──法人を対象としたものについては改正された実績がありますが、やはり個人を対象とした税制改正に注目が集まります。すでにJVCEAなどを中心に個人の暗号資産取引等によって生じた利益を20%の申告分離課税や3年間の損失繰越控除の対象とするよう要望していますが、実現に向けどれほどのハードルがあるものなのでしょうか?
藤本:暗号資産の税制改正については、実現の可能性が高いものとそうではないものにわけられると考えています。
税制の根っことなるルールに近いものであればあるほど、税制改正の難易度は高くなります。たとえば、国民や業界団体が所得税そのものをなくせといっても実現は極めて厳しいですよね。それと同じで、暗号資産に関する税金もその根本に近い部分に触れるようなものは実現の可能性が現段階では見通せないということです。
──そうなると一気に要望をすべてというわけではなく、まずは実現の可能性が高そうなものから着手するということですね。具体的にはどのようなところから改正が行われると考えていますか?
藤本:まず申告分離課税については、「比較的」実現できる可能性が高いと考えています。というのも、過去に金融取引で総合課税から20%の申告分離課税の対象に変わったものがあります。それは為替FXです。
為替FXには国内FXと海外FXの2種類があります。申告分離課税と3年間の損失繰越控除の対象となっているのは国内FXのみで、海外FXについては累進課税が適用されます。やっていること自体は一緒なのになぜ国内と海外とで切りわけるかというと、まずはレバレッジの高さの違いがあげられます。
当然、レバレッジが高ければ高いほど破産者も増えるでしょうから、国としてもトラブルは未然に防ぎたいものと思われます。もう1つは、海外FXだとどれだけ利益が出たのか国が把握できないということです。ここが特に国内FXと海外FXにおける優遇の差が出たポイントだと私は考えています。
同様に、暗号資産についても20%の申告分離課税を導入する代わりに、どれだけ利益が出たのか国が把握しやすいように環境を整備することなどが交換条件として求められるのではないかと個人的に考えていますね。
──利害の一致が求められるということですね。たとえばですが、国内で完結している取引については申告分離課税の対象とするけども、海外での取引についてはこれまで通り雑所得の扱いにするということもあり得ない話ではないという見解ですね。
藤本:あくまでも私個人の予測に過ぎませんが、過去を振り返ればそうなる可能性も考えられますよね。現状の問題点として、まず国民の多くが暗号資産で得た利益をしっかりと申告していない・できないこと、そして国にとっても税務調査が非常に大変であることがあげられます。
こうしたことを踏まえると、分離課税専用口座のようなものを設け、国税が常に監視することができる口座内の取引しか申告分離課税の対象にしない、などといった措置も考えられます。
──仮にそうなった時には、Web3.0のよさが少々霞んでしまいますね。ちなみに、暗号資産同士の交換については非課税にして、あくまでも法定通貨にした時にのみ課税対象とするよう要望も出ています。こちらについてはどのような見解をお持ちですか?
藤本:こちらについては先ほどお話しした税法の土台に近いものなので、申告分離課税よりも実現困難だと思います。ここに手を付けると税法の基本概念を覆すことになるので、国内外問わず暗号資産以外の領域に与える影響も非常に大きくなります。
そのため、まずは国と業界の利害、対応が一致した形で申告分離課税の対象とする方が先になるでしょう。また、税制改正は政治的な動きにも左右されるため、時期についてはまったく読めません。
──最後に、啓蒙という意味で読者に伝えたいことがあればお願いします。
藤本:まずは、暗号資産による取引で発生した利益は課税対象となりますので、しっかり申告する心構えをしておきましょう。
もちろん申告に向けたハードルが高いのは承知しています。私自身もこうした課題に向け、現在ブロックチェーンのトランザクションを直接吸い上げて解析でき、仕訳出力にも対応した損益計算ソフトを開発中です。
データの解析精度も現時点で非常に高いため、一般の方がチェックする時の負担も軽減できるのではないかと考えています。対応するブロックチェーンの種類は年内にも40を超える予定です。年内にベータ版の利用者を募集する予定なので、ぜひ私のXをご確認ください!
暗号資産の損益計算ポイント
- どんな人でも確定申告をする心構えを持ち、取引に関する記録はこまめに取っておく。特に「12月31日時点で保有している暗号資産のスクリーンショット」は必ず保管しておこう。
- 損益計算ソフトが対応していない場合があるため、あまりにもマイナーな暗号資産、あるいはマイナーなブロックチェーン上で発行された暗号資産については取り扱いに気を付けるべし。
- 損益計算を少しでも楽にするコツとして、保有する暗号資産を年末時点だけでも2、3種類、多くても10種類程度に抑えておくこと。
Profile
◉藤本剛平(Kouhei Fujimoto)
カオーリア会計事務所代表
税理士。(公財)大阪産業局主催Web3特化型アクセラレーション「SUITCH」の特別メンター。暗号資産・NFT専門税理士として個人から大企業まで様々な税務・損益計算の対応実績を有する。税理士向け専門誌「税務弘報」にて特別対談記事、税務記事を多数掲載。
「Accord Tax Review」にて税法論文を執筆。近畿税理士会主催税理士向けセミナー、bitbank、Zaif主催のVIP顧客向け税金セミナーの講師としても活躍中。暗号資産・NFT損益計算サービス「Cryptorch」開発協力。著書(共著)「事例でわかる!NFT・暗号資産の税務」(中央経済社)
▶事例でわかる!NFT・暗号資産の税務(第2版)
所得税、法人税、相続税等、各税法の暗号資産に関する特別の定めを詳解。確定申告実務を見据えて、具体的な取引事例で損益計算の仕方も解説。Web3.0の税金がわかる定番書。利益が出たけれども実は税金のことがよくわかっていない、という人は必読。
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