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期待と懸念が交差し混沌極まる石破内閣 日本のWeb3.0は今後どうなるのか?

2024/11/28Iolite 編集部
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期待と懸念が交差し混沌極まる石破内閣 日本のWeb3.0は今後どうなるのか?

新内閣の発足により変革の可能性が一層高まる国内のWeb3.0関連規制を巡る動向を考察

新政権発足からまもなく政局は流動的に

2024年10月1日、第102代内閣総理大臣に自民党の石破茂総裁が選出され、あらたな内閣が発足した。石破首相はこれまで5度にわたって自民党総裁選に挑み、ついに悲願である総裁の座を射止めた。定番である「次の首相にふさわしい人物」の世論調査では常に上位に位置し、地方を中心に支持を集めていた石破首相。

しかし党内基盤は不安定で、幾度にわたり“派閥の論理”が作用したこともあり道のりは長かった。そんな石破首相だが、首班指名からわずか数日しか経たないうちに衆議院解散へと踏み切った。政治資金パーティ収入の不記載を巡る問題で自民党に逆風が吹くなかでの解散は、まさに窮地から抜け出すための勝負の一手であった。

しかし、まだ記憶にあたらしい10月27日投開票の衆院選で自民党は公示前の247議席から大きく数を減らし、191議席の獲得に甘んじた。また、連立与党の公明党とあわせても215議席に過ぎず、与党としての過半数維持にも失敗。

論戦を交えてから解散をするという自身の発言を一変させ、いわば不意打ちに近い形で打って出た衆院選での大敗で、政権運営は極めて困難な状況へと陥った形だ。野党の連携次第では、首班指名で石破首相が選出されないというシナリオまで一時浮上した。

結果的には決選投票で石破首相が選出され、なんとか在職日数戦後最短首相という負のレッテルから逃れることができた格好だ。しかし、少数与党という現状から政権運営が不安定であることに変わりはなく、政治の停滞につながる懸念も高まっている。

現状では与党のみで法案を通すことは不可能で、他党の協力を受けない限り実現の道はない。特に来年度予算案の成立は最大の焦点となる。かろうじて政権維持に至った石破内閣は早速正念場を迎えることとなり、予算案の成立を巡り政治的な駆け引きも加速しそうだ。

場合によっては、予算案の成立と引き換えに、退陣を迫られる可能性もある。そんな状況下で、自民党は予算委員会の審議を取り仕切る衆院予算委員長を立憲民主党に譲歩した。野党が衆院予算委員長のポストを握るのは極めて異例のことで、早速自民党は少数与党となった影響を大きく受ける形となった。

今後の政権運営、そして国会審議の動向は一層不透明さを増している。とはいえ、国内外を取り巻く課題を解決するために立ち止まっている時間はない。これは与野党双方にいえることであり、特に野党は常任委員長ポストを占める割合が増加したことを踏まえると、これまで以上に国民が納得する建設的な議論を行う責任が増したといえるだろう。

また、国会ではイノベーションを進め国益を生み出すための前向きな議論も求められる。その上で、石破内閣の動向は、Web3.0領域においても注目を集めるものとなりそうだ。

▶画像引用元:NHK「衆議院選挙2024特設サイト」より引用

業界を前に進める上で重要な平デジタル相の存在

記事執筆時点で石破内閣におけるデジタル施策の要ともいえるデジタル相には、これまで石破首相を支えてきた平将明衆議院議員が就き、今まで以上に規制改革に対する期待感は高まっている。

平デジタル相といえば、自民党web3PT(プロジェクトチーム)の座長としてWeb3.0施策を取りまとめるなど、先頭に立ってWeb3.0関連規制を整備してきたイメージが強い。

平デジタル相がWeb3.0領域に注力するようになってから、企業による暗号資産税制の改正やDAO法の成立・施行など、あらゆる点で進捗がみられている。積極的に業界との連携を図ってきたという点でも、これまで以上に日本がWeb3.0を推進するための条件が揃ったといえる。

