2024年1月から始まる「新NISA」。非課税保有期間の無期限化、投資可能期間の恒久化など、長期的な運用がさらにできるのが大きな特徴だ。
従来のつみたてNISA、一般NISAが「つみたて投資枠」「成長投資枠」になり、年間投資可能額・生涯投資上限額が大きく引き上げられた。一見すると利便性が向上した格好だが注意点はないのだろうか。ここでは2人のマネーライターに新NISAについて語ってもらった。
現行NISAと新NISAの違いを比較
――今回はNISAに精通している2人のマネーライターに集まっていただきました。さっそくですが、2024年から始まる新NISAに対する評価からお聞かせください。
A氏:本日はよろしくお願いします。現行NISAは2023年末をもって新規投資可能期間が終了し、2024年から新NISAが始まります。両者の大きな違いですが、新NISAは制度が恒久化、非課税期間も無期限になったことです。時限的な措置でなくなるので、制度終了を気にすることなく個人のタイミングで始められます。
B氏:年間投資上限額や非課税限度額が大幅に引き上げられたことも、私は評価しています。
成長枠投資(現行の一般NISAに相当)は年間240万円、つみたて投資枠(現行のつみたてNISAに相当)は年間120万円になり、保有限度額は1,800万円。成長投資枠は1,200万円までしか使えませんが、非課税投資がかなりしやすくなった印象です。
▶つみたて投資枠
成長投資枠現行制度の「つみたてNISA」を引き継ぐ枠のこと。販売手数料ゼロ、信託報酬が一定水準以下など、要件を満たした投資信託を年間120万円、トータルで1,800万円まで投資できる。
▶成長投資枠
現行の「一般NISA」を引き継ぐ存在で、上場株式・投資信託などが対象。年間240万円、トータルで1,200万円まで投資できる。年間の投資上限は一括・分割のどちらも使って構わない。
A氏:現行制度では一般NISAとつみたてNISAを併用できませんが、新NISAでは可能になるのもポイントです。
B氏:そこで気になるのが、投資信託の使い分けです。つみたて投資枠では現行のつみたてNISAと同じく長期の積立分散投資に適した投資信託が対象になっていますが、成長投資枠でも上場株式に加えて投資信託も含まれています。少しややこしい気がしますね。
A氏:つみたて投資枠は長期の積立分散投資を目的としているので、対象商品は金融庁が認める一定の投資信託に限られます。他方、成長投資枠ではそれ以外の投資信託を扱い、最終的に2,000本程度になる予定です。
スタートに間に合わせるべく新ファンドの設定も相次いでいますが、実績がないので選ぶ際には注意することです。すぐ飛びつかず実績や値動きを確かめてからでも遅くありません。
B氏:ふたつの投資枠を併用できるのは便利なようで、どうやって使いわければ良いのでしょうか。
A氏:たとえば、つみたて投資枠ではローリスクなインデックスファンドを長期的に積み立て、成長枠投資ではアクティブファンドでリターンを狙う、あるいは高配当銘柄を保有して配当を受け取るといった使いわけができます。
ですから、それぞれの枠でどいった投資をしたいのか、方針や目標を明確にした上で商品選択することが求められます。ちなみに、ふたつの投資枠を別々の金融機関で利用することはできません。ひとつの金融機関で利用するのが決まりですが、年単位で変更することはできます。
生涯非課税限度額は金融商品を売却した翌年にリセットされる
B氏:引き上げられたとはいえ、年間の投資上限は設けられています。この点も気にしながら投資した方がよさそうですね。
A氏:そうそう。この点では注意が必要です。現行NISAでは金融商品を売却しても投資枠は復活しません。たとえば一般NISAで50万円分の個別株を買ったとしたら、その年の非課税投資枠は残り70万円。その後、保有株式を売っても120万円に戻らず、残りは70万円のままです。
ところが新NISAの生涯非課税限度額は、金融商品を売却すると翌年に復活する仕組みになりました。これにより、今よりもっと積極的に投資資産を売買できるのです。
B氏:なるほど。そうなんですね。現状は投資枠が復活しないので売買に慎重になっていましたが、新NISAだと少し気が楽になりそうです。
