張る。自らがまだ追いつけないとわかるや否や、前に進む者の足を止め、引き摺り込むのだ。

規制整備に遅れをとり、明らかにWeb3.0領域で中東や新興国と比べると存在感が後退しつつある米国が現在できることは、古い規制に則ったイノベーションの締め付けしかないのかもしれない。Web3.0領域だけの話に限れば、そうした状況から脱却するためにも、まずは一刻も早く規制を明確にし、整備することが必要となるだろう。


「空いた玉座」狙う者たちが集う新時代

バイナンスの新CEOにはリチャード・テン氏が就いた。テン氏はこれまでバイナンスにおける地域市場部門グローバル責任者として指揮をとってきた人物で、アブダビ・グローバル・マーケット (ADGM) の金融サービス規制当局におけるCEOを務めるなど、30年以上にわたる金融業界でのキャリアを有する。

テン氏を抜擢した背景には、米国以外でも課題を抱える規制面でのコミュニケーションを円滑に進める狙いが透ける。また、そうした規制当局に対し規制を遵守する姿勢を打ち出す目的もあるだろう。

一方で、実務者としての実績はあるかもしれないが、CZ氏が築き上げてきた「業界の顔」としてのポジションも担うには役者不足感が否めないのも事実。まだ就任から間もなく、ここから露出の機会が増えれば見方にも変化が生じるかもしれないが、現時点ではバイナンスのブランドイメージを背負って立つほどのビジョンはみえてこない。

そうなると関心が高まるのは、CZ氏が退いたことにより空いた業界の玉座に座る次なる人物だ。

CZ氏という絶対的支柱がなくなった今、今後バイナンス内での権力争い、勢力図にも変化が訪れる可能性はある。しかし、CZ氏の存在感があまりにも大きすぎたゆえ、バイナンスには「ポストCZ」を育てる時間はそう多くなかったはず。そう考えると、席を確保する人物を探すにはまず外部に目を向けるべきだろう。

客観的な視点に私見も交えれば、現時点でコインベースのCEOであるアームストロング氏は最も業界の顔として存在感を放っていく可能性が高い人物の一人であるといえる。

CZ氏を中心に築いた時代が、暗号資産の存在を世に広め、イノベーションの構築段階であったとするならば、次に訪れるのは「規制に完全準拠した時代」だと考える。

これまでもそうだったかもしれないが、明確に顧客保護へ焦点が当てられ、規制遵守を求められるようになったのはたった数年前からの話だ。そうなると、すでに規制に準拠したサービスを手がけ、規制の明確性を強く求めているアームストロング氏は、これから訪れる時代にマッチし、これまで以上に重要な旗振り役となる可能性が高い。

ただ、業界の移り変わりは非常に早い。もしかしたら、現在議論しているポストCZは、とっくに過去の人物となっている可能性もある。あるいは、これから新進気鋭の起業家があらわれ、すぐさま玉座を手中に収めるかもしれない。これも動きが非常に早い暗号資産業界だからこそ起こりうると考えられる事象だろう。


一連の出来事が与えた好影響

バイナンスとCZ氏が規制当局と和解したというのは業界にポジティブな影響を与える可能性がある。

少なくとも、今回の出来事が暗号資産価格に与えた影響は極めて小さく、すでにビットコインなど主要銘柄を中心に価格は戻っている。むしろ、業界にとって懸念すべき問題が1つ消えたこともあり、1度生じた価格下落は市場への参入の機会を与えるものであったといえるだろう。

また、突如としてバイナンスが閉鎖する、あるいは状況がわからないままCZ氏が逮捕されるなどといった事態に陥れば、それこそ市場に与える影響は計り知れない。事実、米司法省はCZ氏の逮捕やバイナンス解体に向けた動きなどを強めれば、市場に壊滅的な影響を及ぼすと懸念していた。

そう考えれば、今回の和解という結果は、業界にとって未来を見据えた最善の幕引きであったといえる。

さらに、今回の一件を受け、米国における規制整備や議論はますます加速していくことが予見される。これがきっかけとなり、市場環境が整備されれば多くの起業家などがこれまで以上にWeb3.0領域へ参入しやすくなり、イノベーションが加速していく可能性もある。

業界はスピード感を持って動いている。次の時代に向け、あらたなスタートを切る瞬間が今、訪れたのだ。

画像:Shutterstock



Profile

◉Shogo Kurobe
2018年より暗号資産業界に参入。学生時代に文章を学び小説執筆などを行ってきた経験から暗号資産やブロックチェーンに関する記事執筆及び企画・編集に携わる。株式会社J-CAMで2022年4月より副編集長に就任し現職。2023年3月に「Iolite(アイオライト)」創刊。



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