
まず現時点で2025年に最も暗号資産市場に影響を与える要因となりそうなのは、やはり米国の動向、すなわちトランプ氏の一挙一動だ。良くも悪くも、同氏の動き1つでビットコインを始め、アルトコインも大きな影響を受ける可能性が極めて大きいと考えられる。
そもそも、トランプ氏が勝利したことでビットコインなどの価格が上がった背景には、同氏の親暗号資産派への転身がある。第1次政権時のトランプ氏といえば、ビットコインや多くの暗号資産に対して懐疑的なスタンスをとっていたことで知られる。
時には「ビットコインは通貨ではない」「犯罪や詐欺を助長させる存在」などと罵る場面もみられた。それが一転、2020年の大統領選敗北後、自身のNFTコレクションをリリースしたり、大量のイーサリアム(ETH)を保有していることが明らかになるなど、暗号資産への接点を増やしていった。そして昨年には、ついにビットコインを「あらたな通貨の形」と称し、自身の政権で受け入れる姿勢を明確にした。
当初、トランプ氏が暗号資産にポジティブな姿勢を打ち出したのは選挙キャンペーンの一環に過ぎないとの見方が強かった。しかし、日を追うごとにそうした懐疑的な見方は変化していき、トランプ氏が暗号資産政策に本腰を入れて取り組む公算が高まると、暗号資産市場の反応も変わっていく。
次第に市場ではトランプ氏の勝利をベストシナリオとしてみるようになり、トランプトレードが本格化した。それに呼応するように、トランプ氏自身も自らを「Crypto President(暗号資産大統領)」と名乗るなど、暗号資産支持派による支持を固めて選挙戦を進めた。
AP通信の投票傾向調査「AP VOTECAST」によれば、トランプ氏に投票する動機につながった政策として経済政策があげられる。NYダウなどをみてもわかるように、米国株はNVDIAに代表されるハイテク株を中心として好調に推移しているが、インフレ懸念の高まりを受け、低所得者と高所得者の格差が拡大している。
特に共和党支持者を中心にこうした経済状況への不満が高まり、「米国第一」を掲げるトランプ氏の経済政策に支持が集まった形だ。一方、ハリス氏の投票者は医療や気候変動、人種差別に関する政策を重視する傾向がみられた。
分断が進む米国においてどれも重要なテーマではあるが、結果だけをみれば国民は主に経済状況の回復に期待を抱いていることがうかがえる。トランプ氏はこうした重要政策と並行して、暗号資産に関しても環境整備を迅速に進める姿勢をみせている。
そんなトランプ政権を支える閣僚の顔ぶれも固まった。驚くことに、その多くが親暗号資産派として知られる面々だ。まず、副大統領に就任する見込みのJ.D.バンス氏は昨年、デジタル資産規制の見直しに向けた法案準備に動いていたことが明らかになっている。
また、2022年時点で10万ドルから25万ドル相当のビットコインを保有していることも年次報告書で判明している。さらに、トランプ氏と大統領選を戦ったロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は保健福祉長官に任命。
ビットコイン支持派で知られる同氏は、キャピタルゲイン税の免除や米ドル及び米国債などの裏付け資産にビットコインを含めることなどを主張してきた。このほか、国防長官にピーター・ヘグセス氏、商務長官にハワード・ラトニック氏など、これまで暗号資産やビットコインへの支持を鮮明にしてきた人物が名を連ねている。
暗号資産業界が特に注目する財務長官及びSEC委員長のポストには、それぞれスコット・ベッセント氏、ポール・アトキンス氏が選ばれた。両者も親暗号資産派として知られ、ベッセント氏はマクロ投資会社キー・スクエア・グループの創設者でもある。
同氏は昨年7月に「暗号資産は自由を意味するものだ」と述べ、トランプ氏の暗号資産に対するスタンスを賞賛したこともある。
また、アトキンス氏は2017年からデジタル商工会議所のトークン・アライアンスで共同会長を務め、暗号資産に対して前向きな人物とされている。2002年から2008年の間にはジョージ・W・ブッシュ前大統領のもとでSEC委員を務めた経験があり、トランプ氏も「実績あるリーダーであり、常識的な規制を追求する」と称するなど、信頼を寄せている。
さらに、トランプ氏はアトキンス氏について「デジタル資産やそのほかのイノベーションを通じて米国をこれまでにないほど偉大な国にする上で、極めて重要な人物であると認識している」と述べていることから、期待を寄せている様子がうかがえる。
さらに、トランプ氏は暗号資産に特化した特命官ポストを史上初めてホワイトハウスに設置した。このポストには元PayPalのCOOであるデビッド・サックス氏が就任する。
トランプ氏によれば、サックス氏がトランプ政権におけるAIと暗号資産領域に関する政策を主導するとした上で、「暗号資産業界が求めてきた透明性を確保し、米国で繁栄できるよう法的枠組みの構築に取り組む」と語っている。
このように、トランプ氏は親暗号資産派で閣僚を固め、本格的に米国における暗号資産関連の環境整備に乗り出す。そのため、特に大統領就任直後のトランプ氏の動向が暗号資産市場に強く影響することが考えられ、その後の政策実現などを巡り動きは激しくなりそうだ。