Web3.0業界にとっては、岸田内閣で打ち立てられたWeb3.0推進の方針が石破内閣でも継続するかが大きな焦点となりそうだ。

明確にWeb3.0を推進すると明言はしていないものの、石破首相は総裁選時に作成した政策集にて、地方の発展に焦点をあてた「地方創生2.0」で、「ブロックチェーン技術・NFT等を活用し、食や観光体験等地域の持つ多様なアナログの価値を世界価格に引き直し最大化します」と記載している。

デジタル化を進め「情報格差ゼロの地方」や「デジタル地方文化都市」の創出に向け、ブロックチェーンの使用については前向きな姿勢を示した形だ。

また、平デジタル相は自民党内の「AIの進化と実装に関するPT」の座長も務めており、AIに関しても進展がみられる可能性がある。日本は主要な先進国のなかでもAI活用率が低い傾向にあり、世界に取り残される危機に瀕している。そうしたなかで、AIとWeb3.0の親和性は高く、両輪で国益を生み出すことに期待がかかる。

こうした新興技術を取り扱う上で、平デジタル相の存在は石破首相にとっても重要なものとして映るだろう。党内きってのデジタル通というだけでなく、AIやブロックチェーンを活用するWeb3.0領域で豊富な知見を持ち、課題を解決してきた実績も有する。

特にAIと比べて関心度が低下し、さらには活用のハードルも高い現状のWeb3.0の認知拡大やマスアダプション化につなげるためには、実績作りが重要となる。今後よりよい取り組みが行われることで、Web3.0の必要性や理解が深まっていくことだろう。

日本のWeb3.0を取り巻く課題や現在の動きを知る

このように、政治とテクノロジーの両面から現在Web3.0は注目を集めている。こうした状況を踏まえ、改めて現在業界がどのような状況にあり、何が課題としてあがっているのかを把握する必要がある。

本特集では、新内閣の発足によりWeb3.0関連規制はどのように議論されていくのか、またどの程度進捗をみせるのか探っていくと共に、衆院選の結果など政治的な側面も踏まえた上で今後の業界の展望を予測していく。

そのためにも、まずはWeb3.0領域の現状や課題、そしてそれを踏まえた上でどのような動きがあるのかなどを早速解説していく。

ビットコインなどの価格上昇も起因し国内の口座開設数は1,000万を突破

価格上昇もあり暗号資産への関心高まる

まず、国内におけるWeb3.0領域の現状を簡単に整理する。一概にWeb3.0といっても、現状は暗号資産に関する動向によって大きく左右されている状況だ。

特に暗号資産の価格が好調に推移すれば業界に活気がみられ、逆に市況が優れない場合にはもの寂しい雰囲気に包まれるといった具合に、熱気や関心度の移り変わりが非常にわかりやすい。

そんなWeb3.0領域の状況を測る1つのものさしとして、国内暗号資産取引所における口座開設数があげられる。JVCEA(一般社団法人日本暗号資産等取引業協会)が毎月更新する会員統計によれば、2024年4月時点で暗号資産取引所の口座開設数は1,000万口座を突破した。

日本の人口をおよそ1億2,000万人であることから、国民の12分の1が暗号資産取引所で口座を開設したことになる。なお、この数字はあくまでも口座数を示しているため、実際に1,000万人が暗号資産取引所で口座を開設したというわけではない。しかし、大台である1,000万口座に到達したというのは業界における1つのマイルストーンとなる。

2023年は1月時点で国内の口座数は646万口座であったが、2024年1月には917万口座まで増加した。背景には暗号資産価格の高騰もあるだろう。しかし、何よりも「シンプルかつわかりやすさ」を追求したメルカリの存在が大きい。

メルカリは子会社で暗号資産交換業者のライセンスを有するメルコインを通じて2023年3月に暗号資産のサービス提供を開始した。当時、ビットコインの取引サービスしか提供していなかったにもかかわらず、わずか7ヵ月で利用者数は100万人を突破。

その後も順調にユーザーを増やし、2023年4月~2024年3月末までの期間で開設された業界全体の口座数310万のうち、メルカリが約191万口座を占めた。メルカリの占有率は全体の過半数を超える61.5%となる。

特筆すべきは、メルカリで暗号資産取引口座を開設したユーザー層だ。なんとユーザーの8割超が暗号資産を取引したことがない。それにもかかわらずこれだけの口座開設数にのぼった理由には、使いやすさと利用のしやすさが要因としてあったようだ。

