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AI時代の到来 これからの社会ビジョンとは?

2024/12/03Iolite 編集部
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AI時代の到来 これからの社会ビジョンとは?

ChatGPT登場から2年で急速に変化し始めた世界

What's AI

AIとは、人工知能(Artificial Intelligence)の略称。コンピュータに人間の知的能力を模倣させることで、推論や判断、学習などを行わせる技術である。


まるで人間と対話をしているかのように、質問に対して回答をしてくれるOpenAI社のAIサービス「ChatGPT」が公開されてから、そろそろ2年が経過しようとしている。

ITエンジニアではない一般人でも簡単に使用でき、人間では決して追いつくことのできない検索速度で、我々が使うような言語を用いて回答してくれるAIの登場により、私たちの社会は大きく動揺した。

ChatGPTの根幹を支えているのは、生成AI(Generative AI)と呼ばれるAI技術だった。従来のAIは、コンピュータの性能の限界があったため、特定の行為の自動化に特化して研究されてきた。しかしマシンパワーの進化により、より大規模なデータの収集と処理が可能となった現代において、AIは従来以上の学習が可能となった。

生成と翻訳されるGenerativeという単語には、生命を生み出すという意味もある。生成AIは無作為に収集したデータから、独自に傾向を分析し、まったくあたらしい結論を文字通り生成することができるのである。

具体例をあげてみよう。これまでのAIは、猫という生物を学ぶために、猫にまつわる画像や文献を何万種類も学習して、猫という概念を分類・整理して理解することができた。しかし生成AIはまったく異なるアプローチを行う。

あらゆるデータを読み取り、データの関係性やパターンを学習することによって、目が2つあり、四つ足で歩き、耳が顔の上部で尖っている愛玩動物が、「猫」と呼称されているようだという、自分なりの結論を創造するのである。読み取る情報が増えれば増えるほど情報の理解度は高まっていく。

最初は犬と猫の区別がつかなかったとしても、学習が進めば進むほど勝手に犬と猫の違いを理解していくのである。そのため、生成AIはデータ分類における独自の理論を構築し、人間が思いもよらない結論を生み出す可能性がある。

そして、その結論は人間が何年かけてもたどりつけなかった、環境問題やエネルギー問題、人権問題などの解決の糸口へとつながる可能性があるのだ。私たちが、事務活動の時短などで盛り上がっている一方で、大企業や国家が生成AIの研究者に多額の資金を投資している裏には、このような背景もある。

もっとも、生成AIが独自に学習を進めていく性質を持つ以上、我々のコントロールを離れて勝手に進化していく危険性がある。Microsoft社のクラウドサービス「AWS」などのメガクラウドでは、企業が生成AIを使用する際に、機密情報を生成AIが学習しないように情報提供を遮断するサービスを提供している。

これは、メガクラウドベンダーでは今や当たり前となっている。AIが人間のコントロールを離れていくということに関する恐怖心は、特に欧米圏に強い。

この背景には、旧約聖書の創成記に記された神の言葉「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ」に従い、社会規範が作られてきた文化的背景が大きい。日本ではあまり報道されないが、生成AIの開発をやめろというデモは、年齢層を問わずあちこちで起きている。

生成AIが生む世界はWeb3.0とどうかかわるか

Copilot image

ところで、最終的な意思(と呼んでいいかは不明だが)決定に人間を介在させないという生成AIのシステムは、中央管理者を介在させずに個人同士のつながりでプロジェクトを実現させていくというWeb3.0の精神と極めて相性がよいとは思わないだろうか。

まだまだ、理念の域を出たとは決していいきれない我らがWeb3.0業界と違い、生成AIが世の中の中心となっていく時代は、間違いなく訪れるだろう。そのくらいこの数年の生成AIの進化は早く、世の中でも受け入れられている。

この定着のスピードは、Windows95が発売された時を思い出す。それまでマイコンと呼ばれ、一部のオタクのものでしかなかったパーソナルコンピュータが、パソコンの愛称であっという間に世の中に浸透していった。

