金融・経済

注目の経済アナリスト・馬渕磨理子 銘柄選定のポイントや今後の経済予測を語る

2023/11/29Iolite 編集部
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注目の経済アナリスト・馬渕磨理子 銘柄選定のポイントや今後の経済予測を語る

メディアで大人気の経済アナリストに、投資初心者がステップアップするためのヒントを聞く。

——投資に興味を持っていても、実際に始めるとなるとハードルが高く、難しいもののように感じてしまいます。そこでまずは、投資初心者から徐々にステップアップしていく方法について教えてください。

馬渕:最初にお伝えしたいのは、「NISAで毎月コツコツとインデックス投資をしている」だけでも立派な投資家ですよ、ということですね。世の中には、個別株・債権・FX・暗号資産など、多くの投資対象があるので、そういったものに投資をしないと「自分は本当の投資家じゃない」と思ってしまう初心者の方が、実は多いんです。

——たしかに「個別株に投資して短期間で資産を何倍にも増やした」というような話も多いので、コツコツと投資するだけではダメなのではないか、と思ってしまいがちです。

馬渕:まったくそんなことはありません。あれもこれも買わなくては、という思考で深く考えずに投資するのは、とてもハイリスクな行為です。まずは少額からでも、堅実に投資を始めて、知識が深まり資産が増えてきたらほかの選択肢を考えるという風にステップアップすればいいんです。

NISAで毎月コツコツと投資をしているだけでも、
もう立派な投資家です。

——最初にあげていたNISAやインデックスは、初心者向けの投資対象としてよく知られていますが、やはりおすすめできるものですか?

馬渕:NISAを使えば投資で得た利益が非課税になりますし、インデックスは比較的低リスクなので、初心者の投資対象として、一定の解であることは間違いありません。最初からハイリスクな投資をして負けてしまい、ネガティブな印象を持って投資行動から離れてしまう方は非常に多いんです。

まずは着実に資産が増えているという成功体験を持つこと、長期的な視点で資産形成ができるという実感を持つことが重要なので、その点でインデックス投資はおすすめといえます。また、インデックスはさまざまな企業に分散投資することにもなります。

投資対象を分散させることは投資の基本なので、その点でも初心者の方におすすめできますね。

——なるほど。一方で、正直にいうと「コツコツとインデックスファンドを買うだけでは面白くない」と感じてしまいます。インデックス以外に投資をする際の注意点はありますか?

馬渕:ほかの金融商品に投資をする場合でも、やはり分散投資を意識しましょう。たとえば、富裕層のポートフォリオは6割から8割がインデックスを含めた株や現金、債権などの低リスク資産で構成されていて、オルタナティブと呼ばれるゴールドや暗号資産などは10%程度に過ぎません。

どの程度ハイリスクな金融商品に投資をするのかは人それぞれではありますが、目安としてこのような割合が基本であることは理解しておきましょう。

——インデックスのなかにも、米国株の代表的な指数である「S&P500」や「ダウ平均」、さらに全世界株・日本株・新興国株など多くの種類があります。コツコツと資産をつみたてるという観点で、おすすめできるものはありますか?

馬渕:今は全世界株が比較的おすすめしやすいですね。全世界株のなかには「S&P500」を構成する銘柄も入っているので、信頼度の高い米国経済にも投資していることになりますし、より投資対象が分散されるのでリスクヘッジにもなります。

——では、次の段階として個別株への投資を考える時に注目すべきポイントは?

馬渕:個別株の投資においてはやはり配当が気になる方が多いと思いますが、長年にわたって連続的に配当を出しているかどうか、が重要です。

株式投資サイトなどをみると「配当ランキング」のようなものが載っていますが、直近だけではなく長期的な実績をチェックするようにしましょう。直近2年間は高配当だけれども、それ以前は無配というような企業は要注意です。

「値上げできている企業」は
個別株のなかでも注目!その真意は?

——個別株のなかで最近注目しているものはありますか?

