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元Microsoft AIエンジニアのギーモ・セバスチャンが語る「AI×ブロックチェーンの未来」

2023/09/28Iolite 編集部
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元Microsoft AIエンジニアのギーモ・セバスチャンが語る「AI×ブロックチェーンの未来」

AIとブロックチェーンが活用される領域とは?

ChatGPTの登場によりAIが生活に溶け込みつつある。一方、ブロックチェーンも成熟度が増し活用事例が増えてきた。では、次世代技術である両者を掛け合わせたらどのようなことが実現できるのだろうか?

今回、Microsoft本社でAIエンジニアとして活躍し、ブロックチェーン領域で起業したセバスチャン氏に両領域の課題や展望、そして「AI×ブロックチェーン」の可能性について話をうかがった。

——現在に至るまでの経歴を教えてください。

セバスチャン:大学でAIを学び、卒業してからMicrosoftのAIチームに入りました。その後、2017年頃にブロックチェーンが流行り始め、そこで何が行われているのだろうと興味を抱いたのが現在に至るまでのきっかけです。

ブロックチェーンは以前と状況を比べると非常に成熟した分野になってきたと感じています。今では暗号についての論文も書かれ研究が行われるなど、成熟度が増してきています。

私は学生の頃、数論を学んでいました。その延長線で暗号領域にも興味があったので、それで少しずつブロックチェーン領域に足を踏み入れていった形です。結果的に2017年にブロックチェーン関連の会社に転職して、その兼ね合いで日本に来ました。

私は当時、ブロックチェーンの根本的なインフラに関する業務に携わっていました。ブロックチェーンに関する先端技術の論文などを読んで実際に開発したり、あたらしいソリューションを設計したりしていましたね。

そもそも、当時はブロックチェーンに限らずさまざまなスタートアップがありましたが、立ち上がってはすぐに潰れてしまうという状況でした。ですので、スタートアップに入っても意味がないなんて考えていた時期もあります。

しかし、実際にブロックチェーン領域に入ってみるとイメージが変わりました。当時のスタートアップとは違い、しっかりと研究や開発をしていたんですね。仮に失敗したとしても、その成果は論文として残せる。そのため、参加する価値があるんじゃないかと感じました。

行政業務のChatGPT活用で効率化の意見も疑問符が付く
AIが発展するにはP2Pネットワークでの分散化が必須

――セバスチャンさんが考えるAIの活用が急速に発展しそうな領域・分野を教えてください。

セバスチャン:ご存知の通り、現時点でChatGPTが流行っていますが、大きな課題としてプライバシーに関する問題があります。実際、イタリアなどではプライバシーの問題で禁止になりました。

日本では行政に関する一部業務をChatGPTでやれば効率化を図れると政府や政治家が説明していますが、果たしてそれが必ずしも良いことなのかというと疑問符が付きます。ChatGPTを利用するということは、つまり開発企業のOpneAIにデータを渡すということですから。

現在は具体的なユースケースについて話が出てきている段階ですので、次のステップとしてはプライバシーを守りながら活用できるAIのP2Pネットワークを構築することだと考えています。

▶P2P
「Peer-to-Peer」の略称で、サーバを介するのではなくネットワークを通じて端末同士が直接通信する通信方式。P2Pを活用している代表例としてはビットコイン(BTC)があげられる。匿名性が高くプライバシー保護でもメリットがある。

――AIのP2Pネットワークを構築した際にはどのようなユースケースが考えられるでしょうか?

セバスチャン:たとえば日本政府がデータ分析を行う際、すべてのデータが一箇所に集まっているわけではないのでさまざまなところにアクセスする必要が出てきます。しかし点在するデータを収集するのは容易ではなく、時間もかかります。

そこで、もしAI間でやり取りをして分析が行えれば、業務の効率化も図れるだけでなくプライバシーの保護もP2Pですので比較的担保されます。こうしたユースケースでAIのP2Pネットワークは需要が増してくるはずです。

また、ゲーム領域でも需要があると思います。とある論文で、ゲームの世界の村にいるキャラ一人一人にAIが搭載されていて、それが話し相手になってくれたらどうなるかということが書かれていたのですが、これがまた興味深いものでした。

しかし、もしこの論文通りにゲームを作るとしても、1つの会社がサーバの準備・管理をするには莫大なコストがかかります。ですので、こうしたゲームを実現するには1つの会社がサーバを管理するのではなく、分散化されたP2Pネットワークを活用して、それぞれがAIを管理するような体制を整えてコスト削減を行うことが必要だと思います。

