What's Ripple
従来の国際送金などにおける課題を解決すべく開発されたソリューションなど、金融機関向けにデジタル資産インフラを提供している。現在、リップル社としては、XRP Ledger(XRPL)を活用したさまざまな展開に注力しており、なかでもカストディとステーブルコイン領域への本格参入は業界の内外から注目されている。
──リップルは長年にわたりSEC※1との法廷闘争を繰り広げてきましたが、それもそろそろ終止符が打たれようとしています。SECと戦ってきた数年間をどのように捉えていますか?
デービッド・シュワルツ(以下、デービッド):私たちにとって最悪なクリスマスを過ごしてから数年が経ちました。完璧ではないものの、訴訟の進行状況にはかなり満足しています。訴訟が起こされたあの日、従業員の多くが米国におり、誰しもが今後の行く末を心配しました。
今でもあの日は最悪であったと覚えています。なぜならば、米国市場は私たちにとって重要であるにもかかわらず、米国政府は私たちが築きあげたものを壊そうとしたわけです。だからこそ、これまで私たちは規制当局に対し「イノベーションの機会を海外に流出させようとしている」と説明し、適切な規制を求めて闘ってきました。
同時に、この訴訟が私たちにとって米国外へと視点を移すことのきっかけになりました。私たちはより革新的でオープンな環境を求め、決済面でもブロックチェーンの技術的な面でも開発に注力できる米国外へ多くのビジネスを移しつつあります。
──リップルが注力する地域として、東南アジアの存在は一際目立っているようにもみえます。
デービッド:東南アジアは急成長している市場であり、世界経済においても重要な役割を占めようとしています。また、多くの開発者が東南アジアにおり、市場の需要も感じることから、日本と同様に重要な地域として位置付けています。
競合他社からではなく自らの実力でシェアを切り拓くステーブルコイン領域への参入であらたなフェーズに突入
──リップルはステーブルコイン※2領域に本格参入し独自ステーブルコイン「RLUSD」の発行に向け準備をしていると思いますが、現在の状況と正式ローンチ時期のおおよその目安を教えてください。
デービッド:現在、RLUSDはテスト環境で試験運用が始まっています。ここでは発行から転送、償還、規制遵守といった全体のフローを確認・監視している形です。一方、これらのフローの一部では、規制当局の承認に依存する部分があり、これは私たち自身がコントロールできる部分ではありません。ですので、正式ローンチの具体的な日時までお伝えすることは現段階では難しいといえます。また、あまりにも早く進めすぎてプロジェクトの増強が追いつかないという事態も避けたいと考えています。
そうした背景も加味し、段階的にプロセスを進めている状況です。現時点で今年中にはメインネットワークで稼働が開始し、米国市場で流通している状態になっていると見込んでいます。ただ念押ししておきたいのは、最初に発行されたRLUSDが無制限かつ世界中の誰もが利用できるというわけではありません。ここは先ほどお話しした規制当局の承認時期によって左右されます。
──SECとの裁判が、承認やその時期に何らかの影響を与える可能性についてはどのように考えていますか?
デービッド:裁判の進捗がステーブルコインの承認に影響するとは考えていません。実際、ステーブルコインのローンチをニューヨークの信託口座と連携して行うことになったことに私自身も驚きました。そして、米国外で発行されている米ドルを裏付け資産とするステーブルコインについても、SECとの裁判が影響することはないでしょう。
──ステーブルコインに関する発表をした際に、「市場を勝ち取るつもりだ」という強気な発言もありましたが、どのような要因がこのような自信につながっているのでしょうか?