また、月間利用者数が2,300万人にのぼるメルカリでは実際にプラットフォーム上でビットコインを決済で利用することも可能であることから、暗号資産本来の用途である決済体験も目を惹くポイントだろう。

こうした取り組みも要因となってか、実際にメルカリでビットコインを購入したユーザーの64.7%が、ビットコインに対するイメージについて「ポジティブなイメージに変わった」と回答している。

先述の通り、価格上昇もユーザーの関心を高めることにつながったと推察できるが、何よりも実際に暗号資産を活用する体験をわかりやすい形で提供することが利用者増につながることを証明した事例であるといえる。

暗号資産に対しては依然として「怪しいもの」「損をするもの」といったマイナスなイメージを抱く人も少なくないのが実情だ。しかし、近年は大企業の参入や規制整備、そして理解の促進などの影響もありポジティブな捉え方をする人が増えていることも事実。

暗号資産やNFTなど、Web3.0のよさを活かした取り組みによって業界が徐々に発展していく希望がみえてきた。一方で、暗号資産の取引や利用を大きく妨げる障壁が大きく立ち塞がっている。それが長年業界や暗号資産ユーザーを悩ませている「暗号資産税制」だ。

▶2023年3月にビットコイン取引サービスを皮切りに暗号資産サービスの提供を開始したメルカリ。使いやすくわかりやすさを追求し利用者が加速度的に増えている。画像:プレスリリースより引用

長きにわたって求められている暗号資産税制の改正

Web3.0業界が長年にわたって要望し続けている暗号資産税制の改正に向けた動きは、いつ何時も常に注目を集めることだろう。国内における暗号資産取引の活性化を妨げている大きな要因の1つとして重くのしかかっているのが、まさに暗号資産に対する税制だ。

すでに多くの人が知っている通り、個人による暗号資産取引によって発生した利益は基本的に雑所得として扱われる。年間20万円以上の利益が出た場合には、確定申告を行う必要がある。また、雑所得として扱われることから、住民税とあわせると最大で55%もの大きな課税が発生する場合がある点も大きなネックになっている状況だ。

こうした現状を変えるべく、JVCEAなど国内関連団体を中心にこれまで暗号資産関連税制の改正に関する要望がなされてきた。そのなかでも特に大きな項目が「20%の申告分離課税及び損失繰越控除(3年間)の対象とすること」と「暗号資産同士の交換時に課税するのではなく、法定通貨に交換した時点で課税対象とすること」だ。

暗号資産を申告分離課税の対象とすることで、ほかの所得とは分離して申告を行うことができる。また、税率は所得税15%と住民税5%をあわせた一律20%となることから、課税所得が多い場合には現在の最大55%の総合課税と比べるとはるかに支払う税金が安くなる。

一長一短ではあるが、暗号資産はボラティリティが非常に高く、税金を気にして利確に踏み切れなかったという人も少なくないだろう。しかし申告分離課税の対象とすることで、これまで以上に多くの利益を手元に残すことが可能となる。

また、先述したように暗号資産はボラティリティが高いため、大きな損失が生まれるケースも見受けられる。その一方で、仮に損失を生み出した翌年に20万円以上の利益が発生した場合には、ほかの所得とあわせて申告義務が生じるのが現状だ。

たとえば、当年に100万円の損失があったものの、翌年に20万円の利益が発生した場合、給与所得とあわせて課税がされることとなる。しかし損失繰越控除の対象とすることで、1年間の損失を通算し、その年に繰越できない金額を翌年以降3年間にわたって控除することが可能となる。

仮に100万円の損失が当年に発生したとして、翌年に20万円の利益が生まれた場合、雑所得であれば申告対象となるが、損失繰越控除の対象となると、まだ80万円の損失が埋められていないことから、課税対象額は0円となる。

さらに、現状では暗号資産同士の交換でも利益が大きい場合には課税対象となる。意外と知られていないが、暗号資産で暗号資産を交換した場合、「保有している暗号資産を1度売却」し、「売却後に残った代金で暗号資産を購入した」という扱いになる。