私は現在、Web3.0ゲームエンジンに特化した「パイマ・スタジオ(Paima Studio)」というプロジェクトを自分の会社で手がけているのですが、ここでもこうした分散化というのは1つのテーマになっています。また、AIの分散化に注力して開発している「シンカイネットワーク(Shinkai Network)」も同様ですね。

いずれにせよ、プライバシーに焦点を当てた分散化が需要を作り出すと考えています。

AI×ブロックチェーンで価値を最大化することができる領域は“ゲーム”

――ブロックチェーン技術の活用が急速に発展しそうな領域、分野を教えてください。

セバスチャン:まずはゲーム領域ですね。すでにレイヤー2ソリューションがいくつかありますが、今までのレイヤー2というのはDeFiなど金融に特化したものが多かった。しかし、この技術をよりゲームに特化させて活用できるのではないかと考えています。

▶レイヤー2
メインとなるブロックチェーン(レイヤー1)とは別に、オフチェーンで処理を行う機能。これにより取引処理速度が改善され、手数料の軽減にもつながる。

――具体的にはどういう部分で活用できますか?

セバスチャン:技術的な話になりますが、ソブリン・ロールアップ(Sovereign Rollups)という技術で活用できます。そもそも、レイヤー2というスケーラビリティソリューションには「ロールアップ」という技術があり、これには3つの種類があります。

3つの種類というのは、ZKロールアップ(ZK Rollups)、オプティミスティック・ロールアップ(Optimistic Rollups)、そしてソブリン・ロールアップです。

まずZKロールアップはゼロ知識証明を活用したもので、入力をオフチェーンにしてブロックチェーンに書き込まないようにします。これはプライバシーを守るためのもので、いわば計算に特化したロールアップです。

次にオプティミスティック・ロールアップはオンチェーンでの入力になります。フロード・プルーフ(Fraud Proof)という証明方法で、ZKロールアップが計算だけでこの証明が正しく行われたことを証明するのに対し、オプティミスティック・ロールアップでは取引が行われた後に問題を指摘する形となります。これによりすべての取引を検証して記録する必要がなくなるため、効率良く計算することが可能です。

最後にソブリン・ロールアップは、入力こそオンチェーンだけれども、関数の定義や出力はオフチェーンで行われます。たとえば、ゲームのキャラクターの動きをオンチェーンに書き込み、みんながオフチェーンのローカル環境で動きを再生しているとします。

その時、オンチェーンで入力した動きをオフチェーンで出力することができるということです。この仕組みとNFTを活用することで、より現実世界での行動に紐付いたゲームが作れると考えていて、現在注力しています。たとえば、ゲームをプレイすることで自分の所有しているNFTが進化していったら面白いと思います。

――実際にゲームを作るとなればUIと中身となるシステムを開発していくと思いますが、セバスチャンさんの考えですと根幹となるシステムの部分をオンチェーン、そしてユーザーが触れるUIをオフチェーンで構築するということでしょうか?

セバスチャン:そうです。どういうことか、UNOというカードゲームで説明しましょう。UNOにも当然基本的なルールがありますが、国や地域によってはオリジナルルールがあったりしますよね。今回はこのカードやルールたちをオフチェーンで出力・動作するものとして考えます。

この情報を今度はオンチェーン上で「私はこういうルールでやっています」とか、「いやいや、こっちの方が面白いよ」といった形で書き込み、意見交換できるようにする。こうすることで開発者もユーザーの意見を汲み取りやすくなるし、ユーザーも一緒に理想とするゲームを作ることができます。

アプリなどを通じて意見交換ができてそれを反映できるシステムがあれば、ゲームの価値を向上させることにもつながりますし、これからのゲーム制作ではこうしたユーザーの声を反映しやすい環境作りが重要になると思います。

――「AI×ブロックチェーン」で生み出される価値とはどのようなもので、実際の活用方法としてはどのようなことが考えられますか?

