メタバースWeb3.0

国のモデル事業にも採択された「ネオ日置」 地域通貨「とっぱ」を組み合わせ“仮想”と“現実”の両面から日置を盛り上げる

2024/11/28Iolite 編集部
SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
国のモデル事業にも採択された「ネオ日置」 地域通貨「とっぱ」を組み合わせ“仮想”と“現実”の両面から日置を盛り上げる

“もうひとつの日置市”を実現する「ネオ日置」

──「ネオ日置」はどのような背景・経緯、狙いから立ち上げられたのでしょうか?

重水憲朗(以下、重水):きっかけはコロナ禍で市外・県外に住む方から「日置市に行けない・帰れない」という声が多く寄せられたことです。こうした背景から、日置市が包括連携協定を結んでいる地元企業のLR株式会社と関係人口施策について協議し、インターネットによる交流で何かできないかと模索していました。その過程で「オンラインを通じて日置市を感じることはできないか」という声が多数寄せられ、メタバース上で“もうひとつの日置市”を作っていこうと戦略を立てたのが始まりです。

とはいえ、市で取り組むということは税金で費用を賄っていきますので、効果を検証できないと予算を確保することやプロジェクトとして行動に移すことは厳しいです。そこで私たちはクラウドファンディングを実施し、賛同してくださる方々と共にチャレンジを開始しました。

──現在も「ネオ日置」は市の税金を活用することなく運営しているのですか?

重水:市の税金という点ではその通りです。このプロジェクトは「もうひとつの日置を創造するプロジェクト⇒ネオ日置計画」として令和4年8月8日からスタートし、初年度にはクラウドファンディングで700万円、その翌年度には倍以上となる2,000万円ほどの支援をいただきました。ちょうど昨年度からは国のモデル事業として採択され、国から交付金をいただけるようになりました。ですので、現在は国のモデル事業による交付金と、クラウドファンディングにより集まったお金を活用して「ネオ日置」に関する取り組みを進めています。

──メタバースで空間作りを進めていくと決め、推し進めることができた背景にはどのような根拠があったのでしょうか?

重水:どれくらいの強度で推し進めるかという部分では、先ほどお話ししたクラウドファンディングの存在があります。これだけの支援が集まるということは、期待している人たちがいるということの証拠でもあります。

──「ネオ日置」の認知向上や利用者増に向けどのような取り組みを行なっているか教えてください。

重水:現在、日置市が運営するWebメディア「ひおきと」にて、ネオ日置関連のイベントやネオ日置内の名所などを紹介しています。また、毎月定例で放送している「ひおきとTV生放送」の定例コーナー「ネオ日置にいらっしゃーい」でもネオ日置から中継を行なっています。「ネオ日置」に興味関心がある団体などに積極的に使ってもらい、コラボする取り組みなども実施しています。

今後の取り組みとして現在構想していることとしては、日置市出身のTikTokerさんやアーティストの方々によるファンサービスイベントを「ネオ日置」で実施することです。すでにイベントに対応するための技術的な準備は終えており、現在は実施に向けた打ち合わせを重ねている段階です。こちらの進捗もぜひ楽しみにしていただきたいですね。

──「ネオ日置」、ひいてはメタバースの認知という点で現状の浸透具合はどうですか?

重水:「ネオ日置」はモバイル環境に対応し、スマートフォンでも簡単に入れるという気軽さを売りにしているのですが、やはり末端にまで浸透させることは難しく、結果的にある程度リテラシーのある方でないと足を踏み入れられていないというのが現状だと思います。また、ネットワーク環境によっては「ネオ日置」に入るまでのロード時間が長くなってしまうため面倒に感じる方もいるかもしれません。こうした状況を踏まえ、現在は少しでもメタバースなどに興味のある層の取り込みを狙っています。その上であらたに連携していくのが「まちのコイン」です。

▶メタバース上で“もうひとつの日置市”を作り上げるべく、取り組みが始まった「ネオ日置」。実在する日置市の名所などが展開される「ネオ日置」は、国のモデル事業として採択されるなど先進的な取り組みとして注目されている。

メタバース空間と現実世界の両方で対応する自治体初のデジタル通貨「とっぱ」

──日置市は地域通貨プロジェクト「まちのコイン」を手がける株式会社カヤックと連携協定を9月に結んでいますが、具体的にどのような構想なのでしょうか?

重水:この連携協定は日置市の関係人口創出事業「ひおきとプロジェクト」の一環として締結したもので、地域通貨を通じて日置市とのつながりを内外で生み出すことを目的としています。ちなみに、日置市における「まちのコイン」の名称は「とっぱ」です。「とっぱ」は、日置市ゆかりの戦国武将である島津義弘の「敵中突破」にちなんで名付けられました。

「とっぱ」の運用は鹿児島県の三大行事である「妙円寺詣り」にあわせて、10月26日より開始しました。今年12月からは「ネオ日置」での運用も開始する予定です。「まちのコイン」は全国のさまざまな地域で導入されていますが、メタバース空間と現実世界の両方で対応する自治体は日置市が初めてとなります。

▶地域内外の人と人とのつながりを生み出すためのコミュニティ通貨である「まちのコイン」。各地域で名称が異なるなか、日置市においては「とっぱ」と命名。日置市ではメタバース空間の「ネオ日置」と現実世界の両方で対応する予定で、これは自治体として日本初の事例となる。

──「ネオ日置」において「とっぱ」の運用が始まるとどのようなことが可能になりますか?