たとえば100万円で1BTCを購入し、1BTCあたりの価格が120万円まで値上がりしたとする。その1BTCをすべてイーサリアム(ETH)に交換した場合には、ビットコインの購入価格と、イーサリアムとの交換時の価格差が20万円になるため、申告対象となる。

暗号資産の強みは法定通貨に依存することなく、伝統金融よりもシームレスかつ自由度の高い取引が可能な点にある。しかし、現在の税制下では実質的に自由が縛られ、損益計算も非常に煩雑であることから、暗号資産取引の活性化は程遠いものであるといえるだろう。

これでは国内における暗号資産の利活用、ひいてはWeb3.0の発展に大きな影響を及ぼし、世界の潮流に大きく遅れをとることとなる。こうした状況に陥ることを防ぐ、またWeb3.0を普及させる上で暗号資産の税制改正は必要不可欠かつ急務だ。

暗号資産税制が変わるタイミングとしては今がベスト?

これまで幾度となく要望され続けてきた暗号資産税制の改正だが、石破政権の現状や暗号資産を取り巻く情勢を踏まえると、実はポジティブな要素が重なっている。大きくわけて3つの要素があり、具体的には下記の通りとなる。

  • 「平デジタル相主導のもと提言が実現している“自民党web3ホワイトペーパー”」
  • 「衆院選で躍進した国民民主党の存在」
  • 「金融庁による暗号資産規制の見直し」

まず自民党の「web3ホワイトペーパー」は、先述した通り平デジタル相が率いる自民党web3PTによって議論され、日本におけるWeb3.0領域の現状や、それに伴う提言がまとめられたものだ。

この提言では暗号資産取引などで生じた利益を20%の申告分離課税及び損失繰越控除の対象とすることに加え、暗号資産同士の交換で課税するのではなく、法定通貨に変換したタイミングで課税対象とすることなど、業界団体の要望が複数取り入れられている。

また、NFTの活性化を目的とした官民の連携や、Web3.0コンテンツの海外展開支援、セキュリティトークンの流通促進など、幅広い領域に触れている。

そもそも、web3PTは自民党のデジタル社会推進本部におけるプロジェクトチームだ。いくらweb3PTで議論が活発になったとしても、デジタル社会推進本部で了承されなければ法案を国会に提出する土台にも乗らない。また、デジタル社会推進本部で了承された後、政務調査会の審査を経て、そこで認められることで初めて自民党の正式な政策となる。

すでにweb3PTが取りまとめ、提言・政策に盛り込まれた内容がいくつか実現している。そのなかでも、法人を対象とした暗号資産の税制改正が2年連続で行われたことは大きな前進であるといえる。

これまでは自社及び第三者が発行する暗号資産を法人が保有する場合、含み益も課税対象となっていたが、一定の条件を満たすことで対象から除外されることとなった。これにより法人が暗号資産を保有しやすくなり、スタートアップの海外流出などを防ぐことにもつながる。

まずはWeb3.0の土壌を整える意味で、法人に対する暗号資産税制の改正を行なった形だ。こうした目にみえる改革には政治の力が必要不可欠となる。その上で、Web3.0に関する議論を自民党内で活発化させた平デジタル相がデジタル大臣に就任したことは、業界を前に進める上で大きな期待を抱かせる。

当然、デジタル大臣が直接税制を所轄するわけではないが、内閣に名を連ねることでその発言にはさらに重みが増す。この2年ほどで「web3ホワイトペーパー」において提言された内容が着実に実現していることも踏まえると、日本のWeb3.0業界にとって最も理想的な人物がデジタル領域の要職についたといえる。

▶「web3ホワイトペーパー2024~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ~」より一部内容を抜粋し編集部にて作成

税制改正に向けた機運は高まっており段階的に見直される可能性がある

国民民主党・玉木代表も暗号資産税制の改正を要請

衆院選で大きく躍進したことで、知名度及び注目度が急上昇している国民民主党。選挙前勢力は7議席であったが、今回の衆院選により4倍の28議席まで増やした。衆院で法案を提出可能な21議席を確保したことで、今後ますます存在感をみせていくことが予想される。

