昨年半ばから今年にかけて、「ジェネレーティブAI」がネット上で大きな話題となっている。そのなかでも昨年末に公開された「Chat GPT」を筆頭にした「人工知能チャットボット」が今、大きな過渡期を迎えている。
さまざまなプラットフォームに取り入れられ、活躍の場を広げている「対話型AI」をどのように使いこなすか?
今年初頭から各所で話題になっている「ChatGPT」とは、いったいどのようなものなのだろうか。
ChatGPTは、LINEやMessengerのようにテキストで「会話するように」双方向でやり取りが可能な「人工知能チャットボット」の1つ。テキストを通じて何気ない会話や問答をAIと楽しんだり、わからないことや調べたいことをAIに尋ねることができる。
人工知能チャットボットはChat GPT以外にもさまざまなものが数多く存在しているが、ChatGPTはインターネット上の5兆語以上の単語を学習しており、回答の正確さや表現の自然さに優れているのが特徴。さらには先に尋ねた質問や回答を踏まえて、より踏み込んだ対話を行えることで注目されている。
製作しているのは米国のNPO団体である「OpenAI」であり、昨年11月にサービスが公開された。なお「GPT」は「Generative Pre-trained Transformer」の略称となっており「事前学習済み文章生成型言語モデル」といった意味を持つ。
基本的にChatGPTはOpenAIが公開しているサイトにログインする形で使用するが、今年3月にはメッセンジャーアプリである「LINE」上で動作する「AIチャットくん」というボットもリリースされている。
このAI チャットくんは1日5回まで無料でやり取りを行うことができ、リリースからわずか10日間で、やり取りされたチャット数は600万回を超えた。
そのほか、「GMOインターネットグループ」も創業20周年特設サイトにて「教えてロリポおじさん」というサービスに活用している。またブログ系メディアプラットフォームである「note」もChatGPTと連携した創作支援ツール「note AIアシスタント(β)」を公開した。
ChatGPTに対しては単純に会話を楽しんだり悩みを相談できるほか、たとえば日々のレシピのおすすめを聞いてみたりできる。
さらに実用的な部分では、たとえばYahoo!など大手サイトのみつけにくい問い合わせ窓口も訊けば教えてくれる。さらには、仕事で必要な謝罪文や結婚式のスピーチなどのテンプレートなどを作成してもらうこともできる。
こうした一般的な使い方に加え、ChatGPTはさらに踏み込んだ活用方法もある。
たとえばChatGPTは日本語にもかなりのレベルで対応しているが、基本的に日本語よりも英語の入力に対しての方が的確な回答を返してくれる。これを利用してネイティブの英語話者と会話するように英会話の練習を行うことも可能。
また、現在では公開されているChatGPTのAPIを利用して、制作された英会話アプリも多数登場している。AIとの対話のため、対人で感じる恥ずかしさなどを感じずに練習できるのもポイントだ。
また、小説などの創作分野ではまだまだ難しい部分が多いChatGPTだが、簡単なクイズやなぞなぞの制作なら違和感なく行うことも可能。比較的苦手としている小説などに関しても、登場人物の設定や基本プロットの制作などにおいては十分に役に立つ。
さらには「餅は餅屋」ではないが、ChatGPTはプログラミングコードの生成も得意だ。SNS上ではChatGPTを使ってTwitterのクローンサイトを制作した人物もあらわれている。
またChatGPTをスプレッドシートに組み込むことも可能。Google SpreadSheetに関数として設定すれば、シート上でさまざまな質問に応答を得られるようになる。
より専門性の高い分野においても、米国の難関試験といわれるMBA(経営学修士)試験に合格する成績を出し、日本の医師国家試験においても正答率「55%」を記録するなどの高性能ぶりを発揮している。
このように多くの場面で活躍するChatGPTだが、もちろん注意点も存在する。1つは、現在のChatGPTは基本的に2021年までの普遍的な情報を学習しているため、最新の情報に関しては尋ねても答えられないことが多いということ。
またChatGPT はあくまでAIに大量の単語を学習させることで、基本的には「直前の単語と確率的に関連性の高い単語」を予測して出力しているに過ぎない。それゆえに間違った情報を出力することも多々ある。そのため、現在では「検索エンジン」や「事典」の代わりとして使うには課題も多いといわれている。
フェイクニュースや差別の助長、フィッシングなど、AIチャットボットが孕むリスクも大きい
ChatGPTを筆頭にした人工知能チャットボットが社会に及ぼすリスクについてもさまざまな懸念がある。1つは企業セキュリティに関する問題だ。
現在でもすでに、ChatGPTなどのAIを活用したチャットボットがディープウェブやアンダーグラウンドのフォーラムにて悪用され、フィッシング攻撃に利用されているという。またサイバー犯罪者の間では、プログラムコードの記述を高速化するためにChatGPTが用いられた形跡も確認されている。
加えてフェイクニュースやディープフェイク、偽情報の拡散にもChatGPTが悪用される懸念がある。実際、数年前にMicrosoftが公開したAI「Tay」が、1日も経たずに差別的思想に「汚染」されてしまったという事例もある。
ChatGPTはその点にかなり配慮し、慎重に排除を行っているが、それでも完全とは言い難い。さらに「意識的」に悪用する人間があらわれれば、政治的プロパガンダや世論操作などにも活用できることは想像に難くない。
米国のスタンフォード大学の研究機関は今年1月、ChatGPTなどのジェネレーションAIによる世論操作の懸念と対策をまとめた報告書を発表した。これは簡単にいえば、世論操作のコストパフォーマンスが非常に良くなってしまうリスクを指摘したものだ。
技術革新が起こる際には何事にも一定のリスクが存在するが、今後は人工知能チャットボットの悪用を防ぐために別の人工知能チャットボットを活用する、といった「AI代理戦争」の様相が現実味を帯びてきているともいえるだろう。
OpenAIは、3月15日にこれまでのChatGPTに使用されていた「GPT-3.5」からバージョンアップした「GPT-4」を発表。
さらに、同日にはOpenAIの元従業員が立ち上げた「Anthropic」がChatGPTよりも会話が得意だと謳う「Claude」を正式発表した。
ChatGPTにはMicrosoftが、ClaudeにはGoogleがそれぞれ多額の出資を行っており、ビッグ・テックを巻き込んだ過激な人工知能チャットボットの競争が繰り広げられているのが現状だ。
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