
AI開発者たちが、UBI、すなわちユニバーサルベーシックインカムについて真剣に議論していることは、日本ではあまり知られていない。ユニバーサルベーシックインカムというと聞き馴染みがないかもしれないが、日本でいうところのベーシックインカム(以下、BI)と同じ意味である。
どのくらい真剣かというと、ChatGPTを開発したOpenAIのCEO・サム・アルトマン氏は、自費でもってBI実現のための、暗号資産配給団体・ワールドコイン財団を設立したり、ベーシックインカムを実際に貧困層へと配布するという社会実験を行ったりを繰り返している。
活動規模が大きいため、どうしてもアルトマン氏の活動が目立つが、BIの実現への執念は、基本的にシリコンバレーの住人には通底しているように思われる。この考えは、いったいどこから来ているのだろうか。
BIとは、国や自治体が年齢や性別、所得などにかかわらず、すべての国民に一定額の現金を定期的に支給する制度のことだ。その思想の起源自体は比較的古く、16世紀頃には萌芽がみられる。
時に共産主義的と批判されるが、実際のところこの考え方は、民主主義国家や、自由主義経済下で、持てる者と持たざる者の経済格差が拡大した時、持たざる者にどのような社会保障を与えるべきかという議論から発展している。
世界的にBIの議論が盛んになったのは第三次AIブームに世界がわいていた2016年以降のことである。現在のBIを語る上で、AIの発展は外すことができない要素だ。第三次AIブームでは、AIを現実的に仕事に活用できる下地が整った。
これによりシリコンバレーのAI開発者たちは、AIが人間の代わりに仕事をする社会の到来を感じ取ったのだ。AIによって仕事を奪われる人はやがて必ずあらわれるだろう。そのような場合、真っ先に批判されるのはAI開発者になるはずだ。
それならば、人間に代わってAIが仕事をして稼いだ分を、全世界の人々にBIとして配ってしまえばいいのではないか。仕事を奪われた人も助かるし、AIの事業も安定するはずだ。これが、AI開発者が大金をかけてBIロビイング活動を行っている理由だ。
もちろんそこには純粋な善意も多分に含まれている。公共の福祉としてBIほど優れた仕組みはないと断言する社会学者も多い。しかし、現実問題として生成AIが現在取って代わろうとしている作業は知的労働が多く、実際に低賃金な肉体労働分野は、人の手が必要である。
となると、ほとんど働かずに済むようになるホワイトワーカーと、汗水流して仕事を続けるブルーワーカの受け取るBIが同額でよいのかというあらたな火種を生む可能性もある。

▶BIの導入に関しては、米国民主党支持者で、有色人種の方が賛成者が多い。今回の選挙結果によりBIの進捗がどうなるのかも注視が必要だ。