そんな国民民主党は、与党の単独過半数割れもあり今や国政を左右するキャスティングボードを握っている状況だ。与党や野党第一党である立憲民主党などと全面的な連携をとるのではなく、あくまでも等距離かつ「政策本位」での協力を打ち出している。

国民民主党が躍進した理由は、いわゆる「103万円の壁」を改正し、わかりやすく手取りを増やすと訴え続けたことにある。与党に対し一貫して実現を要求しており、応じない場合には2024年度補正予算案に賛成しない意向も示している。

今後の政権運営を円滑に行なっていく上で野党の協力を得ることは絶対条件であることから、与党は国民民主党と政策協議に着手している。党勢を増している国民民主党を率いるのは玉木雄一郎代表だ。従来の与野党政治ではなく、「対決より解決」の姿勢を示し、特に現役世代と称される20〜40代からの支持を集めている。

そんな玉木代表は、暗号資産税制について度々言及している。自民党の総裁選期間中には、金融資産課税に関連して暗号資産税制や規制の見直しを議論するよう要望した。

玉木代表の要望も業界団体や自民党web3PTと同様のもので、税制を改正することで毎年5兆円を超える日本のデジタル貿易赤字を解消することにもつながると主張する。その上で、「Web3.0や暗号資産ビジネスを活用すべき」と述べている。

実際、国民民主党のマニフェストでは「成長分野への投資減税」の項目で暗号資産への申告分離課税導入を盛り込んでいる。加えて、米国で取引が活発な暗号資産ETFの導入やレバレッジ倍率を引き上げることにも言及するなど、暗号資産ユーザーにとっても実現が待たれる内容が盛り込まれている。

▶暗号資産税制においても国民民主党が存在感を示す可能性画像:国民民主党ニュースリリース

見直しに向け金融庁が本格的に動き出す

こうした政治的な動きに加え、ついに金融庁も本格的に暗号資産規制や税制の見直しを行う姿勢を打ち出した。具体的には、暗号資産を現状の資金決済法の枠組みで規制することが適切であるかについて議論を行うという。

現状の暗号資産は投機的な取引など、投資目的で取り扱われることが多い。その上で、現行の規制下では投資家保護が不十分であると判断した場合、金融商品取引法の対象とすることも視野に入れているようだ。

仮に暗号資産を金融商品としてみなす場合には現状の税制は不釣り合いなものとなることから、これまでにない密度で暗号資産税制の改正に向けた議論が加速するものとみられる。さらに、暗号資産ETFの実現に向けた議論が活性化する可能性もあることから、その動向に注目が集まる。

また、金融庁は「令和7(2025)年度の税制改正要望」において、「暗号資産取引に係る課税上の取り扱いについては、暗号資産を国民の投資対象となるべき金融資産として取り扱うかなどの観点を踏まえ、検討を行っていく必要がある」とし、問題点の1つとしてあげている。

金融庁すらも暗号資産税制の見直しに言及していることを踏まえれば、業界の悲願がついに成就する可能性が高まっているといえるだろう。

このほか、金融庁はゲーム開発等事業者が暗号資産を取り扱いやすくする仕組み作りへの着手や、自己管理型ウォレットを活用したサービスについて暗号資産交換業に該当しないとの判断を下すなど、Web3.0の促進及び普及を後押しする動きをみせている。

注目すべきは12月に判明する「2025年度税制改正大綱」

暗号資産税制改正に関して目先で注目されるのは、与党において12月中旬頃を目処に取りまとめられる「2025年度税制改正大綱」だ。ここで暗号資産の税制改正が盛り込まれるかどうかが焦点となる。

現時点で暗号資産税制に関する内容が盛り込まれるかは不透明な状況だ。特に国民民主党が求める所得税課税条件となる「103万円の壁」の上限引き上げなど、いくつかの政策次第では優先度が変わるため、今回は見送られることも十分考えられる。

また、暗号資産税制を巡っては業界団体などの要望を一気に実現させるのではなく、段階的に行う可能性もある。たとえば申告分離課税と

3年間の損失繰越控除は導入するものの、その時点では暗号資産同士の交換を課税対象から外す措置はとらないといった形だ。いずれにせよ、税制改正に向けた機運は高まっていることから、動向に注目したいところだ。

暗号資産ETFの実現など日本のWeb3.0領域はどうなる?

