第3回 貨幣史から学ぶ暗号資産——インフレの正体

2026/03/30 15:45 (2026/03/30 15:53 更新)
Iolite 編集部
文:Shinichi Arima
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第3回 貨幣史から学ぶ暗号資産——インフレの正体

ビットコインはなぜインフレを選んだのか

サマリ

1.インフレは単純な悪ではなく、制御が重要である

ビットコインは発行上限や半減期によって供給を制御し、価値の安定を図る設計となっている。完全な無インフレではなく、緩やかなインフレを前提とした仕組みであり、「インフレを排除するのではなく制御する」という思想が根底にある。

ハイパーインフレは貨幣供給だけでなく複合要因で発生

ワイマール期ドイツの事例では、対外債務の増大、生産停止、政治混乱、信用崩壊などが重なったことでハイパーインフレが発生した。単なる通貨増発だけではなく、経済・政治の複合的な崩壊が通貨価値の喪失を招いた。

ビットコインは「信用」ではなく「数学」で通貨を設計

従来の法定通貨が国家や政策への信用に依存するのに対し、ビットコインは供給ルールを数学的に固定することで予測可能性と信頼性を確保している。これは、通貨の本質を再定義するあらたなアプローチである。


今回の紙幣:『ノートゲルト』

Notgeld image1
サイズ:不定 素材:紙 発行期間:1914 〜1924年

インフレは、本当に悪なのだろうか。BTC(ビットコイン)は、その価値を維持する仕組みとして、発行上限を2,100万枚と定めている。上限に達した時点で新規発行は停止し、それ以降は既存のBTCのみが流通する。また、約4年ごとに訪れる「半減期※2」によって、新規発行量は段階的に減少していく。

この仕組みは、供給量を制限することで希少性を維持し、通貨価値の安定を図ることを目的としている。発行主体を持たないBTCは、金融政策による供給調整ができない。だからこそ、供給曲線そのものを数学的に固定し、予測可能な形で供給を管理する設計が採用されている。

重要なのは、BTCが完全な無インフレ通貨ではなく、緩やかなインフレを前提とした構造である点だ。

日本ではなぜか、インフレ=悪という強い警戒感が根付いている。その背景にはドイツ・ワイマール共和国のハイパーインフレの記憶があるように思う。教科書に掲載された、価値を失った紙幣の束を積み上げて遊ぶ子供たちの写真は、多くの人に強烈な印象を残した。

日本自体も第二次世界大戦後ハイパーインフレに見舞われている。過度なインフレは国家を崩壊させる―そうしたイメージは、この歴史的事件によって形成されたのではないだろうか。だが、実際にはインフレそのものが国家崩壊の直接的な原因だったわけではない。

1914年7月28日、第一次世界大戦が勃発するとドイツ帝国は早々に参戦を決断する。プロイセン王国によるドイツ全域の統一から40年程度しかたっておらず、帝国内ではまだまだ地方の権限が強かった。そのため、参戦が決まるや否や、各地で長期戦になった場合の保険として「ノートゲルト」と呼ばれる小額の緊急紙幣が誕生した。1914年だけで、452ヵ所から5,500種も発行されている。

紙幣といったが国の許諾を得ておらず、発行母体は地方政府や町の役所、場合によっては私企業だ。つまり、厳密には短期債券に近い性格を持つ代用通貨だ。しかし、戦争によって金属が軍需物資として回収され、小額硬貨が不足したため、その代替手段として広く普及した。券面の図柄は自由だった。政府もその存在を黙認した。

ドイツの貨幣単位……金マルク

ドイツでは地方ごとに独自銀貨が定着していた。ドイツ帝国は誕生と同時に、金を本位貨幣とするマルク制度に切り替え。1マルク=品位900の金0.358g=品位900の銀=5gとした。だが、1914年に金兌換が停止されると価値は崩壊。金マルクとパピエル(紙屑)とわけて呼ばれるようになった。

金マルク

Germany 1 Mark imge
1マルク銀貨

パピエルマルク

10,000 Mark bill image
10,000マルク紙幣

第一次世界大戦期ドイツ

Timeline of Germany during World War I

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