今では考えられないほど、幼少期はよく泣いていたことを思い出した。あの頃のように純粋で人間らしく生きることができた夏の終わりの話をしたい。
学生時代の夏の暑い日、友人とスキューバダイビングのライセンスをとりに行った。
当時インストラクターから教わったのは、荒波に揉まれて身の危険を感じた時には、近くの大きな岩にしがみ付いて上級者の助けを求めること。かといって凪の海も魅力がない。ヨットは風を受けて進むが、最も困るのは無風の時だという。一見向かい風の方が進み難いようにも思えるが、「タッキング（tacking）」と呼ばれる方法で帆を斜めにして向かい風を受け、ジグザグに進めるというのだ。どこか人生にも似たものを感じるのは私だけだろうか。
Iolite（アイオライト）が世に生み落とされてから約1年半。さまざまな困難に直面したが、ヨットのタッキングのように多くのサポートを受けながら乗り越えられた。完璧主義の自分に追い詰められていたのか、今年に入ってから原因不明の不調とも折り合いを付けながら、何とかやってこられた。荒波に揉まれながらも必死にしがみ付くような感覚だった。
振り返ってみれば、編集長という役目を受けてから今に至るまで、さまざまな経験をしてきたが、Ioliteが誕生するまでの過程が、私にとっては最も感慨深い期間だった。
いつかの編集後記でも書いたかもしれないが何の巡りあわせか、何かを生み出す経験は、学生時代に野球部がない学校に入学したこともあって、創部という形で2回経験したことがある。幼少期には、幼馴染の女の子によく泣かされていたのに、この頃には、涙も枯れたのか感情を失ったのか、感動はするものの涙を流すこともなくなっていた。学生なりに修羅場を潜る経験をした代償だとしたら、時を巻き戻したい気持ちでいっぱいだ。
今年の夏の終わりにも不思議な巡りあわせがあった。6月頃だっただろうか。8月28.29日のWebXという国内最大級のカンファレンスに弊社が参画を表明。カンファレンスへの出展にあたって、Ioliteで陣頭指揮をとる座組みとなった。ここから本格的に関連業務に従事することになる。不思議なことにこの頃から、快気の兆しもみえ始める。
本質的にあたらしいことへの挑戦や創造が性にあうのだろう。私ごとでおそれ多いが、カンファレンス数日後の9月1日は第一子の出産予定日もあった。これが私にとって忘れられない思い出を構成する要素だった。
ここにつらつらと当時進行していた業務を並べたところで、味気のない文章になるので割愛するが、人生で最も寝食を忘れて没頭していた期間であることは間違いなかった。大学生時代に3年で単位を取り切ると意気込んで、朝の8時から19時まで、1週間みっちり授業を受けた後に、アルバイト先の飲食店で深夜の2時まで働いて、帯状疱疹になった時よりも遥かにハードワークしていた。
Ioliteが持つすべてのリソースを投下した甲斐もあってか、WebXも無事に終えることができて、8月31日には無事娘も生まれた。この1週間は幼少期の泣き虫だった頃の私に戻ったようだった。仕事で涙したのは、学生以来だろうか。それでも、人間らしさに満ち溢れ、あらたなステージに立つ経験を通して、人としてまた1つ強くなれた。誕生に立ち会う経験は、人生における最大のギフトの1つであり、自分に生まれ変わるきっかけを与えてくれる。
「人生は困難に満ちているが、それでも美しい」
貧困や病気に苦しむ人々への献身的な支援活動で、1979年にノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサが残した言葉の1つから、人は存在そのものが美しく、そして、逆境や苦境に立たされてもなお、人は美しいと諭す意図がわかった気がする。
人は美しい。そして逆境や困難に立ち向かう人もまた美しく稀有な存在だ—
Interview Iolite FACE vol.10 デービッド・シュワルツ、平田路依 PHOTO ＆ INTERVIEW「ゆうこす」 特集「日本国内の暗号資産業界動向」「トランプvsハリス 暗号資産業界はどうなる？ 」「評価経済社会は予言書だったのか」 Interview ：株式会社メタプラネット サイモン・ゲロヴィッチ、CALIVERSE キム・ドンギュ 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等
