AIの活用はプラットフォーマーからユーザーへ
AIの活用方法で明暗はわかれる
AIはソーシャルメディアにも活用されている。たとえばInstagramはAIを活用してユーザー体験をより良いものにし、スパムをフィルタリングして、ユーザーに沿った広告を提供することでサービスの向上を図ってきた。このように、これまではプラットフォーム側が主にAIを活用してきたが、現在は企業のSNS運用をAIが代わりに行う事例、AIを活用した事例が増えてきている。
多くの企業がAIを活用して、ソーシャルメディアを盛り上げる時代となりつつあるようだ。AIは機械学習で得た膨大なデータに基づき正確な予測を行うことができる。今や大規模言語モデル(LLM)をベースにした生成AIをあたり前のように活用する時代になり、あらゆることについて正確で適切な予測を行うことができるようになった。
AIを利用してターゲット選定の解像度をあげて、広告キャンペーンを実施したり、取りあげるべき最適なコンテンツをユーザーに提供できるようになったのだ。
しかし、AIに「◯◯に関する投稿を書いて」と指示を出し、AIが生成した文章をそのままソーシャルメディアに投稿するだけでは、便利な反面、企業の独自性もなく、平坦な投稿になりがちでインプレッションは伸び悩む。AIに投稿文を書かせる際には、具体的な情報や文脈を提供する必要がある。
たとえば、提供したいニュースや商品について、「この記事のなかでユーザーに最も印象的に残るフレーズや考え方を3つ抽出して、それをもとに文章を書いて」と具体的な指示を出せば、最適解に近いコンテンツをアウトプットしてくれるのでそのまま投稿に活用できる。このように、AIを使って記事や文章のなかから印象的で記憶に残りやすい表現、アイデアなどを抽出することを「サウンドバイト」と呼ぶ。
AIでデータ分析の解像度を高める
XやInstagramなどのソーシャルメディアに外部のツールを使って投稿データ(閲覧数、いいね数、コメント数)を分析し、そのデータをAI搭載のアプリケーションに解析させることもできる。また、AIを使って分析したデータをグラフやヒートマップの形で出力し視覚化も可能だ。
これにより、数字の羅列ではわかりにくかった傾向や特徴の視認性があがり、より解像度の高い分析や、会議や企業に対するプレゼンテーションにも活用できるデータにまで昇華できる。ほかにも、投稿の文字数、絵文字の数、話題の関連性などの要素が、どのように投稿の効果に影響しているかをAIに分析させることができるようになる。その分析結果を軸に、より効果的な投稿をすることも可能だ。
さらにAIに現在の投稿内容を分析させ、まだ取りあげていないが潜在的に効果がありそうな、投稿を作成するアイデアを得て、新規フォロワーを獲得することが可能かもしれない。AIを単に「投稿を自動生成するツール」として使うだけでなく、データ分析やあたらしいアイデアの発見のために活用することで、ソーシャルメディアでの発信をより効果的に行うことができる。
そして、企業のソーシャルメディアにおけるAIの活用では、たとえばユーザーの商品に対する疑問に答えたり、ユーザーの投稿分析から自社商品のあたらしい使い方をも発見できるようになる。食品のアレンジレシピなどがイメージしやすいところだろう。ひいては、AIは商品開発にまで活用することができるという事になる。
▶引用:IDC 日本におけるAI支出の現状
アジア太平洋地域8カ国を対象に行われた調査では、AIへの支出に関して2027年には900億ドルを超すと予想される。調査対象外となった米州及びEMEAと比べると劣るが、そうしたなかでも、日本はAI市場の規模もIT市場の規模も対象8カ国のなかで最大。
「日本におけるAI支出は、2022年から2028年のCAGR(年平均成長率)で30%、2028年には2兆5,000億円を超える規模にまで成長する」との見方がある。2028年までのCAGR30%という伸びが予測されるのは、AIに関するエコシステムの拡大に加え、日本政府のAI活用を後押しする政策などが背景にあると考えられている。
AIの悪用とどう向き合うか
ソーシャルメディアとAIは非常に良い関係であるといえるが、一方で悪用される事によるさまざまな課題も存在する。たとえば選挙などでは対立候補のデマを、AIを使った投稿で自動的に流したり、詐欺行為にも利用されることがある。
「米証券取引委員会(SEC)のゲイリー・ゲンスラー委員長がビットコインを取り締まり始める」のようなデマ投稿を、ボットを使って無作為に投稿し広めた場合、デマとわかるまでにすでに暗号資産市場が反応する可能性さえある。ドナルド・トランプ前大統領をテーラー・スウィフト氏が支持しているかのようにみせるAI生成画像をソーシャルメディアにボットが投稿し、問題となったのは記憶にあたらしいところだ。
実業家イーロン・マスク氏は、AIが人類を滅亡させると、ことあるごとに主張しているが、事実AIが勝手に投稿を始めれば人類を間違った方向に導いたり、戦争をも引き起こす懸念まである。そのようなAIの悪用を阻止するため、マスク氏はAIの規制法案を作るべくロビー活動を活発化しており、XではAI投稿をパトロールするAIを作成中である。AIの悪用を阻止するための分析AIを開発しているのだ。
懸念すべきなのは、そのようなAIは企業のAIを活用した健全な広告宣伝活動にも影響を与える可能性があること。パトロールAIがこれは悪用していると判断すれば企業の広告宣伝活動は阻止され、アカウントは凍結されてしまうからだ。そのようなあらたな課題と規制のバランスを上手く取るためにも、AIの規制法案を作ることは急務といえる。
法案を作り出すことはコストがかかることなので当面は、ソーシャルメディアにおいてAIの活用は良いものと悪いもので混雑することが続くことが予想されるが、今後のイノベーションを阻害しない健全な規制には期待したい。
用語集:
サウンドバイト:「サウンドバイト」(soundbite)はもともと、メディアやニュースの文脈で使われる短い引用や発言のことを指す。AI領域では、AI技術を活用して生成された短い音声クリップや、要点を簡潔にまとめたフレーズのことを指すことがあり、これらは通常、音声認識、音声合成、自然言語処理(NLP)などの技術を組み合わせて作られる。