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AI開発者はなぜベーシックインカム(BI)に熱中しているのか?

2024/12/03Iolite 編集部
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AI開発者はなぜベーシックインカム(BI)に熱中しているのか?

AIが働き稼いだお金を人間の社会保障にあてる計画

AI開発者たちが、UBI、すなわちユニバーサルベーシックインカムについて真剣に議論していることは、日本ではあまり知られていない。ユニバーサルベーシックインカムというと聞き馴染みがないかもしれないが、日本でいうところのベーシックインカム(以下、BI)と同じ意味である。

どのくらい真剣かというと、ChatGPTを開発したOpenAIのCEO・サム・アルトマン氏は、自費でもってBI実現のための、暗号資産配給団体・ワールドコイン財団を設立したり、ベーシックインカムを実際に貧困層へと配布するという社会実験を行ったりを繰り返している。

活動規模が大きいため、どうしてもアルトマン氏の活動が目立つが、BIの実現への執念は、基本的にシリコンバレーの住人には通底しているように思われる。この考えは、いったいどこから来ているのだろうか。

BIとは、国や自治体が年齢や性別、所得などにかかわらず、すべての国民に一定額の現金を定期的に支給する制度のことだ。その思想の起源自体は比較的古く、16世紀頃には萌芽がみられる。

時に共産主義的と批判されるが、実際のところこの考え方は、民主主義国家や、自由主義経済下で、持てる者と持たざる者の経済格差が拡大した時、持たざる者にどのような社会保障を与えるべきかという議論から発展している。

世界的にBIの議論が盛んになったのは第三次AIブームに世界がわいていた2016年以降のことである。現在のBIを語る上で、AIの発展は外すことができない要素だ。第三次AIブームでは、AIを現実的に仕事に活用できる下地が整った。

これによりシリコンバレーのAI開発者たちは、AIが人間の代わりに仕事をする社会の到来を感じ取ったのだ。AIによって仕事を奪われる人はやがて必ずあらわれるだろう。そのような場合、真っ先に批判されるのはAI開発者になるはずだ。

それならば、人間に代わってAIが仕事をして稼いだ分を、全世界の人々にBIとして配ってしまえばいいのではないか。仕事を奪われた人も助かるし、AIの事業も安定するはずだ。これが、AI開発者が大金をかけてBIロビイング活動を行っている理由だ。

もちろんそこには純粋な善意も多分に含まれている。公共の福祉としてBIほど優れた仕組みはないと断言する社会学者も多い。しかし、現実問題として生成AIが現在取って代わろうとしている作業は知的労働が多く、実際に低賃金な肉体労働分野は、人の手が必要である。

となると、ほとんど働かずに済むようになるホワイトワーカーと、汗水流して仕事を続けるブルーワーカの受け取るBIが同額でよいのかというあらたな火種を生む可能性もある。

▶BIの導入に関しては、米国民主党支持者で、有色人種の方が賛成者が多い。今回の選挙結果によりBIの進捗がどうなるのかも注視が必要だ。

アルトマン氏が設立したワールドコイン財団

2024年7月24日に、正式に発行された暗号資産「ワールドコインプロジェクト」は、OpenAI創業者のアルトマン氏が直々に暗号資産領域に殴りこんできたとして話題となった。

このプロジェクトは、虹彩生体認証データをキーとしたブロックチェーンであり、チェーン上で取引を行っているアカウントが人間であることを確実に証明できる仕組みが用いられている。

この暗号資産も、アルトマン氏の「BIを世界中の人々に配布する」という夢の実現のために開発が始まっている。アルトマン氏は、世界中の誰よりも、AGIの実現を信じている。そのため、かなり早い段階からBI制度の普及を目指す必要があると周囲に語っていた。

BIを公平に配布する上で、セキュアで改ざんが難しいブロックチェーンは最適であった。ただ、通常のブロックチェーンでは、botアカウントと人間を見分けることが難しく、BIを二重に配布してしまうおそれがある。だから、ワールドコインは虹彩認証にこだわっている。

アルトマン氏はさらに自費を投じてOpenResearchという研究所を設立している。ここで研究されているのが、BIを実際に行った場合の、社会変容だ。

実際に、3年間にわたり月額1,000ドル(約15万円)を無条件で貧困にあえぐ人々へ配布し、どのような意識変化が起こるかをまとめている。結果は、下表にまとめるが、アルトマン氏らが期待したほど、貧困層の生活は変わらなかったらしい。

OpenResearchによるベーシックインカムの研究

▶対象:21歳~40歳までの米国の最貧困層(年間所得が約30,000ドル未満)1,000人
方法:3年間にわたり1,000ドル/月を無条件で給付

BIが面白いのは、世界中で社会実験がすでに行われていることだ。フィンランドでは2017年から1年間、失業手当受給者に対して、無条件に失業手当と同額をわたすという実験を行い、イランでも2011年から6年間、年178万円を支給する実験を行った。米国でも州単位での検証が進んでいる。

これらの研究からみえてきたのは、思った以上に地域性や個人の素養が大きく出るということだ。アルトマン氏らAI開発者が期待したのは、BIにより金銭的な悩みから解消されることで、貧困層に再起する時間と力を与えられるという結果だったのだが、実際のところそのような変化はあらわれなかった。

一方で、フィンランドの例ではベーシックインカムを受け取った失業者は、それまでより働くようになったという調査結果が出ている。

先日ワールドコイン財団は、サンフランシスコでセキュリティ機能をさらに高めたシステムの発表を盛大に行った。だが、サンフランシスコにはインフレのせいで、家を借りられなくなったホームレスや失業者があふれかえっている。

世界中で社会保障制度は整備されているが、貧困層に陥った人のなかには、運悪く学びの機会を得られなかった人も多い。こうした人は低賃金な仕事でしか採用してもらえないというジレンマを抱えている。となると、社会保障を受けていた方がましな収入となり、就業意欲が削がれてしまうのだ。

アルトマン氏らはBIで、こうした人々に学びのゆとり時間を与えようと考えている。学びの時間があれば、より収入の多い職業へ転職をすることだって可能だ。だが、実際のところ本当の貧困層が行う仕事にまでAIの恩恵が届くにはまだまだ時間がかかるし、しみついた思考を切り替えるには時間がかかるというところだろう。

AI開発者がBIをあらたな社会保障として定着させようとしている試みはすばらしい。だが一方で、実際にBIによって今後救われるかもしれない人々が、今どのような現状なのかに目を向ける必要があるように思う。

▶米国では高いインフレのため、食料品や家賃の値段が高騰。若年層のホームレスが都市部で激増している。


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