4月中は価格を落としていたビットコインの価格が、5月前に再び上昇の兆しをみせている。暗号資産分析会社K33のアナリストなどは、今ビットコインを買って保有すれば利益が出るとの見方をしているが、株式などほかの資産で投資を行ってきた経験がある人にとっては、なかなか踏み出しにくいことだろう。
「Sell in May(5月に売って離れる)」とは、投資の世界において古くから知られる格言だ。過去30年間のNYダウのデータをみてみても、確かに5月から9月にかけて株価は下落する確率が圧倒的に高くなっている。米国の税還付が2-5月にかけて行われ資金が流入することで5月頃に一旦のピークを迎えること。
夏季は多くの投資家が休暇を取るため、取引量が減少することなどが考えられるが、明確な根拠としては弱い。このように、現代ポートフォリオ理論や相場に関する理論の枠組みからでは説明できない市場の経験則により発生する現象には、“アノマリー(anomaly)”という名称が与えられている。
このアノマリーもあってか、5月の株式市場はリセッションに向かいやすいと考える投資家も多い。リセッションとは、景気が後退している状態のことで、一般的には2四半期連続でGDPがマイナス成長した景気の後退局面を指す。つまり、株式市場のアノマリーに従うならば、4~5月にかけて利益確定売りが増加し、9~10月にかけての株価は下落傾向というのが一般的な見立てである。
Sell in Mayのアノマリーは、暗号資産にもあてはまるとされている。どれだけあたらしい技術で作られた斬新な市場であったとしても、そこで取引を行うのが人間である以上、従来の投資慣習や心理的バイアスから完全に解放されることは難しい。実際に過去のビットコインをみても、5月になると価格が下落していくという傾向は確認されているため、これに従い5月には一時的にビットコインを手放す投資家も少なからずいるだろう。
だが、本当にこの戦略は正しいのだろうが。周囲の人が5月にビットコインを売るべきと声を揃える時こそ、自身の判断が問われる局面ともいえる。基本的に短期の投機は裏をかく人が得をする世界である。皆が手放しているこの時期に仕込んで儲けを出している人もいるのも事実だ。
本特集では、アノマリーから来ていると思われる暗号資産のリセッション説について、中立の視点から語ってみたい。特に、2025年はトランプ政権が誕生しこれまでの常識が通用しないような現象が次々と起こっている。イレギュラーが続くなかで、古臭いアノマリーにとらわれ続けることがはたして正しいのだろうか。
「投資は自己責任」というのは、言い換えると「自分で考えろ」ということである。実は暗号資産投資に限らずだが、投資の世界には常識やセオリーを絶対視することで、考える責任を放棄している人が多数いる。本特集はさまざまな意見を紹介する予定だ。ぜひ、5月のアノマリーとリセッションについて、自分自身で考察してみてほしい。