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地方創生×DX——「自治体DX」の成功と失敗、抱える問題点

2023/05/30Iolite 編集部
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地方創生×DX——「自治体DX」の成功と失敗、抱える問題点

可視化されづらい自治体DXの本当の中身

「デジタルトランスフォーメーション」こと「DX」は直訳すれば「デジタルによる変容」だ。

一般的には「デジタル」の部分ばかりに注目が集まりがちだが、最も重要な部分はデジタル技術を用いた「変容」の方にある。

この問題に直面しているのは民間企業だけではなく、地方行政、地方自治体も同様。民間企業よりも可視化されづらい地方自治体の「自治体DX」とは、いったいどんなもので、何を行っているのか。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進というテーマは、一般的には民間企業において聞く話題だ。しかしながら、このテーマに頭を悩ませているのは行政、地方自治体においても同様となっている。特に地方自治体では、地方自治体ならでは問題や課題が数多く発生している。

こうした地方自治体のDX推進は「自治体DX」とも呼ばれている。この自治体DXとはそもそも、どのような内容を示しているのだろうか。

具体的にはデジタル技術やデータを駆使し、自治体を始めとした各種公共機関や施設などの行政サービスに変革を行い、地域社会への貢献を目指すことになる。

実際に、各地域のデータを適切かつ効率的に収集、管理、分析、そして活用することで、地域住民へのより有意義で快適な行政サービスを提供することが可能だ。収集したデータをビッグデータとしてAIなどを駆使し、適切な運用を行えば、住民の利便性が上がることは間違いない。

またデジタル技術やAIをうまく取り入れることで、業務効率化が行え、サービスの向上だけではなく、人材を今までにないあらたなサービスに割り当てることもできる。

総務省は2020年には「デジタル・ガバメント実行計画」の閣議決定時に「自治体DX推進計画」を発表。2021年にはデジタル庁が中心となって、「Gov-Cloud(ガバメントクラウド)」という、統一化された基幹業務システムの構築を目指す方針となった。

これが進めば、全国の地方自治体がSaaSやIaaS、PaaSといった複数のクラウドサービスをできるようになる。多くの業務がウェブ上で実施できるようになり、コストを抑えて業務のスピードも上がる。

そして何より、国と各地方自治体同士のデータ上の連携も取りやすくなることが期待されている。国全体を上げてDXを推進していく機運が高まっているのだ。

「時代の波」と「社会のさまざまな課題」が差し迫る状況下で、地方自治体のDX推進は長きにわたる課題

こうしたなかで特に地方自治体のDX推進においては現実的な必要性に迫られている背景もある。

総務省の「地方公共団体の職員数の推移」によれば、地方自治体の職員数はこの20年間で40万人以上削減されている。いわば万年人手不足な状態が続いており、行政サービス業務の効率化は急務の課題となっている。

また、 2020年以降の新型コロナウイルス騒動の対応をめぐって、地域間、組織間をまたぐ横断的なデータの活用や連携ができていないことが浮き彫りになったことも背景に存在する。

2021年に岸田文雄政権が誕生すると、岸田首相は「地方からデジタルの実装を進め、あらたな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めます」という所信表明を発表した。

岸田首相就任前に設立されたデジタル庁ではこれを受けて「地方におけるデジタルイ ンフラの整備などによる『デジタル田園都市国家構想』の実現」、「データ戦略の推進」、「行政のデジタル化の強力な推進」を「3つの柱」として推進し重点的に取り組むとしている。

地方である故に広くは認知されていないものの
成功例は数多く存在している

具体的なDX推進事例は、庁のウェブサイトの問い合わせにAIチャットボットを活用している佐賀県庁がある。このチャットボットは「新型コロナウイルス感染症について」と「九州佐賀国際空港」のページに設置されており、どちらもコロナウイルスに関しての問い合わせを24時間行うことができる。

質問を直接入力するとQ&Aなどの質問事例が表示され、その他調べたい項目をクリックやタップで選択して調べることもできる。佐賀県庁は全国の都道府県のなかでもDX推進センターを設けており、県内業務の生産性向上や業務効率化の支援も行っている。また庁舎内の業務にもAIやIoTが取り入れられている。