パソコンが登場した当初、日本国内の一部マスコミの間では「パソコンのようなハイエンドマシンが、一般オフィスはもちろん、家庭にまで普及するわけがない」という主張がかなり目立った。高額で何でもできるマシンよりも、ワープロのような、一機能に特化したマシンの方がコスパもよく、人々に喜ばれるというのだ。

あれから30年。スマートフォンが登場したことで1人1台コンピュータを持ち、インターネットに接続されている世の中というのはあたり前になってしまった。今や、アフリカの貧しい国の国民ですら、インターネットがなければ生活が成り立たなくなっている。

Web3.0という概念がこれからの世界の在り方を訴えるイデオロギーのようなものであるとするならば、生成AI技術はこれからの世界を支えるインフラストラクチャーとして定着していく可能性が高い。だからこそ、生成AI技術の現状と使用例、そして課題などを知ることはビジネスチャンスを探る上で大切なことだ。


AI用語集

  • LSTM:「Long Short Term Memory」の略。入力された情報の一部を保ったまま次の学習を行い、効率を高めることが可能となった。
  • CNN:「Convolutional Neural Network」の略。主にAIの画像認識の分野で使用されているアルゴリズム。
  • DNN:「Deep Neural Network」の略。コンピュータで脳の神経回路を模したネットワークを再現し、人間のような学習を可能とした。
  • NLP:「Neuro Linguistic Programming」の略。人間が使っている自然言語をコンピュータに処理させるために開発された一連の技術。
  • LLM:「Large language Models」の略。大規模言語モデルと訳される。大量の自然言語のなかから、文章や単語の出現確率を分析することで、より自然な言語の出力を可能とした。

ChatGPTの登場から2年で急速に変化し始めた世界

▶現在のIT業界の雄であるテスラのイーロン・マスク氏は政治にも積極的に関与しだした。

AIとブロックチェーンは互いに補完しあう関係へ

今回の米大統領選挙では、候補者の顔を入れ替えて、生成AIによる加工で、実際に行っていないことをさもいったかのようにみせかけた、フェイク動画が山のように量産されていた。これらの動画を各種SNSでみなかったという人は少数派であろう。

ChatGPTの登場以後、私たちの社会は明らかに変わってしまったのだ。ここまで生成AIが定着すると、もはや規制をすること自体がナンセンスであり、これからはどのようにして共存していくかを考えていく方がはるかに建設的なフェーズへと突入したとみるべきだろう。

現在世の中に出回っている生成AIに悪意はない。純粋に人間の依頼に応じて生成物を書き出しているに過ぎない。その結果生み出された生成物に嘘が混じるからといって、生成AI自体を禁止していてもきりがないのだ。だからこそ、唯一無二のオリジナルデータであることを証明できるブロックチェーンの技術が光り輝く。

AI産業がインフラ工事の花形である道路や鉄道だとするならば、Web3.0事業はそれら輝かしい成果物を裏で支える、水道管やガス管のような立ち位置として活躍することになると考えられる。だが、実社会でこうした産業は、需要がなくなることがないため非常に堅実で手堅い成長をする。

かつてWeb3.0といえば、暗号資産が何%上昇した、一晩で何千万円失ったといった、過激な投資相場のイメージを持たれていた。しかし、日本政府がWeb3.0領域の法整備を続け、トランプ氏が暗号資産大国をスローガンに掲げたように、これからのWeb3.0業界は派手さよりも堅実さが求められるフェーズへ移行した。

生成AIの産業としての歴史は、まだまだこれからで、個人情報保護やセキュリティなど課題は多い。偶然にもその弱点をブロックチェーンは解決する糸口を握っている。

人類とAIの共存がみせてくる働き方の意味を問う

同時に、生成AIがAGI、ASIと進歩をしていくことによって、人間が行わなければならない労働についても意識を変化させることが求められる。現状生成AIは、事務仕事などの代行や、ドラフト案出しなどを行うにとどまっている。

