1.AIエージェントと暗号資産の融合
自律的に取引を行うAIエージェントの普及により、膨大な取引を管理するインフラとしてブロックチェーンの必要性が高まっている。人間に依存しないマシン・トゥ・マシン経済において、暗号資産を通じた決済が最適な解決策。
2.明確な規制が呼び込む機関投資家の参入
日本は世界に先駆けてWeb3.0の法的な位置づけを定めたことで、ルールが明確化されている。この規制の明確さが、大手銀行や機関投資家による資産のオンチェーン化を後押しし、グローバルな投資を国内へ惹きつける最大の強みに。
3.分散型インフラと実世界資産の未来
投資の観点で今後5〜10年のトレンドとなるのが、眠る計算資源をシェアするDePIN(分散型物理インフラネットワーク)と実世界資産のトークン化(RWA)である。暗号資産は単なる実験段階を終え、本格的な産業化のフェーズへと移行しつつある。
──まず、リサーチャーとしての経歴とCGVでの業務内容を教えてください。
毛 舜奇(Mao Shunqi、以下Mao):私はニューヨーク大学で学士号、コーネル大学で修士号を取得しましたが、いずれもコンピュータサイエンス専攻です。そのため私のベースはコンピュータサイエンスにあります。卒業後、2社目に投資運用会社のシニアエンジニアとなりました。そこで初めて金融分析の基礎的な概念や、金融の概念をコンピュータサイエンスといかに組み合わせるかを学びました。
ちょうど同じ時期に、AIが急速に進化し始めていました。AIとWeb3.0の融合が進むといわれ始め、クリプトいわば、ブロックチェーン技術が私の視野に入ってきたのです。それがきっかけでこれらの概念を学び始め、最終的にリサーチャーとしてCGVに入ることとなりました。
CGV内での日常業務はオンチェーン・オフチェーン双方のデータパイプラインを構築するエンジニアリングが中心です。今はAIエージェントを使ってコードを書くので、以前より時間に余裕があります。その時間で論文を読み、あたらしい技術を学ぶ。コーダーであり、AIの力を借りたリサーチャーでもある、という立ち位置ですね。
──AIの登場でクリプトに起きた最も大きな変化は何だと感じますか?
Mao:最大の変化は、やはりAIエージェントです。かつてLLMが単なる自然言語処理の技術だった頃は、次に価格が上昇する確率の高いトークンを予測するだけでした。しかし今やエージェントは適切なプロンプトがあれば、後は自律的に作業を進めてくれます。多数のAIエージェントが金融分野で働くようになると、それらはツールやほかのエージェント、人間や主体とやり取りをし、取引を行う必要も出てきます。
こうした取引はその量があまりに膨大で、現在の銀行システムのようには管理できません。ですからエージェントの登場によって、クリプトとブロックチェーンの必要性は以前よりはるかに高まったと思います。

──日本を拠点にWeb3.0を研究するなかで感じる日本の強みや、リサーチの難しさ・面白さは何ですか?
Mao:最大の強みは規制の明確さです。日本は世界に先駆けて法的な位置づけを定めた国です。ルールが曖昧なままだと、特に大企業は「資産をチェーンに乗せてよいのか」が判断できません。実際にソフトバンクのような大手が投資チームを組成し、資産をチェーン上に乗せる動きも出てきている。
これは機関投資家のコミットメントのあらわれであり、日本自体へのグローバルな投資を呼び込んでいます。規制が厳しすぎるという声もありますが、私はむしろ、成熟してきた業界に大企業を惹きつける要因だと捉えています。
難しさは、分野横断の学びが絶えず求められることです。コンピュータサイエンスや数学だけでなく暗号理論もかかわり、論文にはみたこともない用語が並ぶ。しかもそれが本物か、短期的な利益狙いかを見分けなければならない。その分、自分の分析が2〜3年のうちに現実になるのを目にした時の手応えは大きい。そこに仕事の面白さがあります。
──企業や投資家は、CGVが配信するレポートのような専門データをどう活用すべきでしょうか?
Mao:レポートは「ナビゲーター」や「技術の設計図」として使ってほしい。本当に価値のある技術と、参入障壁の低い技術とを見分けるための材料であって、単純な売買ガイドではありません。私はTVL(預かり資産総額)のような表層的な指標だけをみるのでなく、ユーザーがそのクリプトを使う需要が実際に生まれているのか、プロダクト・マーケット・フィットがあるのかを問うようにしています。判断は各自で、というスタンスです。

──TradFi(伝統的金融)のプレイヤーが相次いでWeb3.0業界へ参入しています。現在のトレンドをどのようにみていますか?
Mao:少なくとも日本では、クリプトは実験段階から産業化の段階へ移りつつあります。大手銀行や企業が、資産のオンチェーン化や国債などのトークン化に本格的に取り組み始めました。インターネットが登場した当初、人々はそれをチャットやゲームの道具だとみていましたが、銀行が取引をオンラインに移した瞬間に真価が理解されました。今のクリプトとブロックチェーンも、それと同じ局面にあると思います。
もっとも、金融のすべてが置き換わるとは考えていません。ただ、私が最も重要だとみているのは「マシン・トゥ・マシン経済」です。AIエージェントは人間のようなアイデンティティを持たない。だからこそ、その決済にはクリプトを使うのが理にかなっています。
──投資の観点で特に注目すべきセクターは?あわせて研究職として実現したいことも教えてください。
Mao:私が最も注目しているのはDePIN(分散型物理インフラネットワーク)です。いわば「計算能力版のAirbnb」。AIチップは需要が逼迫していますが、家庭には使われず眠っている計算資源が大量にあります。
それを必要な人に貸出し、対価として報酬を得る──「参加と報酬」というクリプト本来の理念に非常によく合致しています。次いで実世界資産のトークン化(RWA)、そして自律型エージェント経済。これらは今後5〜10年のスパンで広がっていくでしょう。
私自身の目標は、バックエンドのコーダーから「戦略家」へと軸足を移すことです。エージェントに指示を与え、その結果を検証し、トレンドを見極めて新技術を学ぶ──リサーチのこの部分にこそ、これから力を注いでいきたいです。
最後に1つだけ。私たちのレポートは学習のためのリソースであって、盲信はしないでください。私もAIも誤りは犯します。データが指し示すのは、その技術に本当の市場ニーズがあるかどうか。そこを自分の頭で読み解いていただきたいのです。


◉毛 舜奇|Mao Shunqi
CGV FoF リサーチャー
ニューヨーク大学で学士号、コーネル大学で修士号(ともにコンピュータサイエンス専攻)を取得。投資運用会社のシニアエンジニアを経て現職。オンチェーン/オフチェーンのデータ分析を軸に、AIとWeb3.0が交わる領域を研究している。
撮影協力◉WeWork 日比谷FORT TOWER