貨幣史から学ぶ暗号資産—3つの要点サマリ
1 | 貨幣=「流動性を持つ価値のメディア」
経済学の定義では、貨幣は①価値尺度、②交換・流通手段、③価値貯蔵手段を満たす存在とされ、ビットコインのような主要な暗号資産はこの三要件を満たす点から「貨幣」とみなすことができる。そのなかでも最も重要なのが②の“流動性”であり、取引の媒介としてどれだけ多くの人が受け入れるかが貨幣性を決める。マイナーなミームコインが貨幣として機能しにくいのは、この流動性を十分に獲得できず、交換手段として広く使われる基盤を持たないためである。
2 | 紙幣は「名目貨幣」という東洋発の発明
中国では巨大な人口と銅銭の大量流通を背景に、金属そのものの価値ではなく額面に価値を置く“名目貨幣”の発想が発達し、世界初の法定紙幣「交子」が誕生した。その後、金が発行した「交鈔」、元が発行した「中統元宝交鈔」へと紙幣制度は発展し、クビライ・ハンが帝国内の紙幣を統一したことで、紙幣は広大な領土を結ぶ決済・交易の基盤となり、事実上“世界貨幣”として機能するまでに至った。
3 | ステーブルコインは「国家=基軸通貨の信用」を借りた流動性装置
ヨーロッパでは、戦争で金銀を失ったスウェーデンが銅の重いプレートマネーを発行し、その預かり証として紙幣を導入した。このように「軽くて運びやすいが実体のない紙」に価値を持たせるためには、“国家の信用”という共同幻想が不可欠だったとされる。
暗号資産も同じで、ゼロから流動性を築くことは極めて難しい。そのためドルや円に連動するステーブルコインは「すでに信用を得た法定通貨の力を借りて流動性を獲得する仕組み」と解釈できる。
しかしこれは、分散型を掲げるWeb3.0/ブロックチェーンの理念と、中央集権的な法定通貨に依存する現実とのあいだに緊張関係(tension)を生む構図でもある。この矛盾が、今後暗号資産コミュニティを揺らす論点になっていく可能性が示唆されている。
貨幣とは何か――デジタル通貨の時代に改めて問う“価値”の正体
貨幣とは何か。新明解国語辞典には『交換のなかだちとして案出されたもので、支払いの手段・価格の標準として、政府・中央銀行が一定の形や模様に作って発行した、金属片または紙幣』となっている。
政府・中央銀行が発行しない暗号資産は、貨幣と呼べないことになる。ちなみに、経済学の世界ではもう少し広い意味で貨幣を定義している。
財・サービスとの交換価値情報及び、そのメディア(媒体)の総体で、財・サービスの保蔵ができるもの、だ。経済学の世界で貨幣を定義すると一般的に以下の3つの条件があげられる。
『①価値尺度(物の価格を測る)』
『②交換・流通手段(売買の仲介)』
『③価値貯蔵手段』
この条件であれば、ビットコインなどメジャーな暗号資産は貨幣と定義してもよさそうである。
一般に知られていないミームコインはどうだろうか。②を満たしていない場合がほとんどではないだろうか。②を言い換えると流動性である。
手早く流動性を獲得しようとなると、すでに流動性を獲得している商品を利用するのがよい。
ドルや円といった法定通貨にペッグしたステーブルコインは、暗号資産の利用シーンを拡大しろという声に対応するには最適解だろう。
暗号資産の連動先に法定通貨という中央集権の権化のような媒体を選択したことには一部批判の声もある。だが、0から流動性を獲得するのは極めて難しい。なぜ流動性の確保は難しいのか。そこには人間の心理が大きくかかわっている。
今回は紙幣の歴史を学ぶことで、流動性の裏側を学んでいこう。
今回の紙幣 :『中統元宝交鈔(ちゅうとうげんぼうこうしょう)』
サイズ:272✕188mm 素材:紙 発行国:元(モンゴル帝国) 発行期間:1260~1287年