重水:現時点では、「ネオ日置」の空間上に「とっぱ」を散らばせ、それを拾うことでためていくことができるゲームを準備しています。拾った「とっぱ」は加盟店などで使用することができますし、ユーザー同士で送り合うことも可能です。

──「とっぱ」を使える加盟店などはどれくらい増えているのですか?

重水:現在、市内で約90の店舗や団体で使用することが可能となっています。注意点として、「とっぱ」はポイントのようなもので法定通貨との交換はできません。それは加盟店も同様で、たとえば「100とっぱ」で100円の商品を売ったからといって、後日100円が振り込まれるといったこともないわけです。「まちのコイン」自体が人と人をつなげるためのコミュニティ通貨であるという大前提のもと、各地域で流通するコインで「どのような体験を提供することができるか」がコンセプトとしてあります。そのため「とっぱ」の流通で直接的に加盟店などの利益を生み出すわけではなく、地域の関係人口創出、そしてつながりを生み出すことがこの取り組みの着地点となります。

──これまでのお話しを踏まえると、「ネオ日置」や「とっぱ」はまず若年層の取り込みにフォーカスしているように映ります。

重水:現時点ではその通りです。日置市の特徴を絡めてアピールをしていきたいと考えています。

ただ現状の「ネオ日置」の利用者数は月に延べ1,000人程度と、想像以上に伸びていません。若年層を中心に一般層の引き込みが重要になると考えています。

現在の「ネオ日置」は、私たちが特にみてもらいたいと考えているホームページのリンクを中心に貼っている空間です。そうなると、1、2回ほど入ったら以降はわざわざアクセスしようとはならないですよね。ですので、繰り返し足を運んでもらえる場所作りを進めることが急務だと捉えています。

私たちとしては、「ネオ日置」を「もうひとつの日置市」として作り上げつつ、リアルの日置市にも訪れてもらいたいという想いがあります。「ネオ日置」で日置市を感じてもらいながら、リアルの日置市で町並みや人を感じてもらう機会を作っていきたいですね。「とっぱ」についてもそうですが、実際に日置市にはいないけども、心の拠り所として日置市とかかわろうとしてくれる人を増やしていきたいです。「とっぱ」がそのための役割を担っていければと思います。

ネオ日置の今後

──「ネオ日置」の利用者数について、今後どの程度まで増やしていくといった目標はありますか?

重水:まずは半年後を目安として月に延べ3,000人を目標にしたいと思います。それでも当初の見込みよりはまだまだ少ないです。

──最後に今後の意気込みをお聞かせください。

重水:日置市の持つ強みを活かし、まずは「とっぱ」と絡めて「ネオ日置」を魅力的なものにし、利用者を増やしていきます。日置市は戦国時代の歴史とのかかわりが深い町で、あたらしい技術などを積極的に取り入れるスピリッツもあります。「とっぱ」や「ネオ日置」もそうですが、日置市の取り組みは鹿児島県内でも目新しいものであるという自負があります。「ネオ日置」とリアルな日置市、メタバース空間と現実世界がお互いに相乗効果を生む持続的な取り組みにしていきたいですね。


Profile

◉重水憲朗(Kenrou Shigemizu)

日置市総務企画部 地域づくり課課長補佐

日置市関係人口創出事業「ひおきとプロジェクト」の責任者であり、本市Webメディア「ひおきと」の編集長兼ライター「全力坊主」としても活動。ほかにも市職員が中心となって活動しているボランティアグループ「ひおきPR武将隊」のリーダーも務めている。

SHARE
  • sns-x-icon
  • sns-facebook-icon
  • sns-line-icon
Side Banner
MAGAZINE
Iolite(アイオライト)Vol.11

Iolite(アイオライト)Vol.11

2025年1月号2024年11月28日発売

Interview Iolite FACE vol.11 SHIFT AI・ 木内翔大、デジライズ・茶圓将裕 PHOTO & INTERVIEW 中村獅童 特集「Unlocking the Future AI時代の到来」「期待と懸念が交差し混沌極まる石破内閣 日本のWeb3.0は今後どうなるのか? 」「暗号資産取引に必要な 税金の知識を学ぶ!基礎知識や今からでも使えるテクニックを解説」 Interview :Bybit ベン・チョウ(Ben Zhou)、マネックスグループ株式会社 ゼロ室 室長/マネックスクリプトバンク 万代惇史・浅見浩志、カオーリア会計事務所代表 現役税理士・藤本剛平 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等

MAGAZINE

Iolite(アイオライト)Vol.11

2025年1月号2024年11月28日発売
Interview Iolite FACE vol.11 SHIFT AI・ 木内翔大、デジライズ・茶圓将裕 PHOTO & INTERVIEW 中村獅童 特集「Unlocking the Future AI時代の到来」「期待と懸念が交差し混沌極まる石破内閣 日本のWeb3.0は今後どうなるのか? 」「暗号資産取引に必要な 税金の知識を学ぶ!基礎知識や今からでも使えるテクニックを解説」 Interview :Bybit ベン・チョウ(Ben Zhou)、マネックスグループ株式会社 ゼロ室 室長/マネックスクリプトバンク 万代惇史・浅見浩志、カオーリア会計事務所代表 現役税理士・藤本剛平 連載 Tech and Future 佐々木俊尚…等