そのほかには石川県が電子申請システムを取り入れた例もある。これだけならよくある話だが、石川県の場合は専用ツールを活用して、職員自らが申請の入力フォームを作成した点が特徴的だ。普段から自治体の業務を行っている職員が製作したことで、住民からも使い勝手の良さに定評がある作りになっている。

また、このシステムはマイナンバーカードの連携を行わなくても、生体認証やPINの入力で本人確認ができようになっている。

香川県高松市では、防災分野におけるスマートシティの取り組みとして、「防災ダッシュボード」を構築。これまでは大雨が降った時に、頻繁に氾濫する河川を監視するために、わざわざ職員を派遣する必要があった。

しかし、このダッシュボードを取り入れたことにより、常にリアルタイムで水位情報を確認できるようになり、職員の勤務体制も改善されている。

またこの水位情報はオープンデータになっており、地域の住民もいつでも確認することが可能。住民が気軽に安全を確認でき、QOLの向上にも役立つ、まさにDX化と呼ぶにふさわしい改善だ。

成功した場合にはサービスが向上するが失敗すれば悪化する「諸刃の剣でもある根本的な改革がDX」

一方で、具体例は避けるが、DX化がうまく進まない自治体も存在する。その理由の1つとして大きいのは、「アナログ文化の根強さ」が関係している場合もある。

そもそも地方自治体は全体的にアナログの業務フローが根強く残っている場所が多い。DXに限らず、デジタル化全般に職員や役職の抵抗感があると、当然DXの推進は滞ってしまうことになる。

またDXは本来システムや業務フローを大きく変えることを目的にするものだ。そのため、アナログ・デジタルに関わらず「変化を嫌う」気風が強い自治体の場合には、同様にDX化が進まないことになる。

またDXに対する理解が根本的に不足している場合もある。地方自治体の場合は、競合他社との市場競争を行う必要がある民間企業とは異なり、積極的に新技術を取り入れる必要がない場合も多い。そのため自治体全体でDXに対する意識や理解度が低く「そもそも何をどうしたらいいのかわからない」という場合も存在する。

またDXそのものに対する理解や意欲はあっても、ITやデジタル分野に詳しい人材がいない、という場合もある。DX化自体は推進したいが、具体的にどうしたらいいかがわからない、というパターンだ。実際の具体的な設備の構築などは、発注業者に任せれば問題はない。

しかし、デジタルやITの知識に乏しい場合、「いったい何ができるのか」「どういった変革が行えるのか」のイメージがつかめず、DX化の方針を立てられない、ということもあり得る。こうした状態で半ば無理やりDX推進を行っても、結果的に「失敗」となることも少なくない。

「コンサルタント」と「レガシーシステム」がDX推進における問題をさらに複雑にし、さらなる障壁として立ちはだかる

特に厄介なのが、DX推進以前から問題視されている地方創生の「コンサルタントバブル」という状況だ。これは2014年の閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に端を発している。

この戦略策定により、地方自治体には「地方創生」を名目に多額の予算が導入され、各地方自治体はこの予算を使ってあらたな取り組みを行うべく、地方創生に携わるコンサルタントに依頼することが相次いだ。

従来から自治体の地域活性化分野ではコンサルタントに外注することが常駐化していたことも拍車をかけた。

そもそも自治体の地域活性化には全国各地で入札が行われている。しかしこの入札が終わってから、落札に成功したコンサルタントが、別地域の成功した地方創生事業にヒアリングに行く、ということも多い。この順序が逆転した現象が通例となってしまっている。

もともと地域で事業を行い、才能がある人間の場合には、地方創生などという行政の動きの前に、自分から事業を展開していることが多いことは想像に難くない。案件を受託してからヒアリングに行くという行為自体に疑問が残るのである。

こうしたコンサルタントのなかには、実際には素人同然で基本的な知識もないものも多いという。そしてそのコンサルタントが、ヒアリングしてきた成功事例を真似て事業案を出すこともしばしばある。

