Profile
◉オードリー・タン (Audrey Tang:唐鳳=タン・フォン)
シビックハッカー
2016年から台湾のデジタル担当政務委員(大臣に相当)。小学校1年生で受けた知能検査で最高レベルをマーク。幼い頃から発揮したプログラミングの才能を生かし、19歳でスタートアップ企業の代表に。24歳でトランスジェンダーとして生きることを決意。AppleでSiriの開発に関わり、台湾の新しい国家教育カリキュラム開発に参加。デジタル担当大臣として、新型コロナウイルス拡大に伴い、マスクマップアプリや感染者の足跡を辿るアプリを開発して世界に知られる。2019年、Foreign Policy誌の「Top 100 Gl obal Thinkers(世界の頭脳100人)」に選出される。
——現在のWeb3.0分野の状況と将来について、特に暗号資産やブロックチェーンに関する見解をお聞かせください。
オードリー・タン(以下、タン):まず最初に、私にとってWeb3.0領域においてよく使われる「Crypto(クリプト)」が必ずしも「暗号通貨」とリンクするわけではなく、「暗号」という認識になりうることをお伝えしたいです。
応用暗号、プログラム可能な暗号、一般的な暗号技術は非常に強いポテンシャルを感じさせます。そして、暗号と通貨のつながりにおいて、暗号資産(仮想通貨)は「Web3.0」の代名詞的な認知がとられていますが、私にとっての「Web3.0」は暗号技術を使用して、より民主的で多元的な思想の受け入れを可能にした世界観だと考えています。通貨は確かに1つの応用例ですが、私が考える主な応用例ではないということです。
私の本「Plurality.net」では、Web3.0を1つの目標として一貫して表現しています。本のなかではWeb3.0技術、Web3.0コミュニティなどについて書いていますが、特定の終着点としてのWeb3.0については明言していません。その理由は、Web3.0の終着点をあげることによって、特定のビジョンに近付き、そのほかの可能性に適応しにくくなると思うからです。
質問に戻りますと、暗号技術の応用は通貨以外にも多くの応用例があることが人々に理解され始めていることは事実です。台湾では、2022年にデジタル省を設立した際、すべてのウェブサイトのコンテンツをインタープラネタリファイルシステム(IPFS)に公開し、世界中の人々にコンテンツを固定してもらうように依頼しました。これにより、サービス拒否攻撃を受けてもアクセス可能な状態を維持することができています。私たちはファイルコインを使用していないため、この暗号技術の使用には暗号資産が関与していませんが、これもWeb3.0の一例といえるでしょう。
もう1つの例としては、Decentralized Identifier(分散型識別子)の使用があります。これはたとえば、私が18歳以上であることを証明できる一方で、誕生日をみせる必要がないという一種の応用暗号です。しかし、ここでも暗号資産は関与していません。このように、暗号資産を介さない暗号技術の応用に向けて分野は大きく成長していると思います。
もちろん、暗号資産は依然としてWeb3.0分野に人々を引き付ける重要で中心的な応用例の1つですが、通貨以外の多くの問題にも対応できるのです。
また、暗号資産は既存の金融システムと連携する必要があると認識され始めており、既存の法定通貨が提供する安定性や利便性が十分でない地域では、暗号資産が価値を提供していることがわかります。過去数年間で、暗号資産が消えるという意見はほとんど聞かれなくなりました。人々はついにそれが定着し始めていることを認識している状態にあると考えられます。