ここまで暗号資産税制の改正を中心に触れてきたが、日本のWeb3.0を発展させる上で大きなネックを解消することが最も重要となる。税制改正が実現すればより暗号資産取引も活性化し、Web3.0に触れる機会も増えるだろう。

取引の活性化に関しては、暗号資産のレバレッジ取引における倍率の見直しも大きな焦点となる。現在のレバレッジ倍率は顧客保護の観点から2倍までとなっており、これも国内における暗号資産取引の活性化を妨げる要因だとされている。

実際、日本が暗号資産取引で世界をリードしていた時は最大25倍での取引が可能であった。JVCEAが公表している暗号資産の取引状況を参照しても、レバレッジ倍率が引き下げられた2021年度以降の取引金額は大幅に減少している。

こうした背景から、現在レバレッジ倍率の変更についても要望が出されている状況であり、今後10倍程度までの引き上げが行われる可能性がある。また、現行の規制下では暗号資産ETFの実現が困難であるが、これについても先述した暗号資産を金融商品取引法の対象とみなすか否かの議論次第で大きく状況が変わるだろう。

▶レバレッジ倍率の引き下げ以降、取引金額は大幅に減少している。画像:JVCEA「暗号資産取引についての年間報告2023年度」より引用

2024年10月には暗号資産ETFの実現に向け、国内暗号資産取引所や証券会社などが業界横断の提言書を発表している。法整備に向けた具体的な議論はこれから加速していくものとみられるが、まず国内暗号資産取引所に預託されている割合があわせて9割を超えるビットコインとイーサリアムの現物ETFから実現する可能性がある。

米国ではビットコイン現物ETFの取引が活発に行われており、取引開始からまだ1年未満であるにもかかわらず、全体の規模は金ETFの3分の2程度にまで成長している。FXなどの取引文化が強い日本では暗号資産ETFの取引も活性化することが期待されており、実現した際には機関投資家による暗号資産をポートフォリオに組み込む動きも加速しそうだ。

日本のWeb3.0領域は現在、政治的な背景も含め大きな転換期を迎えている。世界に目を向ければ、特に米国の次期大統領に暗号資産の推進を掲げるトランプ前大統領が就任する見通しであることから、さらにビットコインなどに対する注目は高まるだろう。

まずは長年にわたり要望されてきた諸課題の解決が求められるが、それも実現の可能性が高まってきている。世界に先駆けて顧客保護など暗号資産規制の地盤を固めてきた日本が、Web3.0領域で再び存在感を示す日は近付いている。

日本における暗号資産ETFの登場やレバレッジ倍率の改正が待たれる

総括:日本のWeb3.0は大きな転換期を迎えている

  1. 与党の過半数割れにより政権運営が不安視されるも、暗号資産税制の改正に前向きな平デジタル相の就任や国民民主党の台頭により、Web3.0領域としては比較的ポジティブな状況。まずは12月に判明する「2025年度税制改正大綱」の内容に注目。
  2. ビットコインなどの価格高騰もあり今後もWeb3.0に触れるユーザーはさらに増加する可能性。その上で、NFTの活性化を目的とした官民の連携や、Web3.0コンテンツの海外展開支援、セキュリティトークンの流通促進なども加速する可能性がある。
  3. 米国で活発に取引されているビットコイン現物ETFと同様に、日本でも暗号資産ETFの実現に向け業界横断的な提言が発表された。また、国内の暗号資産取引を活性化させるためにも暗号資産のレバレッジ取引の倍率を引き上げる議論が行われている。

Column

米国政府が100万BTCを貯蓄?トランプ政権でビットコイン大国を目指す

米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことで市場に活気がみられるなか、共和党のラミス上院議員が提出した「ビットコイン準備金法案」に注目が集まっている。この法案は、米国が準備金として100万BTCを貯蓄するというもの。具体的な議論はトランプ氏の就任後に行われるものとみられるが、可決された際には暗号資産市場に大きな影響が出そうだ。

▶画像:Shutterstock

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