馬渕:特定の分野というわけではありませんが、「値上げできている企業」は注目です。かつては値上げをすると消費者が離れて業績が悪くなり、株価も下がるといわれていましたが、今年からは以前とは違う状況になっています。

実は値上げができるのは、値上げをしても消費者が離れない、競争力がある企業なんです。そして健全に値上げをした企業は、徐々に従業員に利益を還元していくので、良い人材を集められます。そうなると、値上げできていない企業と比べて、数年後の成長度合いに大きな違いがでますよね。

実際、すでに市場では、値上げができている企業の株式が高く評価されています。

——値上げは消費者目線では悪いことのように思えますが、投資家視点ではポジティブに捉えられるんですね。ちなみに、個別株としては米国株も人気がありますよね。

馬渕:日本株は100株単位でしか取引できないので、1社に投資するだけでも数十万、数百万円が必要になりますが、米国株は1株単位から購入できるので、少ない資金でも投資できて分散もしやすい点が魅力です。特に人気があるのは、コカ・コーラやP&Gなど、長期間にわたって配当が出ている企業ですね。

ただし、国内企業よりも投資判断をするための情報を集めるのが難しいので、初心者は情報が得やすい有名な大企業に絞って投資する方が良いでしょう。いずれにしても、自分が投資する対象の事はしっかりと学んで納得した上で購入するのが鉄則です。

投資について何から勉強すればいい?

——「学び」というキーワードが出ましたが、投資について調べていると、企業の業績、国の経済状況、金利、為替など、あまりにも知るべき情報が多すぎて、一体何から勉強すればいいのかわからないと感じてしまいます。投資について学んでいこうと考えた時に、何から勉強すればいいでしょうか?

馬渕:まずは日経平均株価やダウ平均などの株価指数に着目するのが良いと思います。たとえば、なぜ日経平均が上がったのか、下がったのかという疑問を持って調べていくと、徐々に経済の仕組みがわかっていくはずです。

——最近だと、2023年前半は日経平均株価が26,000円から33,000円まで上昇し、後半に入って一時30,000円程度まで落ちるといった動きがありました。このような動きは、どのような要因で起きたのでしょうか?

馬渕:大前提として、日本経済は米国経済と紐付いているので、その影響を強く受けます。

ダウなどの米国の指数が上がっている時は日経平均も上がり、直近では米国の指数が下がった動きにつられて日経平均も下がりました。しかし、今年前半に関しては、ダウが下がっているのに日経平均が上がるという時期もありました。

——それはなぜですか?

馬渕:米国の金利が高くて企業が苦しくなっていくであろうという状況で、日本は金融緩和を続けているという違いが影響したと考えられます。それに加えて、日本独自の動きとして、PBR(株価純資産倍率)が低迷している上場企業に対して、東証が改善するように要請したんです。

簡単にいえば「もっと成長投資や人的資本への投資、研究開発などにお金を使いなさい」ということですね。これを受けて、自社株買いなどの動きが増えたことで日本企業への期待が高まり日経平均も上がった、というのが今年前半の流れになります。

しかし、このような日本企業の動きが今後も続くのか、数年単位での成長につながるのか、といった点は未知数なので、一旦勢いが止まってしまったんです。そのタイミングで米国株が下落したことを受けて、日経平均もやや落ち込んだというのが直近の値動きです。

——米国株はなぜ下がったんですか?

馬渕:7月に米国の政策金利の上限が5.5%まで引き上げられました。最近の経済状況を踏まえて、今後も金利が上がるだろうと想定すると、株式よりも債権への投資の方が利回りがよくなると考えられます。なので投資家たちが資金を株から債券に移動して、株の価格が下がる。

このような大きな資金の動きを「資金シフト」といいます。投資の世界には資金シフトという概念があるということを理解すると、大きな流れがみえてくるんです。また、金利は為替にも影響しています。金利が上がると米ドルが人気になるので、必然的に円は売られて円安になります。

ただし、一連の値動きは実際にはさまざまな要因によって引き起こされています。この説明は非常に簡略化したものであるという点は覚えておいてくださいね。

いつ投資を始めるべきか?

