——2023年3月に入り、米国では銀行の経営破綻がドミノ倒しのように起きました。立て続けに起きるさまや破綻規模から、2008年のリーマンショックを思い出させます。
3月10日から12日にかけて、中堅銀行のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行が破綻し、事業を停止。シルバーゲート銀行の持ち株会社のシルバーゲート・キャピタルも遡ること3月8日に銀行業務を終了し、任意清算すると発表しました。
SVBの総資産は約2,090億円、日本円でおよそ28兆円にものぼり、米銀行破綻としては、2008年に起きたワシントン・ミューチュアルの経営破綻に次ぐ史上2番目、シグネチャー銀行は3番目の規模です。これだけでも、ことの大きさがわかります。
なお、欧州でもスイス大手銀行のクレディ・スイス・グループが経営危機にさらされ、その後に同じくスイス大手銀行のUSBが買収することになっています。5月1日には、サンフランシスコに本社を置く ファースト・リパブリック銀行(FRC)も経営破綻し、JPモルガン・チェースに売却されました。
総資産は2,291億ドルで、先に経営破綻したSVBを上回り、2008年のリーマン・ブラザーズに次ぐ、史上2番目の規模です。わずか2ヵ月で、これだけの破綻ドミノが起きました。
——日本人にとって、これら金融機関に馴染みがありません。どういった銀行だったのですか。
SBVは1983年にカリフォルニア州で創業した銀行で、主にITスタートアップやスタートアップに出資するVC向けに融資をしていました。
2022年にVCが出資したIT・ヘルスケア関連企業の米国内のIPOのうち、約4割がSBVの取引先だったくらいなので、いかにITスタートアップに特化した業務を行っていたかわかります。とはいえ、シリコンバレーは新興IT企業の集積地ですから、そうなるのも戦略として理解できます。
一方、3月12日に経営破綻したシグネチャー銀行は、2001年創立でNYに本店を置く銀行です。全米に40店舗を展開し、暗号資産関連の企業を相手に主要取引をしていました。
1988年から事業を始めたシルバーゲート銀行も同様で、暗号資産に特化した金融機関で、ブーム初期から同事業に参入し、2020年9月時点で21億ドル相当の暗号資産を保有していました。
FRCは1985年設立の商業銀行・信託会社で、富裕層を対象に資産管理サービスを提供。一時期はニューヨーク州やカリフォルニア州、マサチュー セッツ州など11州で94の支店を展開していました。
米国は依然として高インフレ
FRBは難しいかじ取りを迫られる
——いずれも、それなりの規模を誇る銀行です。それがなぜ、経営破綻の憂き目にあったのですか。各メディアでは米国の利上げが要因になったと伝えています。
いくつかの要因が重なった結果です。2008年のリーマンショックは、低所得者向けの住宅ローン 『サブプライムローン』の返済不能者が急増したことが背景にあり、同サービスを提供していたリーマン・ブラザーズに経営が悪化、経営破綻。
当時の負債総額は約6,000億ドルと超巨額で、これをフックに世界的な金融危機が起きました。これは1929年に起きた世界恐慌以来の世界的な大不況として、いまも語り継がれています。片や今回の破綻ドミノは、米国の金融政策が深く関わっています。
ことの発端は、2020年より突如、世界を襲った新型コロナウイルス感染症です。感染拡大を抑えるため出国・外出機会を停止するなど、各国政府は鎖国のような対応に迫られましたが、米国では景気低迷を避けるため、FRB(連邦準備制度理事会)による、大規模な金融緩和策を実施しました。
これに伴い政策金利が引き下げられた結果、スタートアップは資金調達がしやすくなり、SVBの預金残高も増加。大量に集まった預金を国債や住宅ローン債権などで運用していたわけです。
ところがその後、米国は歴史歴なインフレに見舞われ、FRBは2022年3月に利上げに転じ、その後も段階的に政策金利を引き下げ、0.25%だったのが今年5月時点で5.00~5.25%にまで上昇しました。金利を引き上げると資金の動きが鈍り、これによる物価下落を狙った結果です。
ただし、低金利で資金を調達していたスタートアップからすると、借入金利が上がると資金調達や返済リスクが高まるばかりで、おのずと成長スピードは鈍化せざるを得ません。株価も下がりIPOもしにくくなります。結果、資金繰りが厳しくなり、SVBから預金を引き出したことが経営悪化につながりました。
また、金利が上がると債券価格は下がり、国債を大量に保有していたSVBは多額の含み損を抱えることになります。これを察知した顧客が預金を引き出したことで、資金不足になったことも経営に歯止めをかけました。
国債にまつわる事情はシグネチャー銀行も同様ですが、同行の主要顧客は暗号資産関連企業。同業界では2022年11月に、暗号資産取引所大手のFTXトレーディングが経営破綻し、信用不安が広がっていました。
利上げにより暗号資産のようなリスク資産からほかの安全資産に資金がシフトしたことによる経営不振が原因で、関連企業の倒産が増えたことで同業界に特化していたシグネチャー銀行、シルバーゲート銀行も経営破綻に追い込まれました。
後者に至っては、2022年9月から12月にかけて約81億ドルが顧客により引き出され株価は40%、任意清算の発表時点で年初来から71.56%も下落しています。FRCは、SVBやシグネチャー銀行の余波を受けた格好です。
こういった経営破綻が相次ぐなか、2022年末時点で同行の預金残高のうち、保護されない預金の割合が約67%と推定され、顧客による取り付け騒ぎに発展、株価も急落、2月半ばにJPモルガン・チェースなど11金融機関から300億ドルの支援を受けましたが、最終的には倒産を余儀なくされました。
なお、一連の破綻に関してはSNSなどを通じて情報が拡散され、預金者が資金引き出しに走ったともいわれていて、これは今時なことだと思います。
——これだけの規模ですから、予兆はなかったのかが気になります。
2021年11月にFRBはインフレは一時的でないとの見解を示しています。継続的な利上げで銀行が持つ債権の含み損が大きくなることを市場は織り込み同国の銀行指数は下落。一旦は持ち直しますが、2022年1月から6月にかけ急落したので、何の前触れもなかったと断言できません。
——今後、リーマンショックのような世界的な金融危機に拡大するのか。FRCはさておき、ほかの銀行は取引先がITスタートアップや暗号資産関連企業だったことが背景にあり、限定的だと考えています。
同感です。今回はコロナ禍で起きた事象であり、余剰資金をITスタートアップにつぎ込むといったマネーゲーム的な側面も否定できません。米財務省は本来では25万ドルまでしか保護されない預金を全額保護するなど、異例の措置も取りました。FRBが金融機関に資金を供給する枠組みも設け、銀行の連鎖破綻を防ぐ狙いです。
一方、米国は依然として高インフレに悩まされていて、FRBは難しいかじ取りを迫られます。
金融の引き締めは、ITスタートアップにとって逆風か?