A氏:あと注意すべき点は、つみたて投資枠と成長投資枠の資産配分です。個別株のみ投資したい、つみたて投資枠のラインナップ以外の投資信託を購入したいなら、成長投資枠を目いっぱい使うしかありません。
成長投資枠とつみたて投資枠の両方を使いたいなら、まずは非課税保有限度額が大きいつみたて投資枠で投資信託の積立投資を行い、年間投資枠120万円を超える分は成長投資枠で投資するのが基本だと思います。
ただし、もっと個別株に投資したいなら成長投資枠をより活用するなど、自分のニーズによりアレンジすると良いでしょう。
B氏:つまり、生涯投資上限額の1,800万円すべてをつみたて投資枠に使うこともできますし、そのうち1,200万円までは成長投資枠で個別株やつみたて投資枠で扱っていない投資信託に投じる。自由度は非常に高いですが、その分しっかり計画を立てないといけない気もします。
A氏:その通り。途中で金融商品を変えたり、年によって投資配分を変更しても構いませんが、その前にしっかりとプランを練る必要があります。より戦略性が求められるようになったと私は考えています。
新NISAを始めるにはどうすれば良い?
――制度の変更内容は図表もみていただくとして、新NISAを始めるにはどうすれば良いのでしょう。BさんはすでにNISA口座を持っていますが、あらたに新NISA用の口座を開設する必要があるとか?
B氏:確かに。何か手続きをしないといけないのでしょうか。
A氏:現行NISA口座をすでに開設しているなら、2024年になると新NISA口座が同じ証券会社で自動的に開設されます。あらたに手続きをする必要はありません。
B氏:なら、よかったです。
A氏:ちなみにBさんはつみたてNISAをしているそうですが、年間投資上限枠ギリギリまで投資をしていますか?
B氏:いいえ。私は月2万円ですから年間24万円。16万円分残っています。
A氏:非課税制度を最大限に活用するなら、現行制度もうまく使わないといけません。今年12月末で現行NISAの買付はできなくなりますが、それまでに投資した分は制度終了まで運用されます。どうせなら残りの月は積立額を増額し、トータルの運用額を増やしておくことです。
B氏:なるほど。現行NISAと新NISAは別物で、現在運用中の金融商品が移管されるわけでもない。別々だからこそ、両方の口座を持っておくことでトータルの運用額が増えるのですね。
A氏:現行NISAで保有している商品を売却する必要はなく、購入時からつみたてNISAは20年間、一般NISAは5年間、そのまま非課税で保有でき、その間に売却もできます。ただし、非課税機関修了後、新NISAに移管(ロールオーバー)することはできないので注意してください。
新NISAは勉強しないと勝ち組と負け組が大きくわかれる
――新NISAではさまざまな金融商品にアクセスできます。
B氏:正直、金融商品を選ぶのは大変そうです。
A氏:応援したい、株主優待や配当が欲しいなら個別株を持つことになります。NISA制度自体が長期投資を前提としているので、それこそ長い時間をかけて成長しそうな銘柄、安定して配当を出す銘柄が候補にあがると思います。
前者なら割安株、後者ならプライム市場上場銘柄などでしょうか。日本株だけではなく米国株も買えるので、海外投資にチャレンジするのもありです。ただし、証券会社によって取り扱う外国株の銘柄数は異なるので、まだ口座を持っていない方は事前にチェックしましょう。
B氏:米国株は配当性向が高いので、インカムゲイン重視なら良い選択肢かもしれません。一方、問題は投資信託やETFです。
A氏:先述しましたが、つみたて投資枠が取り扱うのは一定の要件を満たした投資信託のみ。基本的には市場平均と連動した投資成果を目指すインデックスファンドを購入することになるでしょう。
片や成長投資枠では「整理銘柄や監理銘柄」「信託期間20年未満の投資信託等」「毎月分配型の投資信託等」「デリバティブ取引を用いた一定の投資信託等」といった条件に当てはまる商品を除外したものを購入することができます。