——日経平均に着目することで、そこに影響を与える別の要素についても少しずつ理解していけるということがわかりました。では、次に「いつ投資を始めるべきなのか」という点について聞かせてください。最近では「インフレが加速して米国経済が崩壊する」というような話を聞くので、今始めるべきではないのではないか、とも感じます。

馬渕:今から始めたとしても、まったく問題ありません。過去何度も米国経済はクラッシュしてきましたが、S&P500は高値を更新し続けています。直近では、コロナショックの時に米国を始めとした世界中の株価が暴落しましたが、すぐに回復して今ではコロナ以前の最高値を更新しています。

インデックス投資は、いわば「世界全体の成長」に投資しているものなので、長期でコツコツと投資するというつもりなら、思い立ったその日に始めていいんです。ただし、企業への個別投資の場合は、成長している根拠やストーリーが崩れて赤字になったら、損切りを考えないといけません。

「損切り」が苦手だから、そんな自分に合う「損切りしないで済む投資手法」を身につけた。

——投資をしている人からは「損切りが苦手」という意見をよく聞きます。馬渕さんの「損切りの流儀」はありますか?

馬渕:実は、私は本当に損切りが苦手なんです。過去に2年半ほどプロのトレーダーとして働いていたことがあるのですが、損切りが下手で何度も痛い目にあっています。損切りができずに傷口を広げては、「なんであの時決断しなかったんだろう」と必要以上に自問自答を繰り返して苦しんだり(笑)。

——馬渕さんでもそんな頃があったんですね。

馬渕:そういう経験があるので、私は「損切りの回数をいかに減らすか」という思考で投資するようになっています。その結果、損切りをする必要が生じないであろうインデックス投資がメインになったんです。

——損切りが性格的にあわないことを自覚した上で、損切りしないで済む投資手法を選んでいると。投資を通じて、自分にあう考え方、やり方というのが身についたんですね。

馬渕:投資を通じて自分の向き不向きを理解したことが、投資以外の仕事などにも役立っているように感じます。それに、投資は自分の将来について真剣に考えるきっかけにもなるのが良いですよね。

たとえばNISAを始めると、20年後、30年後にどれくらいの資産を形成できるのかといったシミュレーションをする機会が生まれます。60歳までに5,000万円貯めて悠々自適に暮らすのか、ひとまず2,000万円貯めて、残りは日々の生活を楽しむために使うのか。

そんな風に、人生設計を真面目に考える時間が生まれるのも、投資のメリットといえるかもしれませんね。

投資家としてステップアップするためのヒント

  1. まずはコツコツと低リスク資産に投資して、成功体験を積もう。「NISAでインデックス投資」は投資初心者の入り口として間違いなし。
  2. 富裕層のポートフォリオは、6~8割が低リスク資産。資産のすべてをハイリスクな金融商品に投じるような投資は避けよう。
  3. より深く投資や経済について学んでいきたい人は、日経平均株価やダウ平均などの指数に注目。なぜ価格が動いたのかを調べていくことで、投資リテラシーも向上する。

Book Review

『日本一忙しい経済アナリストが開発! 収入10倍アップ超速仕事術』

無理をせず、しっかり休みをとりながら、自身がやるべき仕事に集中した結果、収入10倍を実現した馬渕氏の選りすぐりの仕事術を紹介した一冊。タスクを厳選し「価値ある仕事」に時間をかけるためのコミュニケーション術やプレゼンテク、メンタルを学ぼう。

馬渕 磨理子 (著) PHP研究所 (2023/7/20)


Profile

馬渕 磨理子(Mariko Mabuchi)
京都大学公共政策大学院修了後、トレーダーとして法人の資産運用を担い、現在は経済アナリストとして活躍中。フジテレビ「LIVE NEWS α」(レギュラーコメンテーター)など数多くのメディアに出演している。経済アナリスト/一般社団法人『日本金融経済研究所』代表理事/FUNDINNOECFアナリスト/ハリウッド大学院大学・客員准教授/イー・ギャランティ社外取締役。

馬渕磨理子オフィシャルサイト
https://mabuchimariko.jp

馬渕磨理子の株式クラブ
https://www.youtube.com/@mabuchi-mariko




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