Web3.0業界が長年にわたって要望し続けている暗号資産税制の改正に向けた動きは、いつ何時も常に注目を集めることだろう。国内における暗号資産取引の活性化を妨げている大きな要因の1つとして重くのしかかっているのが、まさに暗号資産に対する税制だ。
すでに多くの人が知っている通り、個人による暗号資産取引によって発生した利益は基本的に雑所得として扱われる。年間20万円以上の利益が出た場合には、確定申告を行う必要がある。また、雑所得として扱われることから、住民税とあわせると最大で55%もの大きな課税が発生する場合がある点も大きなネックになっている状況だ。
こうした現状を変えるべく、JVCEAなど国内関連団体を中心にこれまで暗号資産関連税制の改正に関する要望がなされてきた。そのなかでも特に大きな項目が「20%の申告分離課税及び損失繰越控除(3年間)の対象とすること」と「暗号資産同士の交換時に課税するのではなく、法定通貨に交換した時点で課税対象とすること」だ。
暗号資産を申告分離課税の対象とすることで、ほかの所得とは分離して申告を行うことができる。また、税率は所得税15%と住民税5%をあわせた一律20%となることから、課税所得が多い場合には現在の最大55%の総合課税と比べるとはるかに支払う税金が安くなる。
一長一短ではあるが、暗号資産はボラティリティが非常に高く、税金を気にして利確に踏み切れなかったという人も少なくないだろう。しかし申告分離課税の対象とすることで、これまで以上に多くの利益を手元に残すことが可能となる。
また、先述したように暗号資産はボラティリティが高いため、大きな損失が生まれるケースも見受けられる。その一方で、仮に損失を生み出した翌年に20万円以上の利益が発生した場合には、ほかの所得とあわせて申告義務が生じるのが現状だ。
たとえば、当年に100万円の損失があったものの、翌年に20万円の利益が発生した場合、給与所得とあわせて課税がされることとなる。しかし損失繰越控除の対象とすることで、1年間の損失を通算し、その年に繰越できない金額を翌年以降3年間にわたって控除することが可能となる。
仮に100万円の損失が当年に発生したとして、翌年に20万円の利益が生まれた場合、雑所得であれば申告対象となるが、損失繰越控除の対象となると、まだ80万円の損失が埋められていないことから、課税対象額は0円となる。
さらに、現状では暗号資産同士の交換でも利益が大きい場合には課税対象となる。意外と知られていないが、暗号資産で暗号資産を交換した場合、「保有している暗号資産を1度売却」し、「売却後に残った代金で暗号資産を購入した」という扱いになる。
たとえば100万円で1BTCを購入し、1BTCあたりの価格が120万円まで値上がりしたとする。その1BTCをすべてイーサリアム(ETH)に交換した場合には、ビットコインの購入価格と、イーサリアムとの交換時の価格差が20万円になるため、申告対象となる。
暗号資産の強みは法定通貨に依存することなく、伝統金融よりもシームレスかつ自由度の高い取引が可能な点にある。しかし、現在の税制下では実質的に自由が縛られ、損益計算も非常に煩雑であることから、暗号資産取引の活性化は程遠いものであるといえるだろう。
これでは国内における暗号資産の利活用、ひいてはWeb3.0の発展に大きな影響を及ぼし、世界の潮流に大きく遅れをとることとなる。こうした状況に陥ることを防ぐ、またWeb3.0を普及させる上で暗号資産の税制改正は必要不可欠かつ急務だ。
暗号資産税制が変わるタイミングとしては今がベスト?
これまで幾度となく要望され続けてきた暗号資産税制の改正だが、石破政権の現状や暗号資産を取り巻く情勢を踏まえると、実はポジティブな要素が重なっている。大きくわけて3つの要素があり、具体的には下記の通りとなる。
- 「平デジタル相主導のもと提言が実現している“自民党web3ホワイトペーパー”」
- 「衆院選で躍進した国民民主党の存在」
- 「金融庁による暗号資産規制の見直し」
まず自民党の「web3ホワイトペーパー」は、先述した通り平デジタル相が率いる自民党web3PTによって議論され、日本におけるWeb3.0領域の現状や、それに伴う提言がまとめられたものだ。
この提言では暗号資産取引などで生じた利益を20%の申告分離課税及び損失繰越控除の対象とすることに加え、暗号資産同士の交換で課税するのではなく、法定通貨に変換したタイミングで課税対象とすることなど、業界団体の要望が複数取り入れられている。
また、NFTの活性化を目的とした官民の連携や、Web3.0コンテンツの海外展開支援、セキュリティトークンの流通促進など、幅広い領域に触れている。
そもそも、web3PTは自民党のデジタル社会推進本部におけるプロジェクトチームだ。いくらweb3PTで議論が活発になったとしても、デジタル社会推進本部で了承されなければ法案を国会に提出する土台にも乗らない。また、デジタル社会推進本部で了承された後、政務調査会の審査を経て、そこで認められることで初めて自民党の正式な政策となる。
すでにweb3PTが取りまとめ、提言・政策に盛り込まれた内容がいくつか実現している。そのなかでも、法人を対象とした暗号資産の税制改正が2年連続で行われたことは大きな前進であるといえる。
これまでは自社及び第三者が発行する暗号資産を法人が保有する場合、含み益も課税対象となっていたが、一定の条件を満たすことで対象から除外されることとなった。これにより法人が暗号資産を保有しやすくなり、スタートアップの海外流出などを防ぐことにもつながる。
まずはWeb3.0の土壌を整える意味で、法人に対する暗号資産税制の改正を行なった形だ。こうした目にみえる改革には政治の力が必要不可欠となる。その上で、Web3.0に関する議論を自民党内で活発化させた平デジタル相がデジタル大臣に就任したことは、業界を前に進める上で大きな期待を抱かせる。
当然、デジタル大臣が直接税制を所轄するわけではないが、内閣に名を連ねることでその発言にはさらに重みが増す。この2年ほどで「web3ホワイトペーパー」において提言された内容が着実に実現していることも踏まえると、日本のWeb3.0業界にとって最も理想的な人物がデジタル領域の要職についたといえる。
▶「web3ホワイトペーパー2024~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ~」より一部内容を抜粋し編集部にて作成