東南アジアの成長に期待する「DIAMベトナム株式ファンド」、AI関連銘柄に投資する「AI(人工知能)活用型世界株ファンド」、公募投信で初の「グローバルサウス」を投資対象とする「EXE-Iグローバルサウス株式ファンド」、東証が要請しているPBR1倍割れの改善がテーマの「日本企業PBR向上ファンド」など、成長投資枠にはさまざまな目的・ニーズに対応した投資信託が用意されています。
あまりにも数が多いので選ぶのが大変なのは事実ですが、エリアや産業など投資対象を見極めた上で商品を絞りこんでいくと、お目当ての投資信託がみつかるでしょう。
B氏:現行のつみたてNISAでは、「世界の株式に投資したい」「バランス型でリスクヘッジしながら運用しよう」など、それほど深い知識がなくても商品を選ぶことができました。対して新NISAでは、自分自身でそれなりに勉強しないと、ニーズにあったものにたどり着きにくいわけですね。
加えて、非課税保有期間が無期限になったからこそ、売却の判断も難しくなるような気がしています。
A氏:現行の場合、一般NISAは5年、つみたてNISAは20年以内に売却する必要があったからこそ、タイミングを意識することができました。
ところが新NISAは制限がないからこそ、自己判断が求められます。ただし、売却すると枠の再利用が可能なので、「ここまで値上がりしたら利益確定する」などルールを決めると良いかもしれません。
B氏:現行NISAに比べて自由度が高まったからこそ、自己責任も求められるようになるわけですね。
A氏:基本中の基本ですが、現行NISAと同じく新NISAも元本割れのリスクは伴います。そう考えると、個別株でも投資信託でも商品選びは慎重になるべきであり、証券会社や投資情報サイトのランキングなどを鵜呑みにすべきではありません。
情報収集・分析を怠ってはいけません。極端な話、現行NISAはほったらかしでもよかったかもしれませんが、新NISAは勉強しないと勝ち組と負け組が大きくわかれます。
B氏:今日の話を肝に銘じてトライしようと思います。ちなみに、先ほど証券会社によって外国株の取り扱い本数が違うとお話しいただきましたが、ほかにも異なる点はありますか。
A氏:基本的にネット証券は品揃えが良いとされますが、各社によって投資信託の取り扱い本数やコストも変わります。投資信託中心で運用したいなら本数が充実している方が良いですし、クレカ投資はできるか、どういったポイントが貯められるかなども、重要な点だと思います。口座開設前なら比較検討することです。
B氏:ありがとうございました。本日のお話で、新NISAのメリット・デメリットが明確になりました。その上でうまく活用し、非課税という最大の恩恵を受けたいと思います。
新NISA人気銘柄の秘密
大手ネット証券5社のメリット・デメリット
▶▶SBI証券
現行つみたてNISAの取り扱い本数が最多。新NISAでも同様のことが考えられ、幅広い銘柄から選ぶならお勧め。クレカ積立の還元率は高くない。
▶▶楽天証券
楽天ポイントを使った投資ができる。楽天カードを保有している、楽天市場をよく使うなど楽天ユーザーにお勧め。そうでないなら他社で構わない。
▶▶マネックス証券
マネックスカードを使ったクレカ積立のポイント還元率は1.1%と高水準。一方、現行つみたてNISAの取り扱い銘柄が他社に比べると少ない。
▶▶auカブコム証券
au PAYカードを使ったクレカ積立のポイント還元率は1%。Pontaポイントユーザーにお勧め。米国株の取り扱い銘柄数は少なめ。
▶▶松井証券
新NISAで日本株・米国株・投資信託の売買手数料が無料。投資信託の残高に対して年間最大1%のポイントも付与。クレカ積立には未対応。
新NISAの注意点まとめ
Profile
◉A氏
40代男性。元経済誌の編集者で現在はフリーのマネーライターとして活動。経済・市況分析や金融商品の解説などを得意とする。NISA関連の記事も多数執筆している。
◉B氏
30代男性。マネー関連のフリーライター。自身も個人投資家として個別株や投資信託などを取引している。現行NISAも口座を開設しつみたてNISAを行っている。
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