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相次ぐAI研究者のノーベル賞受賞からみえたAIの社会進出

2024/12/05Iolite 編集部
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相次ぐAI研究者のノーベル賞受賞からみえたAIの社会進出

物理学賞と化学賞の2部門をAI研究が占めたことが示す未来

生成AIを用いた研究は自然科学に属するのか

2024年のノーベル賞授賞式。日本では「日本原水爆被害者団体協議会」が平和賞に選ばれたことがニュースとなったが、世界的にはそれ以上にとある1つのキーワードが話題をさらっていた。それが「AI」だ。

ノーベル賞のなかでも、自然科学部門を司る「生理学・医学賞」「物理学賞」「化学賞」の3部門における受賞は、自然科学研究を行っている研究者たちにとって、世界最高の栄誉とされている。このうちの「物理学賞」「化学賞」の2部門を、AI関連の研究が受賞したのである。

アルフレッド・ノーベルは19世紀に活躍していた。そのため、科学が発展した21世紀現在においてノーベルの時代には存在しなかった自然科学研究のジャンルが誕生しており、ノーベル賞の部門賞を増設するべきではないかという話はたびたび出てきていた。にしても、「AI」の研究は時期尚早すぎるのではないかというのである。

そもそも、AI研究は自然科学なのかという問題がある。ノーベル賞の自然科学部門は、実験によって実証された事象にのみ与えられることが慣例となっていた。

そのためほぼほぼ完璧な理論を導き出せていたとしても、正確に検証するための器具が発明されておらず正しい結果にたどり着けなかったり、遠い宇宙の話なので検証しようがない理論だったりで、受賞を逃した研究者は山のように存在する。

ではAIはどうなのだろう。コンピュータ科学は、自然法則を研究する学問ではない。他分野の研究者のなかには「人間の作った問題を解いているだけにすぎない」という辛辣な批評をする者もいる。それなのに、AI研究が2部門も受賞したという事実を我々はもっと重くみる必要がある。

ノーベル賞の受賞には、度々社会的なメッセージが込められているとの指摘がある。もしそうなら、AI分野の受賞にはどのようなメッセージが隠れているのだろうか。

今回受賞した研究内容をみてみよう。まずは物理学賞。現在の生成AIの発展は、コンピュータによる「深層学習(ディープラーニング)」の発明から始まっている。この深層学習の基礎理論を築いたとして、米国のジョン・ホップフィールド教授とカナダのジェフリー・ヒントン名誉教授が受賞をはたした。

深層学習は、人間の神経細胞の仕組みをコンピュータ上で再現するという試みであり、自然法則の研究かといわれると疑問が残る。

化学賞はもっと奇妙だ。生物の身体を構成するたんぱく質は、アミノ酸を部品とした鎖状の分子だ。この分子は、アミノ酸の連結の順番や、折れ曲がり方の変化によって体内での機能の仕方が変わる。

生物は、体内で器用にアミノ酸を折りたたむことで、最も必要な効能を得ているのだが、では、取り込んだたんぱく質のアミノ酸の配列から、生物がどのように折りたたんでいるかを予測しようとすると、膨大な計算が必要となる。

1994年頃から有志らの手により、アミノ酸構造の予測コンクールが開催されているのだが、人間の計算力では限界があった。このたんぱく質の構造予測を、かなり高い精度で行う生成AI「アルファフォールド」を開発したチームが、化学賞を受賞したのだ。

化学的な成果物であるアミノ酸の折りたたみ方を予測生成するのはあくまでAIであり、受賞チームではないが、これは化学なのだろうか。

ハードの時代からソフトの時代へAIが光をあてた応用研究

機械学習は、コンピュータの発明から発展していった応用研究であり、基礎研究ではない。化学賞についても、いわずもがなである。

ノーベル賞に限ったことではないが、自然科学の分野において最も評価されるのは地道な基礎研究であり、AIのような最先端かつ応用研究の極北のようなジャンルが受賞したことは異例中の異例である。

だが見方を変えれば、ノーベル財団もAIが生み出していく発明が、人類社会を大きく変えていくという現実を直視せざるを得なくなったということであろう。

今回のAI技術による2部門受賞では、物理学賞受賞者にも化学賞受賞者にもGoogleの関係者が名を連ねていることが話題となった。

コンピュータのハードウェアを作っていた企業ではなく、検索エンジンやOS、クラウドなどのアプリケーション開発でのしあがってきた企業の発明が、世の中をよりよく変えていくと評価されたという事実は、応用研究が評価される時代になったことを象徴する。

物理学賞を受賞したAIの深層学習理論の発明が、どれほど世の中に影響を与えたかすぐ理解できる。しかしたんぱく質の構造予測がどのように世界を変えるかはピンとこない人も多いだろう。アミノ酸の折りたたみ方によって、たんぱく質の効能が変化をするということは前述した。

これを応用すると、アミノ酸を使用した新薬や、ワクチン開発の速度が飛躍的に向上する。生成AIの予測精度があがれば、新型の感染症が誕生した瞬間に新薬ができあがってしまうなんて未来もあり得るかもしれない。

産業革命以降の先人たちの研究により、人間は、その頭脳だけではとてもさばききれない量の基礎研究を積み重ねてきた。21世紀は基礎研究の継続に加えて、それらの応用の仕方も、AIをパートナーとしながら進めていくターンに差し掛かってきたのだろう。

今回のAI分野の受賞により、ノーベル財団が生成AIの技術と発展を、大きな存在であると認め評価していることがはっきりとした。しかし、今回物理学賞を受賞したヒントン氏は、AIが制御不能になった場合の危険性を積極的に発言してきた。

共同受賞者のホップフィールド氏も「AIの潜在能力がわからないことが心配だ」とヒントン氏の考えに賛同している。生成AIは独自に結論を生成し問題を解いてくれる。だが、AIの思考過程を、人間はいまだ解明できていない。


物理学賞

物理学賞を受賞したジョン・ホップフィールド教授と元Google研究者でもあったジェフリー・ヒントン教授。どちらも人工知能研究の第一人者だ。

ジョン・ホップフィールド教授 profile
ジョン・ホップフィールド教授

ジェフリー・ヒントン教授 profile
ジェフリー・ヒントン教授

化学賞

化学賞はGoogleのグループ会社であるDeepMind社の2人、デミス・ハサビス氏、ジョン・ジャンパー氏とディビット・ベイカー教授が受賞。

デミス・ハサビス氏(左)、ジョン・ジャンパー氏(中) image
デミス・ハサビス氏(左)、ジョン・ジャンパー氏(中)

ディビット・ベイカー教授 profile
ディビット・ベイカー教授

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