セバスチャン:今のところ、ブロックチェーンゲームを開発する人のなかで、AIを取り入れたら可能性が広がると考え導入を検討する人自体は多いと思います。しかし、せっかくブロックチェーンを使っているのであれば分散化させたいと考える人も多く、これが大きな障壁になります。

実際問題、ChatGPTを導入したら分散型とはいえなくなってしまいますからね。仮にChatGPTをゲームに導入する動きが強まると、開発企業のOpenAIに頼る必要が出てきてしまうため、それは望ましい状況ではありません。

OpenAIのアップデート次第ではゲームそのものにバグが多発する可能性もあります。ですので、現在のAI需要も踏まえれば今後どうやって分散型AIをブロックチェーンゲームにつなげるかというのが課題だと考えています。

少し私の話をすると、パイマ・スタジオではこうした課題を対処すべく「パイマ・エンジン(Paima Engine)」というものを開発しました。これは分散型に焦点を当てつつ、開発者にとって馴染みあるWeb2.0領域で活用されてきたプログラミング技術があれば、誰でもAIを活用してWeb3.0ゲームを作成できるというものです。

具体的に説明すると、たとえば友人とチャットルームを作ったとしましょう。その際、まだ何も手を付けていないNFTも保有します。その後、チャット内で「森のなかで動きやすい格好」のようにプロンプトを作成します。するとAIによって服が生成され、NFTが更新されます。

つまり、先ほど説明したAIを活用して自分の考えや動きによってNFTを進化させることをパイマ・エンジンは可能にします。実際にさまざまな会社にパイマ・エンジンを紹介して、興味を持ってくれた人も多かったです。

しかし、ここまでAIを組み込めるのであれば、すべてをAIに任せたいという要望も多かったです。どういうことかというと、ゲームの村やそこにいるキャラすべてにAIを搭載して、そこでの行動等をAIで動作させたい、といったことです。

技術的に不可能ではないですが、ブロックチェーンへの書き込みに伴い莫大なコストがかかるほか、冒頭でも説明した通りサーバの管理費もかさみます。その結果、収益が出なくなってしまいますのでこれでは本末転倒です。

このケースでいえば、フィールドとなる村までをAI化し、一部をオフチェーン化してP2Pネットワークでそのほかのものを作成し出力すればコストを抑えることが可能です。オフチェーン化する部分では村のキャラがあげられます。

ユーザーに手付かずの初期NFTを購入してもらい、プロンプトを入力してキャラを作成してもらいます。このキャラが増えていくと、今度はやり取りをP2Pネットワーク上のAIで行います。

たとえば、私が村のお店で買い物をしたいとします。その際に「誰かお店にいますか?」のようなやり取りをオフチェーンのP2Pネットワークで行い、自身の行動を確定させたらブロックチェーンのオンチェーンにその内容を書き込みます。

そうすると、ブロックチェーンに書き込まれている情報は行動内容のみになりますので、データ容量を小さく、コストを抑えることができます。しかも、分散化されたAIを活用しているので、ブロックチェーンゲームの要所である分散型という部分も守れます。

次世代技術で自律分散型の世界観を創っていく—

――今後、自身の事業を通して世の中をどのように変えたいですか?

セバスチャン:パイマ・スタジオを通じて自律分散型の世界観を作ることができればと考えています。約2年前にメタバースというキーワードが話題なりましたよね。次世代の世界を実現するということで多くの資金調達事例もありますが、結局ほとんどが潰れてしまいました。

その理由は、今の技術では分散化されたメタバースを生み出すことが難しいからです。Metaがメタバースを構築していますが、結局これも中央集権的ですよね。現在の進捗なども踏まえると今後さらに分散型メタバースが必要になってくるのではないかと思います。

パイマ・スタジオでも将来的にはこのような分散型の世界を創っていきたいと考えています。約1年前にパイマ・エンジンを開発してゲームをリリースしてきましたが、徐々にそのフェーズへと移行しようとしています。

こうした将来を見据え、現在は「オンチェーンRPG」の制作に注力しています。NFT化されたモンスターを捕まえて遊ぶゲームです。このゲームで村やクエストを作成する要素を取り入れ、それぞれが「世界」を創り出せるようになる予定です。

また、AIを活用してエコシステムが崩壊しないPlay to Earnも実現したいですね。課題も多いですが、どうしたらユーザーがゲームの世界で楽しめて、なおかつ貢献しながら収入を得られるようになるのかしっかり設計していきたいです。


Profile

ギーモ・セバスチャン(Sebastien Guillemot)
dcSparkの共同創業者兼CTOにしてPaimaStudiosの共同創業者。dcSparkは世界有数の暗号エコシステム構築企業として、FlintウォレットやMilkomedaなど、グローバルなブロックチェーンエコシステムのための新規プロジェクトを多数開発。PaimaStudiosは2022年4月に設立し、トラストレスなWeb3.0の実現に向け、業界の最前線に位置するリーディングカンパニー。Webプリミティブの構築に注力し、あたらしい標準となることが期待されているPaimaEngineのパイオニア的存在となっている。


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