——投資信託の業界には、パンデミックや紛争等の地政学的要因の影響はありましたか?
澤上篤人(以下・澤上):基本的には何も変わらなかったといえます。日本の投資信託そのものは業界としては大きく、購入できる公募投信のファンド数は6,000本を超えています。
あくまでこれは日本の投信信託に関してですが、日本の投資信託業界では投信会社が販売のために投資信託を行っているので、乱暴ないい方をするとどこかでパンデミックが起こったり、どこかで紛争が起こってもほとんど関係ないのです。
——「販売のために投資信託を行う」とは具体的にどのようなことでしょうか?
澤上:「販売のための投資信託」とは、大手証券会社や銀行の手数料稼ぎの道具ということです。日本の多くの投信会社は大手証券会社や銀行の子会社です。そして、親会社である大手証券会社や銀行は長期運用よりも販売手数料で儲けたいと考えています。
このような状況になっている理由として、大手証券会社や銀行は手数料が主な収入源となっていることがあげられます。そうなると、顧客に頻繁に取引してもらう必要があります。
これを回転売買といいますが、顧客に頻繁に取引しても らうには新商品が必要です。そこで大手証券会社や銀行は子会社の投資信託会社にあたらしい投資信託を設定させ、それを売って手数料を稼いでいるというわけです。
——先ほど「あくまでこれは日本の投信信託に関して」とありましたが、このような状況は日本独特のものなのでしょうか。
澤上:そもそも投資信託という発想は一般生活者のために生まれたものです。その起源は19世紀ヨーロッパのナポレオン戦争の時代まで溯ります。
その昔、投資運用といえば資産家などの富裕層のものでした。戦争未亡人などが国から一時金を受け取り、運用しようにも少額の一時金では富裕層のように専門家に個別対応してもらえなかった。そこで自然発生的に生まれたのが投資信託という発想だといわれています。
しかし、先ほど説明した通り、日本ではその真逆、大手証券会社や銀行の手数料稼ぎとなってしまっているのです。