——利上げ=金融の引き締めは、ITスタートアップにとって逆風です。実際、2021年に752件あったナスダックのIPO件数は、2022年には161件にまで減りました。
借入のハードルが高くなり株価も低迷、IPOも減るなど、ITスタートアップにとって逆風が吹き荒れています。投資家からしても、こういった時期はリスクのある成長企業より、株価が安定して推移し配当が出る企業に投資したいとの心理が働くでしょう。
何より、高利回りなら株式などではなく、預金や国債といった安全な場所に資金を置く方が得策です。米国の金融政策が利上げから利下げに転じない限り、ITスタートアップの成長やそれに対する投資は鈍化するかもしれません。
ただし、ハイテク株で構成されるナスダック100は、これまでの金融引き締めと債券金利上昇の影響による下落からの反動で、指数は大きく戻っています。投資をする場合は、こういった情報にも注視すべきでしょう。
一方、先ほどと矛盾する動きをみせているのが暗号資産です。利上げにより暗号資産からほかの資産へシフトしたと述べましたが、3月の銀行破綻以降は状況が変わり、ビットコインであれば270万円台(3月10日)だったのが、5月中旬には363万円台にまで価格を上げました。
度重なる金融不安から暗号資産を買い戻す動き、ドルを中心とする法定通貨の根強いインフレリスクが、このような状況を生んだのかもしれません。預金者からすると、不安を払拭できないまま全資産を現金として銀行に預けておくのではなく、一部を暗号資産で持っておいた方が安心という心理があるのでしょう。
米国株の復調は続くのか?
ナスダックの主力銘柄を注目するとみえてくる「もの」がある
——GAFAMといったビッグテックは、今後どうなっていくでしょうか。
米国の大手テック企業では昨年秋以降にレイオフが相次ぎ、GAFAM(Google=Alphabet、Amazon、Facebook=Meta、Apple、Microsoft)だけで約5万人、米国のテック企業全体で約24万人が解雇。今年に入っても流れは変わらず、1月だけで10万人超がレイオフされました。
コロナ禍でEC取引が急増し、ビッグテックを中心に米国のIT企業は増収増益を記録したが、アフターコロナでも同様の成長は期待できず、抱え過ぎた人員を削減したい考えです。また、GAFAMはすでにグローバルで事業を展開していますが、ビジネス自体の成長性も鈍化し、競争も激化しています。
ただし、各企業はAI、とりわけChatGPTに代表される生成型AIの開発・巨額投資を進めていて、これらが実を結べば収益に大きく貢献するはずです。
たとえば、MicrosoftはChatGPTを開発するOpenAIに10億ドルを投資、Googleは5月に生成型AIの「Bard」をリリースしました。AmazonやMetaもAIの活用を進めています。こういったあらたなビジネスのタネにも注目したいものです。
これを示すかのように、Alphabetの株価は5月11日に急上昇しました。前日にAIを活用するプレゼンを行ったことが幸いし、2日間の株価上昇率は9%。時価総額は1兆4,800億ドルに到達しました。Microsoftの株価も2023年以降は堅調に推移し、5月半ば時点で年初来高値を記録しています。
Appleは今年4月、米国国内でクレジットカード「アップルカード」のユーザーに対して、金利4.15%での預金サービスを開始しました。これは米国の平均金利0.3%台の10倍以上で、驚異的な水準です。
金融不安があるからこそ安全な預金先が求められ、経営基盤が盤石なAppleだからこそ提供できるサービスといえます。Appleとしても、iPhone以外のビジネス基盤の構築は必須で、金融事業に活路を見出したいのかもしれません。
こういった現実を目の当たりにすると、GAFAMとITスタートアップを一括りにITバブルの終焉と片付けることはできません。GAFAMの成長は、今後も期待できると思います。
日本への波及リスクは限定的と予想
米国と日本では預金者の「質」が異なるのも理由のひとつ
——米国発の金融不安ですが、日本は今後どうなるでしょうか。
あらたに就任した日銀の植田和男総裁は金融緩和を継続することを明らかにしています。利上げはまだ先のことで、米国と同じようなことは起きにくいと思います。日本への波及リスクも限定的と考えるのが妥当でしょう。
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