地域活性化は、基本的にその土地にあった戦略を考えなければ成功しない。どこか別の地域における成功事例の劣化コピーを持ってきても、当然成功するとは限らないのだ。

しかし、この地域活性化という分野では「補助金」を使って事業そのものをでっち上げることはできるため、こうしたコンサルタントの出現が後を立たないのだという。

そして自治体DXにおいても、同様のことが起きているという。「DX推進」といわれても知識のない地方自治体が、その方針をそのままコンサルタントに投げてしまうという事例である。

そもそも、地方創生にしてもDX推進にしても、それぞれの自治体において事情や住人たちの要望などが異なっているのが当たり前である。それを外から来たコンサルタントに丸投げすること事態に無理があることは明らかだろう。

こうしたコンサルタントによる失敗の主な問題点としてまず「需要の不一致」がある。それぞれの自治体の中で業務フローは異なり、地域の事情も異なれば住民の要望も異なる。こうしたなかでデジタル技術を用いて業務やサービスの刷新を行うには、それまでそこで仕事を行ってきた人間が主体的に変革に取り組む必要がある。

自治体がチームとして問題解決のために知恵を出し合い、自ら実行することが、DX化を成功させるための糸口になるのである。

特にDX化はツールを導入するだけのIT化とは異なり、システムや業務フローそのものを改革するもの。その特性上、客観的な第三者であるコンサルタントの意見よりも、実際に現場で働く人間の声が必要なのである。

加えてこうした問題点には、地方自治体の財源が税金であることも少なからず関係している。民間企業であれば、多額の予算をかけてDX化を推進したのにも関わらず、業務の効率が下がりでもした場合には経営が大きく悪化する。そうして労働環境が悪化するのであれば、コンサルタントへの責任追及も重くなる。

しかし地方自治体においては倒産することもないため、コンサルタントが付き合いやすく、とりあえずの要望を聞いてくれていれば、何となく「DX化が推進した」のだから仕方ないと責任追求の手を緩めがちになってしまうのである。

本来であれば、DX化が適切に行われれば業務フローのタスクは減り、人材にもゆとりができる。公共サービスに関わる作業量なども減らすことが可能になるので、全体的にサービスの質の向上、場合によってはサービス料金の値下げも行えるはずだ。

しかし、こういったさまざまな理由でDX化に失敗した場合には、むしろ業務タスクは増加し、結果的にサービスの質低下を招いてしまうことも少ない。実際に、こうした現象は地方自治体だけではなく、銀行などを含めたさまざまな民間企業でも見受けられている。

加えて、日本は80年代からデジタル化やIT化には力を入れてきた背景があり、それが返って現在のDX化を邪魔する結果になってしまっている場合もある。PCやデジタル化の初期に組み込んだシステムを長年にわたり修正、改善を繰り返して使用し続けてしまったために、システムが複雑化し大胆な全体的な刷新ができなくなるという問題だ。

これは一般的に「レガシーシステム化」と呼ばれている。DXを無理に推進し、このレガシーシステムを無理に改変すると、既存のコンピュータシステムがブラックボックス化してしまい、そこに蓄積されているデータが活用できなくなる可能性なども存在する。

一方でこのレガシーシステム化はかねてから問題視されており、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、日本全体のレガシーシステム化がこのまま進むと、2025年以降には毎年12兆円の経済的損失が発生するという可能性を発表した。

これは「2025年の崖」と呼ばれており、この2025年の崖問題が、国内でDXという言葉とその推進が広まるきっかけとなったのである。レガシーシステム化問題を解決するためにはDX化が必要だが、レガシーシステムがある故にDX化が進まない、というある種のジレンマにはまっている一面も存在する。

海外のDX成功事例

最後に、海外の成功事例に触れておきたい。

ドイツでは、デジタル技術を用いてエコシステムや地方創生ソリューションを作る「デジタルビレッジ・プロジェクト」が2015 ~2019年の間に行われていた。

このプロジェクトの1つに「ポケットビレッジ」がある。これはニュースメディアと連携し、デジタルビレッジに関するニュースが閲覧できるアプリを活用することで地域コミュニティの活性化を目指したもの。

住民同士、そして住民と行政がスマートフォンでポケットビレッジを通してつながり、地域イベントや自動車の相乗りなどの情報を共有できるようになった。この結果、地方経済の発展やSDGsにも成果が上がるという、世界的なDXの成功例となっている。


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