Amber Groupの日本法人として昨年参入したWhaleFin
——李さんは2023年の暗号資産及びWeb3.0領域の現状をどのようにみており、今後どのような動きになっていくと考えていますか?
李依錦(Li Yijin・以下、李):私は暗号資産業界のサイクルを決定する最も重要な要素として、マクロ的経済とビットコインの半減期の2つがあると考えています。
暗号資産業界はまだ内生利益を生み出す段階には程遠く、現在はその明るい将来性を踏まえた伝統的金融市場からの資金提供を受けています。
また、ビットコインのマイニング報酬が4年ごとに半減することで、希少性を生み出し、ビットコインの価格を上昇させ、それによって暗号資産全体の時価総額を上げることになりますが、歴史上3回の半減期後の強気相場は完全に半減期によってもたらされたわけではなく、外部金融市場の上昇及び下降のサイクルと一致しただけです。
2024年のビットコインの半減期まではまだ1年ありますが、市場がそれをどのように推測するかを予測することは難しいと思います。
一方、現時点でのWeb3.0における最大のユースケースは投資や投機を含めた取引機能です。ナレイティブが主にレイヤー1・レイヤー2及びアプリケーション層プロトコルに焦点をあてて展開しており、真のキラーアプリケーションはまだ存在しませんが、ゼロ知識証明を活用した汎用的なスケーリング技術で、DeFiやNFTのエコシステムは爆発の機会を迎えています。
特に分散型先物・オプション取引の領域にはまだ成長の余地があり、流動性や市場シェアがこれから急速に成長することに期待しています。NFTエコシステムが多様なアプリケーション価値を生み出すことにも期待していますね。
NFT市場は暗号資産の市況による影響を受けて大幅に縮小しましたが、今後、知的財産、デジタルアイデ ンティティ、会員権、RWA(現実資産)トークン化などの領域でさらなる内在価値を見出す可能性が継続的に注目されるだろうと思います。
今後は資産管理・NFTやペイメント領域に注力。
日中の架け橋として活躍し、アジアのWeb3.0発展に貢献へ
——昨年の日本進出・サービス開始を踏まえ、現在に至るまでどのような考えのもと事業を進めてきたのか、またAmber Groupの日本法人として今後どのように事業を展開し、どこに注力していくのかお聞かせください。
李:Amber Japan株式会社の前身は、日本のインターネット大手IIJグループ、野村ホールディングス、JR東日本、三井住友銀行など日本の大手企業35社が共同で出資し、暗号資産交換業者として金融庁に登録されたディーカレットになります。
昨年2月にシンガポールに拠点を置くデジタル金融サービスプロバイダー・Amber Groupの日本法人であるWhaleFin Holdings Japan株式会社を株主に迎え、日本でのサービス展開を進めてまいりました。その後、「WhaleFin」サービスのローンチにあわせて、Amber Groupの名前を冠した「Amber Japan株式会社」へ社名を変更しています。
当社の親会社であるAmber Groupは、シンガポールに拠点を置くデジタル金融テクノロジープラットフォームであり、現在、複数の地域で事業を展開し、10以上の規制ライセンスを取得していて、暗号資産の高頻度取引やマーケットメイク、OTC流動性提供、貸付などのサービスを機関投資家や個人投資家に提供するほか、資産管理や投資も行っております。
WhaleFinは、Amber Groupの個人向けデジタル資産のオールインワンプラットフォームです。Amber Groupが機関投資家及びリテール市場の双方にサービスを提供してきた深い専門知識に基づき構築されており、投資経験の有無に関わらず「暗号資産のゲートウェイ」としてご利用いただけます。
日本では、これまでディーカレットで取り扱っていたビットコインやイーサリアムを始 めとする暗号資産の売買及び送受の機能を、簡単な操作でご利用いただけました。今後、資産管理・NFTやペイメントの領域に力を入れる予定です。
——日本がWeb3.0領域で世界をリードする上で必要なこと、また李さんだからこそ業界の発展に寄与できると考えるポイントをお聞かせください。
李:まず、日本のWeb3.0がこれからさらに発展するには、環境整備や人材の育成が大事だと思います。Web3.0がもたらすポテンシャルは大きく、特に日本のような強力なIPとコンテンツ産業を持つ国にとって は、あらたな価値創造の機会があります。また、日本独自の文化や創造性が国際的な注目を浴び、グローバルに影響力を持つ可能性もあります。
一方で、このあらたな可能性を実現するためには、法制度や環境整備などの基盤整備、人材育成や海外からの人材の呼び 込みなどが重要となるでしょう。地方自治体との連携やスタートアップ企業の活動など、多様な主体の協力が求められることも注目すべき点です。
海外では、欧米諸国もWeb3.0時代を見据えた戦略の検討を急いでいますし、中国もデジタル経済の発展を重要な国家目標として位置付けており、ブロックチェーンが重点技術として注目されています。
特に香港はWeb3.0のハブを目指していて、今年6月を目処に暗号資産取引所のライセンス要件と個人投資家の暗号資産取引を認可する草案を公開します。これにより、中華系企業の参入もさらに見込まれます。
そのなかで、私は日中の架け橋として活躍したいと思います。異なる文化や技術、市場の理解とつながりを持つことで、今後、アジアのWeb3.0発展において自分の価値を発揮していきたいです。
私は日本においても、独自のWeb3.0の展開とそのナラティブが世界をリードできると期待しています。日本の独自性や創造性が文化的・経済的な領域において世界を魅了し、あらたな価値創造の先頭に立つことができると信じています。
今後、スタートアップ企業を主体として、自治体と連携しながらWeb3.0やNFT、DAOを活用して地方の課題を解決し、活気ある取り組みが進められるでしょう。日本が持つ独自のストーリーテリングやアート、技術が、Web3.0の世界において他国に先駆けた展開を果たすことで、グローバルな影響力の向上を期待しています。
Profile
◉李 依錦
JFSA日本の(日本の金融庁)よりライセンスを取得した暗号資産取引所のAmber Japan KKの代表取締役。現職に就く前には、JFSAからライセンスを取得した暗号資産取引所Huobi Japanや、日本の金融複合企業SBIグループによって2020年末に買収された主要な暗号資産流動性プロバイダーであるB2C2で勤務。また、IDGキャピタルで暗号資産のキャリアをスタートした頃に、JFSAにライセンスを取得した暗号資産取引所Liquidへの資金提供にも参加した。
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