人類が初めて宇宙空間に到達した「有人宇宙飛行」を実現させたのは1961年4月。それ以来、数多くの宇宙飛行士たちが宇宙へ飛び立ったが、いずれも国家プロジェクトだった。しかし、2020年代に入り、ついに民間による史上初の有人宇宙飛行が実現し、いよいよ、人間の旅行領域が「宇宙」へ広がる時代がやってきた。
1961年4月に当時のソ連が宇宙船「ボストーク」を打ち上げ、人類が初めて有人宇宙飛行に成功。初めて宇宙から地球をみたユーリ・ガガーリンは地球に帰還後、『地球は青かった』といった。1969年7月にはアポロ11号から切り離された月着陸船が月面に着陸。人類は初めて月の地面を踏んだ。
スタンリー・キューブリックの世界観では2001年には宇宙の旅ができると思われていたが、実際に世界初の宇宙旅行が実現したのが2001年。米国の大富豪デニス・チトー氏がロシアの宇宙船「ソユーズ」に乗り込んでISS(国際宇宙ステーション)に7日間滞在した。ちなみに宇宙旅行のためにチトー氏が支払った代金は2,000万ドル(当時のレートで約24億7,000万円)だったといわれている。
民間による史上初の有人宇宙飛行が実現したのが2020年5月。スペースX社のクルードラゴン宇宙船が2名の乗員を乗せISSに到達している。それでも、現在のところは一部の富裕層が道楽で楽しむ程度のものに留まっている。なぜなら、宇宙旅行にかかる費用が莫大な金額だからだ。
宇宙旅行とひとえにいっても、大きくわけて3つの宇宙旅行に大別される。まず「サブオービタル旅行」。ロケットで宇宙空間を一瞬訪れて、すぐに地上に戻る旅行だ。地上でボールを投げると弧を描いて地面に落下するようなイメージで、宇宙の境界を超えるが、地球を周回する軌道には入らず、旅行者は宇宙からの景色や無重力状態を数分間体験できる。
次に「オービタル旅行」。地球を周回する軌道に入る旅行で、地球周囲の宇宙空間に滞在し続けるので、サブオービタル旅行より長く宇宙からの景色や無重力状態を楽しめる。
将来的に宇宙旅行が一般化した時にベースとなるのがこのオービタル旅行だ。日本では実業家の前澤友作氏がオービタル旅行でISSを訪れ、宇宙飛行士と共同生活を送っている。将来的には宇宙ホテルでの滞在や宇宙遊泳なども楽しめるようになるかもしれない。
最後に「深宇宙旅行」。地球の周回軌道を超えて、月や火星、そのほかの天体を目的地とする旅行で、将来的には月旅行や火星旅行など楽しめるようになるだろう。では実際に民間人が手軽に宇宙旅行できるようになるにはどの程度の時間がかかるのか。まず2024年現在、宇宙旅行の費用は種類によって大きく異なるが、宇宙旅行にかかる費用は地球を周回するオービタル旅行が数十億円、短時間宇宙へ飛び出すサブオービタル旅行でも数千万円ほどと、高額な費用が必要なため、この費用が海外旅行程度に収まる金額になる必要があるだろう。
宇宙産業市場は爆発的に成長し2040年には現在の2倍以上の120兆円規模に拡大の見通し
また、実際に宇宙旅行に行く際には年齢制限など細かな健康条件もあり、高血圧(収縮期160mmHg以上、拡張期95mmHg以上)、激しい乗り物酔い、心臓、肺、内臓などの疾患、妊娠中、坐骨神経痛、ヘルニアなど症状を持つ人はNGとなっており、メディカルチェックの上、健康診断書の提出が求められる。
さらに自分の身体にどのような負荷が掛かるのかを疑似環境で体験するなど、事前の訓練が必要となる。現状ではこのように費用や訓練、身体検査などの諸条件があり、費用とともにこれらのハードルが下がってきた時に海外旅行に行くような感じで宇宙旅行ができるようになるだろう。
その一方で宇宙産業市場は爆発的な成長を続けており、2040年には現在の2倍以上である120兆円規模に拡大する見通しを立てている有識者もいる。WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)が発表した資料によると、2018年時点での全世界の旅行産業の市場規模は約968兆円(約8兆8,000億ドル)、日本でも旅行産業は一大産業で、同じく2018年時点における日本の旅行産業の市場規模は約40兆6,042億円で世界3位、ここに宇宙旅行産業が加わるとさらにその産業規模が拡大されていくことだろう。
国内外ですでに宇宙旅行サービスを展開している企業も出てきている。現在、宇宙ビジネスの実現に向けて動きがある旅行サービスは大別すると大きく以下の4つ。
- 無重力体験できる小宇宙旅行
- 宇宙滞在旅行
- 宇宙経由旅行
- 月・火星への移住
ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏が立ち上げた宇宙旅行会社「ヴァージン・ギャラクティック」は宇宙旅行会社としては黎明期からいる企業のひとつ。ヴァージン・ギャラクティックの事業目的のひとつに「宇宙船を製造して打ち上げること」があり、実際に2019年2月にパイロット以外の人員1名を乗せた宇宙船「VSS Unity」を宇宙空間に到達させている。
Amazon創設者のジェフ・ベゾス氏は航空宇宙企業「ブルーオリジン」もヴァージン・ギャラクティックと事業目的はほぼ同じであり、人類がより安価に宇宙へ飛び立てるようにすることをコンセプトに宇宙事業を展開しており、現時点での料金は一人当たり20万ドル(約2,200万円)を予定している。
スペース・パースペクティブ社は成層圏気球と有人カプセルを用いて上空30kmまでの旅行ビジネスを提供。宇宙空間まで到達せず、無重力を感じることもできないものの、模擬宇宙旅行といえるサービスを展開している。予定料金は1人12万5,000ドル(約1,300万円)。
日本でもPDエアロスペースが民間主導の宇宙機開発を行っており、有人機、無人機の完全再使用型の宇宙機を開発中で、ANAHDやエイチ・アイ・エス(HIS)などから出資を受け、沖縄県宮古島市にある下地島空港を「宇宙港」として整備し、将来的には有人・宇宙旅行の拠点化を目指している。
このように国内外で宇宙ビジネスが展開されており、徐々に宇宙旅行が身近なものになってきている。今後も成長市場としてますます目が離させないといえるだろう。
▶︎JAXAと日清食品が共同開発した日清スペースカップヌードルを始めとする宇宙食。ISS内で給湯可能な70℃のお湯で湯戻し可能な麺となっている。
「クルードラゴン」で宇宙旅行「8日間の宇宙生活を体験できるISS滞在旅行
イーロン・マスク氏率いるSpaceXは同社が開発した有人宇宙船「クルードラゴン」を利用したISS滞在旅行を提供している。クルードラゴンはケネディ宇宙センターの発射台から打上げられ、ISSへのドッキング後、参加者らは宇宙飛行士が活動するISS内で8日間過ごし、クルードラゴンで地球に帰還する。ツアー料金については公表されていないが、米航空宇宙局(NASA)による試算では1席あたり約5,500万ドル(約60億円)。
「ソユーズ宇宙船」で宇宙旅行「10日間のISS滞在旅行」
スペースアドベンチャーズ社が提供するのはロシアの有人宇宙機「ソユーズ宇宙船」による約10日間のISS滞在旅行。最大3名の参加者を乗せたソユーズ宇宙船は、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、ソユーズロケットにより打上げられ、6時間~2日間かけてISSにドッキング。参加者は、ISSに10日間滞在し、無重力環境での生活を体験する。ツアー料金は公表されていないが、ざっと数十億円とみられる。