元Googleの研究者であるデビッド・ハ(David Ha)氏とライオン・ジョーンズ(Llion Jones)氏、そして伊藤錬(Ren Ito)氏の3名が2023年に設立した、東京を拠点とするAIスタートアップ「Sakana AI」。進化や集合知といった自然界の原理を応用したAIモデルの開発に取り組み、2024年には約300億円の資金調達を行った、ユニコーン企業(※1)だ。わずか数年で世界のAI研究者や投資家たちの注目を集めた背景にはどんな哲学があるのだろうか。
スタートアップ=シリコンバレー発という定石を覆す哲学
一般的に、大規模なAIを開発するには、膨大なデータと計算資源が必要だ。こうした背景から、資金力があり、既存のITサービスを提供する大手IT企業が有利とされている。また、現在のAI技術では大量なデータが必要になるのに加えて、問題が起こる度にメンテナンスをし続ける必要があり、労力とコストがかかるという課題も存在する。これらの課題をSakana AIはアイデアで解決しようというのだ。
Sakana AIはまるで「魚の群れが天敵を避けて泳ぐ」ような、自然界を見習ったシステムを作ろうと考え、既存AIを組み合わせることで高度なAIの構築を目標としているのだ。ここに社名の由来がある。
冒頭にあった「集合知/群知能(Collective Intelligence)」というアプローチは、複数の知的な存在が協力して問題を解決したり、あたらしい知識を生み出したりするという考え方である。
同社のロゴにも哲学が見え隠れする。赤い魚は「これまでの技術開発とは一線を画し、革新的なAIを生み出そうという決意」を表現していると同社の共同創業者らは過去のインタビューで語っている。
個の力で問題を解決するのではなく、知が集合体として機能することで、個では解決できない複雑な問題を乗り越え、革新的なアイデアを生み出す可能性を同社は追求しているのだ。

引用元:https://sakana.ai
※1:企業価値が10億ドル(約1,400億円:執筆時点)を超え、設立から10年以内の非上場企業を指す。2013年にベンチャーキャピタリストのアイリーン・リー氏によって初めて使用され、希少性の高い成功したスタートアップを象徴するものとして広まった。