デービッド:今思えば、これは非常に大胆な発言でしたね(笑)。しかし私自身、私たちがステーブルコイン市場を勝ち取ることを信じています。
私たちには10年以上にわたってブロックチェーンを活用したエンタープライズビジネスに携わってきた豊富な経験があります。エンタープライズ向けの決済ソリューションを提供してきたからこそ、そのために必要なソフトウェアとテクノロジーを構築する方法も知っています。これが大きな自信につながっています。
また、私たちは強固なバランスシートを持っており、これはステーブルコインを発行する上で極めて重要な武器となります。これに加え、ブロックチェーンを活用した決済ソリューションの豊富な提供経験と、ニューヨークの信託ライセンスを保有していることも考慮すると、私たちは非常に良いポジションにいると考えています。ですから、私たちがこの市場から消えていなくなるということもまったく考えていません。
これらの武器とXRP Ledger(XRPL)※3への接続を活用し、業界をリードするステーブルコインにする予定です。ステーブルコイン市場は非常に大きく成長している市場です。また、このような新製品を投入するのに最適な状況を迎えていると捉えています。
──ステーブルコイン市場にはすでにUSDT※4やUSDC※5といった強力な競合がいます。リップルはこれらの競合と対峙していく上でどのような戦略をとっていきますか?
デービッド:まず最も大きなポイントとしては、私たちはニューヨークの信託ライセンスを通じて発行するということです。ほかの競合他社の多くはこうしたライセンスを保有しておらず、私たちほど送金に対する安心感を兼ね備えて提供はできないでしょう。
また、ステーブルコインの発行では準備資産の透明性が重要です。高いレベルでの監査基準も必要になるでしょう。現状、透明性という観点ではUSDTよりもUSDCの方が高いかもしれません。それを上回る透明性を我々は確保します。RLUSDに限った話ではありませんが、ステーブルコイン市場にはあらたなトークンを流通させる上で2つの利点があります。
まず1つ目は、ステーブルコイン市場が急速に成長しているため、必ずしも競合他社からシェアを奪うという考え方を持つ必要がないことです。ステーブルコイン市場全体の規模は、1年後には約2倍にまで拡大していることでしょう。そうなった時に重要なのは、今後拡大していくステーブルコイン市場にあわせて、我々自身が同じようにシェアを広げていくことです。
2つ目は、DeFi※6の構築です。エコシステム全体を1つの会社の資金によって構築することは良いことであるとはいえません。たとえば1つのレイヤー1ブロックチェーンがあったとして、それが企業や1つのトークンに依存していては意味がありません。そこには複数のトークンが必要となるでしょうし、DeFiのような分散性を持っている市場でこそ、ステーブルコインの真価が発揮されます。
──リップルは先日、サイドチェーン「XRPL EVM Sidechain」の導入や、XRPLにネイティブスマートコントラクト機能を追加することなどを発表しましたが、これらの計画の重要性について教えてください。
デービッド:まずXRPL EVM Sidechainは、EVM(イーサリアム仮想マシン)との互換性を持ったサイドチェーンです。これにより、ユーザーはほかのEVMと互換性のあるブロックチェーン間で、ガス代※7やネイティブトークンとしてラップドXRP(eXRP)へアクセスし利用することができます。
次に、XRPLへのネイティブスマートコントラクト機能を模索しており、これを導入することでユーザーや開発者はあらたな体験をすることになります。XRPLでは現在でもDEXや自動マーケットメーカー(AMM)、NFT、またレンディングなどの機能を兼ね備えていますが、実際には私たち自身が思っているほど完璧なものではありません。
しかし、ネイティブスマートコントラクト機能によってこれらの利便性が向上し、よりユーザー自身が希望する機能を利用することができるようになります。現在XRPL自体で独自のDeFiサービスを構築することはできませんが、ネイティブスマートコントラクト機能によってそれも可能になります。
これまで、XRPL上で構築できたのは基本的にユーザーインターフェースのみでした。しかし、開発者たちは独自の製品をXRPL上で構築したがっています。ネイティブスマートコントラクト機能の導入は、こうした開発者の需要にこたえるだけでなく、彼らにとっての希望にもなります。これが極めて重要なことです。
──デービッドさんからみて、日本はどのような市場に映っていますか?
