雑誌の発売日に向けて、雑誌の入稿後は書店営業が日課になりつつある。Iolite(アイオライト)創刊時も例にも漏れず、都内の30店舗近くの書店に足を運び、日ごろ書籍に触れる書店員さんに話を聞いて回った。残念なことに、書店は徐々にその数を減らしつつあり、私が足を運んだ書店のなかにも、あと数日で営業を終える書店があった。
日本の出版業界には「委託制度」といって、定められた期間内の返品が認められるという制度がある。通常の書籍で30%前後、雑誌であれば40%以上が書店で売れずに返品されるという。取り扱う題材等にもよるが、雑誌のような比較的鮮度の高い情報を売りとして発行されるものが返品されやすいことも頷ける。
委託制度によって書店は比較的安心して仕入れができそうにも思えるが実際にはそうでもない。物価高の影響で返品時の送料の高騰も課題としてのしかかっているようだ。これらの課題を解決するために、売れ 残った雑誌をセール品として販売する書店もある。セール品の9割以上が売れるといい、売上は下がるが、返品送料等のコストは削減され利益を確保しやすくなるそ うだ。
このような状況下で、Ioliteを手に取ってもらうには何をするべきか。ビジネス誌でありながら、前例のないモノにするには何を指標にすれば良いのだろうか。予測の数字であれば上げることはできるだろうが、過去に行われたことのある施策を活用できる状況と比べれば予測の精度は下がるだろう。
自分の経験則を材料にして、数字を組み上げていくことも可能だが付け焼き刃だ。私が過去に持っていた実績も業界を変えれば、名刺代わりにも使えなかった経験がある。自分が活動していた業界よりも大きな世界に足を踏み入れれば、知名度では桁の違う猛者がたくさんいる。そんな猛者たちにフォロワー数といった虚像で勝負しようとしても相手にされない。
しかし、私はこれを作ったと説明すると目の色が大きく変化した。おそらくこれからさまざまな業界がグラデーションのように溶け出しあう環境では、自身のポートフォリオとしてこれを作ったと表現できるものがあることは、非常に重要なことであると実感している。
近頃、四六時中考えている「Ioliteらしさ」。今では全ページから「Ioliteらしさ」が滲む雑誌にしたいと強く思うようになった。ぶれない軸を持ったそんな時に、不思議な出会いはやってくるものだ。今号の表紙およびメインインタビューをご快諾いただいた「imma」さんの記事作成に、 最初から最後まで深く関わりクリエイティブのプロたちと一緒に仕事をさせてもらった。
良い意味で自分の蓋が外れるような刺激的で貴重な経験だった。本誌をご覧いただいた方はすでに目にしているキャッチかもしれないが、これからブランドを確立していく上で重要な指針となる、 私が教えてもらった大切な言葉をあえてもう一度ここに残したい。
「人が何かに憧れ共感するのは、 バランスよりエゴイズムだ」
ありがたいことに、ライター、カメラマ ン、デザイナー、編集者。ほかにもたくさんのクリエイターと関わる仕事を務めさせてもらっている。一切の手抜きがなく、本人が乗り移ったかのような作品をみると鳥肌が立つ。だからこそ、コストをかけて生み出した自分の尊い作品に自信を持ってほしいと思う。
私はプロフェッショナルの仕事に対峙できる瞬間がこの上なく幸せだ。これからもIoliteはクリエイターのハブとして在り続けることを約束する—