それだけでも私たちの働き方は変化を始めているが、やがて、人間にしかできないと考えられていた仕事も、AIがすべて行うことが可能となる未来も十分にありえる。その場合、人間は何をすればいいのかという問題が発生する。

AI開発者らは、AIにより仕事を奪われる人々のことを考えてベーシックインカム制度の成立を試みてはいるが、ASIレベルにまで進化が進んでしまったら、AI開発者の仕事すらなくなっていくことだって十分に考えられる。そのような時に、人は何を行うことで社会とかかわっていけばいいのだろうか。

本誌の制作にかかわるようになってから、AIだけでなく、さまざまな領域のITベンチャー企業の方々と出会う。お話をさせてもらっていると感じるのが、彼らは「遊び」の達人だということだ。「遊ぶために仕事を効率よく済ませたい」「遊ぶお金がほしいから大きな仕事をしたい」「早くリタイアして遊びに専念したい」。

DXのためにAI導入を検討している決裁者の人たちは、AIを導入し、時間効率をあげたとして、その先に社員たちに何を提供するつもりなのか、今一度考え直す必要があるだろう。

趣味で釣りをする人は、自分たちが食べる分だけの魚さえ釣れれば十分なのだが、漁師はそういうわけにはいかない。人間は、いつの頃から労働と遊びをわけて考えるようになってしまったのだろうか。

極端に聞こえるかもしれないが、AIの普及というのは、こんな哲学的なことをサラリーマンレベルで考えなければならないくらいには、革命的なできごとなのだ。私たちはその時代に偶然立ち会っているという自覚を持つ必要があるだろう。

少なくともサム・アルトマン氏は、AIによって社会が進歩したその先のことも考えてすでに制度設計を個人で行い始めている。一部の天才の想いだけで、この社会革命を進めさせてはいけない。なぜなら私たちも、AIが革命を起こした後の社会で生きる一員になるのだから。

先日の衆議院選挙は、与党の大敗という衝撃的な結果で終わった。社会をどのように変革していきたいか、私たちが真剣に考えた結果だ。生成AIがどのように社会を変えていくか、今はまだ過程の真っただ中である。

AIでどのような社会を作りたいかについても、しっかりと意思を表示する時が来たのである。幸い、我々には、意思決定に中央管理者が存在しないブロックチェーンというツールがあるのだから。

AIの進歩は未知数だから個人の意思表明を!

AIが登場したことにより、業務の効率化が進み恩恵を多く受けたという人は、多いだろう。だが、現状の生成AIはいまだ進化の途中であり、開発者たちが想定しているスペックにまでは至っていないということを我々は忘れてしまっている。産業革命が起きた時、英国の大きな変化に、街中にパブが増えたというものがあった。

英国といえばパブというイメージで、現在は観光名所と化しているが、もともとは24時間交替で働かされた工場労働者たちが、労働の辛さを忘れる手段としてアルコールを求めるようになったことから始まったといわれている。社会変化が始まった後どうなるかは、実際に観測されるまでわからない。

ただし、変化はすでに始まっており、もはや後戻りをしていくことはない。となれば、まず個人で生成AIサービスに触れてみた上で、なぜ世の中が変革すると騒がれているのか、その本質を体感するところから始めるしかない。

そうやって自分で触れてみると、現状の生成AIサービスは完成形ではないため、いくつか使いにくさや、課題点がみつかってくるはずだ。課題のなかには、これからのAI時代のビジネスの種となる可能性がある。社内で稟議にかけてみるもよし、DAOを組んで解決策を皆で話し合ってみるもよし、だ。

はっきりといえるのは、現在の生成AIは、まったくの0から物事を生成できず必ずプロンプトによる人間の指示を必要としていることである。つまり、まだ人間がみつけたアイデアを基準とした変化を仕掛けていくことは可能なのだ。

これからのAI時代に求められるのは、受けた依頼を完璧にこなす職人タイプの仕事人ではない。たとえ技術がなくとも、浮かんだ疑問やアイデアをプレゼンして、あわよくば仲間を募って解決法を探るリーダータイプの人間になっていくのだ。


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