デービッド:日本はリップルにとって常に重要であり、暗号資産業界にとっても極めて大切な市場です。規制環境も安定していて、プロダクトの立ち上げも楽に行える環境だと捉えています。DeFiをリテール分野の人たちでも活用できるコミュニティが構築されているのも印象的です。また、XRPは日本で非常に人気がある暗号資産となっていて、この地域で取引されるトップ3にも入っています。
私たちは7年前にSBIグループと提携して日本でのマーケティングを強化しました。それまではリップルに日本でのマーケティングを行う専門知識やリソースがなかったのです。当初は日本の金融機関における決済導入やマーケティングに関する提携でしたが、現在ではその枠を超え、XRPやNFT、そしてXRPLの利活用にまで拡大しています。
そして約2ヵ月前、私たちは日本と韓国の開発者を支援するためのファンドを立ち上げました。これは開発者への助成金やパートナーシップの構築、コミュニティサポートを目的としたものです。このファンドにはすでに数多くの申請が寄せられている状況です。
──どのような点を改善すると日本市場はもっと良くなり、海外のプレイヤーなども参入しやすくなるか、デービッドさんの見解をお聞かせください。
デービッド:必ずしも変わっていく必要はないと思います。なぜなら、すでに日本は非常に人気を集める市場になっていますし、私たち自身、需要の多さを目の当たりにしています。日本市場に関しては暗号資産に関する税金の問題が取り沙汰されますが、それはどこの国に行ってもあることです。それよりも、規制環境の良さがもっとフォーカスされるべきでしょう。
それから私自身、日本市場をみて感じたことは、コミュニティのなかには大きくわけて開発を行いたい人と、DeFiを利用したい人、そして投機的な人がいるということです。私個人としては、投機的な動きよりも、問題解決ができるソリューションの開発などといった構築分野に注力する人が今後さらに増えていくことを望みます。
──リップルとして掲げる目標や今後の展望、直近の予定などをお聞かせください。
デービッド:リップル社としてはまずDeFi製品に注力する方針です。さらに、決済やカストディなどにも引き続き取り組んでいきます。また、ステーブルコイン領域に参入しますので、これらをまとめてよりシームレスに提供していくことが私たちの使命です。なかには現実資産(RWA)をトークン化したい、またトークン化されたそれらの資産を取引したいという人もいるでしょう。私たちはそうした人たちの需要にもこたえていきます。
一方、私たちの直近のチャレンジとしては、やはり競争の激しいステーブルコイン市場に飛び込んでいくことです。私たちには決済に関する経験や優秀なバランスシート、そしてXRPLという力強い武器があります。これらを活用して、今後市場のシェアを獲得できるように引き続き努力していきたいと考えています。
※1:米国証券取引委員会のこと。米国の証券取引を監督・監視する機関
※2:価格の安定性を実現するように設計された暗号資産の総称。
※3:高速で低コストな決済のために開発されたL1のパブリックブロックチェーン。Ripple社では、Ripple Paymentsなどのエンタープライズ向けサービスで活用し、オープンソース開発も行っている。
※4:テザー(Tether)。2014年に開発された世界初のステーブルコイン。
米ドルに価格が連動し1USDT=1USDになるようにアルゴリズムが組まれている。
※5:USDコイン。イーサリアム上で実行されているアメリカドル連動のステーブルコイン。
※6:分散型金融。特定の管理者を介さず、自律的かつ自動的に提供される金融サービスのこと。
※7:ブロックチェーンを利用する際の手数料
Profile
◉デービッド・シュワルツ(David Schwartz)
Ripple Labs Inc CTO
リップルのCTOで、XRP Ledgerのオリジナルアーキテクトの1人。リップル入社以前は、サンタクララのソフトウェア開発会社であるWebMasterIncorporatedにおいてCTOを務める。CNNや国家安全保障局(NSA)などの組織向けに、暗号化されたクラウドストレージや企業向けメッセージングシステムを開発した経歴を持つ。"JoelKatz"の愛称で知られ、デジタル通貨コミュニティで尊敬を集める。
関連記事
リップル社、米ドル連動のステーブルコインを発行へ テザーやサークルに対抗
リップル 吉川絵美が語る思い 「リップルとして日本の事業者やユーザーを支えたい」