──米国におけるビットコインの現物ETFの承認を機に、改めて暗号資産に関する関心度は高まっているように思います。成田さんは暗号資産に関してどのような考えをお持ちですか?
成田悠輔(以下、成田):怪しげでいかがわしい存在ですね(笑)。最初に断っておきますが、私は暗号資産への投資を勧めたりは絶対にしないです(笑)。
ただ、あくまで事実として、奇跡的な何かが起きています。ビットコインや暗号資産全体は人類史上最も早い初速で成長しているスタートアップあるいは資産ですよね。ビットコインは誕生から15年で時価総額が約300兆円。ビットコインは誕生から15年で時価総額は約300兆円。純金も東京のタワマンもApple株も、足元に及びません。これがバブルなのか革命なのか、それは神のみぞ知る、と。
さらに驚くべきなのは、これがただの経済革命やバブルではないことです。むしろ思想的な、文化的なメッセージを伝えるための社会運動です。ビットコインは、国家的な中央集権管理者なしの通貨を作ることを使命とする運動です。イーサリアムであれば、通貨に限らず幅広いスマートコントラクトを動かすための世界計算機(World Computer)を作るという使命がありました。デジタル暗号技術を使った無政府主義運動ですね。
主義や使命を輝かせたのが創業者の行動です。ビットコインを300兆円にした創業者サトシ・ナカモト自身は、彼(女ら)の身元を明かしていないばかりか、自分のビットコイン持ち分を一切現金化していません。一銭も利益を得ていないのです。この力強すぎる行動が、サトシ・ナカモト自身の行動動機は儲けではないことを証明しています(少なくとも今のところ)。たぶん狂っているんだと思うので、友達にはならない方がいいですね(笑)。
こんな人はほかにいません。300兆円といわずとも、たとえば1兆円企業を作った創業社長で1円もキャピタルゲインを現金化しなかった人はいるでしょうか? 私はほかに1人も知らないです。
既存の経済資本と政治権力に対するアンチテーゼを提唱することで世界史的に類例のない経済利益を生み、しかもその経済利益はどうでもいいということを自らの行動で証明している。社会思想と経済利益が魔結合して高度に両立した、奇跡としかいえない事例です。
もちろん、今後爆発や蒸発してしまう可能性は常にあります。ただ、今のところ実績だけをみると、世界史上最も高い利益率を誇る起業家であると同時に、フランス革命やロシア革命、公民権運動と並び立ってもおかしくないような価値観の動揺を引き起こした革命家あるいは運動家であり、ついでにノーベル経済学賞やチューリング賞(コンピューターサイエンスのノーベル賞)ぐらいの価値はありそうな科学者・技術者といえそうです。
という意味で、現存する人類のなかでは別次元の実績を残した人だと密かに思っています。人類なのかもわかりませんが(笑)。22世紀からタイムスリップしてきたコードの断片という可能性が捨てきれません(笑)。
ただ不思議なのは、世の中がそういう風にはまったくみてなさそうだということですね。「ビットコインや暗号資産全体は人類史上最も早い初速で成長しているスタートアップあるいは資産」だという単純明快な事実さえ、理解している人はごく一部です。飲み屋のおっさんが理解していないのはいいのですが、自民党の政治家でも理解している人はたぶん一桁という印象です。国会議員のほとんどがいまだに20世紀を生きていそうなので、この国はたぶん沈むんだと思います。
