──「古着女子」からスタートした御社のブランド展開は、SNSを起点に急速に広がりました。従来のアパレル企業のブランド構築手法と比べ、どこに決定的な違いがあるとお考えですか?
片石貴展(以下、片石):出発点は2018年に立ち上げたInstagramアカウント「古着女子」でした。会社員として働きながら、個人の延長線上で始めたメディア運営だったのですが、立ち上げからわずか1カ月でフォロワーが5万人に到達したんです。
SNSが持つ拡散力とリアルタイム性を目の当たりにし、従来型の広告や雑誌を通したブランド立ち上げとはまったく異なるアプローチが可能だと感じました。
当時、大学時代の友人とともにわずか資本金10万円で法人化し、まずは合同会社としてスタートしました。その後、さらに成長のスピードを上げるために資金調達を行い、株式会社へと移行していきました。
つまり、私たちの事業は「大きな初期投資をしてからブランドを立ち上げる」という従来のアパレル企業の方法とは逆で、ゼロに近いリソースからSNSを通じて熱量のあるファンを獲得し、その後に事業としての基盤を固めていったんです。
既存の企業が店舗や在庫、広告といった大きな投資を前提に動く一方で、僕たちはまずSNSを通じて市場のリアクションを確認し、その熱量を事業化につなげる。初期投資が限りなくゼロに近い状態でも、SNS上で共感を生むストーリーを発信できれば大きな成長を実現できる。
この「小さな始まりから大きく育てる」という手法こそが、従来のアパレル企業との決定的な違いだと思います。
現在はメディア運営自体は行っておらず、ブランド事業に集中していますが、ブランドづくりの根底にはSNS時代の感覚が息づいていると思います。
株式会社yutoriには、感度の高い若いメンバーが数多く在籍しており、彼らが主体的に時代の空気をキャッチし、それをプロダクトやプロモーションに落とし込むという流れが自然に生まれています。
SNSのアルゴリズムは常に変わり続けますし、昨日までの成功が今日も通用するとは限りません。そのため、トップダウンで「こういう戦略でいこう」と固定化するよりも、日々SNSを使いこなし、文化的な潮流を肌で感じている若者たちの感覚を尊重する方が、変化に柔軟に対応できると考えています。
彼ら彼女らの視点を活かし、今の空気感を即座に形にする。それが競争優位を維持できている最大の理由ではないかなと考えています。
つまり、アルゴリズムやテクノロジーの変化そのものに振り回されるのではなく、その背後にある「人々の関心」や「文化の兆し」にフォーカスする。その感覚を持った人材が多数いるということ自体が、私たちの組織の大きな強みだと思っています。

──ブランドづくりにおいて大切にしていることは?
片石:ブランドの解釈については「何かを決めない」「やらないことを決める」ことが大事だと思っています。単純にトレンドを追うのではなく、反骨精神や小さな“ひねくれ”を大切にする。
それが面白い形で商品に昇華されたときに、良いブランドになるのだと考えています。入口は少しネガティブにみえても、出口がポジティブなものになる。その乖離が大きければ大きいほど、強いブランドになるでしょう。
また、ブランドの鮮度を保つためには、あたらしい空気を持った人を次々とプロデューサーに抜擢していくことも欠かせません。
私が「変えるべきだ」と上から介入するのではなく、現場のメンバーが「楽しめていない」と感じるタイミングを尊重し、その意思決定を支持することが基本的なスタンスです。
そうした自由度が、結果として若い世代の価値観にもフィットした組織づくりにつながっていると思います。