実現性はどれくらい?承認されるとしたらいつ?
2024年1月、ついに米国でビットコイン現物ETFが承認され、取引が開始された。暗号資産業界では、次はイーサリアム現物ETFの番であろうという期待感が高まっている。そこで、イーサリアム現物ETFの承認を巡る現状と課題をまとめてみよう。
現物ETFの承認により、ビットコインは伝統的金融商品と肩を並べる存在に
1月11日、暗号資産業界にとって長年の悲願であったビットコイン現物ETFが、米証券取引等監視委員会(SEC)に承認された。
ETF(Exchange Traded Funds)とは、証券取引所に上場されて取引される「上場投資信託」のことである。知っての通り、ビットコイ ンは暗号資産取引所で誰でも購入できる。にもかかわらず、なぜETFの承認が、それほど重要なのだろうか。
ETFは、株式を始め債権や金といったさまざまな金融商品への投資を可能にする巨大市場であり、そのラインナップにビットコインが加わることは、「信頼に足る金融商品として認められた」証左となるからだ。
これまで、暗号資産業界というある意味では狭い世界でだけ人気を集めていたビットコインが、株を始めとした伝統的金融商品と肩を並べることになるのだ。
また、ETFの承認と取引開始によって、証券取引所に口座を持つ世界中の投資家に対して、ビットコイン投資の門戸が開かれることになり、これまで以上に暗号資産業界に資金が流入するきっかけとなることが期待できるからだ。
ゆえに、暗号資産業界は長年にわたってビットコイン現物ETFの実現を目指してきたという経緯がある。
そしてビットコイン現物ETFの実現を受けて、次はビットコインに次ぐ時価総額を持つ、イーサリアム現物ETFの実現を求める声が広まっているのが現状である。
そこでイーサリアム現物ETFの現状について知るために、まずはどのようにビットコイン現物ETFが承認されるに至ったのかを振り返ってみよう。
▶︎2023年12月20日以降のBTC価格チャート(CoinMarketCapより引用)
年末年始にかけて現物ETFの承認・却下が行われるとの情報が錯綜したため、価格が乱高下した。
1月9日にはX(旧Twitter)のSEC公式アカウントがETF承認を発表するも、のちに誤報であると公表されるなど、暗号資産市場はこのトピックに大きく振り回されている。なお、正式にETFが承認された後は一時高騰したものの、その後は元の水準にもどっている。
米国における暗号資産ETFの承認
米国における暗号資産ETFの承認には、「証券性問題」が大きく関わっている。証券性問題とは、米国において「ある暗号資産が法的に(有価)証券にあたるか否か」、そして「証券法に基づいて規制・管理すべきか否か」を問う議論のことである。
ある暗号資産が証券であれば、それは(現状では)違法・脱法な金融商品と判断されてしまい、ETF上場の承認を得ることも難しくなる。「証券であるか否か」を判断する基準は、簡単にいえば「特定の組織が利益を期待させて投資家にその暗号資産を販売したか」である(実際にはもっと複雑だがここでは簡易的に解説するに留める)。
SECは長年にわたって、詐欺やマネーロンダリングなどへの利用が問題視されてきた暗号資産業界に厳しい目線を向けており、「大半の暗号資産は証券である、違法性がある」ともたびたびコメントしている。
そしてビットコイン現物ETFについても、最初の申請から7年間にわたって投資会社らの申請を何度も却下してきた。しかし、ビットコインはマイニングによってのみ新規発行され、投資家に運営企業から販売されることもない(ビットコインには運営母体は存在しない)ため、「証券である」と判断するためのロジックは成立しない。
実際、当のSECも、現物ETFの承認以前から複数回に渡って「ビットコインは証券ではない」とコメントしてきた。
加えて、すでに2021年にビットコイン先物ETF(ビットコインの先物取引価格に連動するETF)を承認しており、裁判などで「ビットコイン現物ETFと先物ETFは類似した金融商品であるにもかかわらず、先物を認めて現物を認めないというSECの判断は説明不足かつ恣意的である」と指摘されていた。
このような経緯から、SECはすでにビットコイ ン現物ETFを”認めないためのロジック”を失っており、ある意味ではビットコイン現物ETFの申請を”仕方なく”認めた形といえる。
では、イーサリアム現物ETFについては、SECはどのように判断するのかを考えてみよう。
イーサリアム現物ETF承認可否
最初のわかれ目は2024年5月
ビットコイン現物ETFの経緯からもわかる通り、まずは「イーサリアム(ETH)が証券か否か」という問題がある。
SECは「ビットコインは証券ではない」としつつ、「ビットコイン以外の大半の暗号資産は証券である」という姿勢を長年維持している。そのなかで、イーサリアムについては、ビットコイ ンほど明確に「証券ではない」とは言及していないが、そのほかの暗号資産のように明確に「証券である」とも指摘しない、というグレーな対応をとっている。
なぜなら、イーサリアムは当初資金調達のために発行・販売されたが、現在では十分に分権化・分散化されているため、特定の組織が利益を目的として販売しているものではない=証券ではないとも考えられるからだ。
また、イーサリアムプロジェクトは投資家に対して、初期販売時に「イーサリアムのガストークンを目的としてETHを購入する」という同意書にチェックさせている。これは、ガストークンが目的であり、ETHの価格上昇による利益を目的としているわけではない=投資契約ではない=証券ではない、というロジックである。
そのためイーサリアムについても、ビットコインと同様に「証券である(なのでETFは認めない)」というロジックを成立させることが難しい、といえるだろう。
また、実はすでにイーサリアムの先物ETFがSECによって2023年9月に承認されている。先に先物ETFが承認されているという点もビットコインと同様であり、将来的な現物ETFの承認可能性を高める要因といえるだろう。
これらの背景を考えれば、将来的にイーサリアム現物ETFが承認される可能性は非常に高い。ただし、その時期がいつになるのかは不明瞭である。
現在、米国ではすでにイーサリアム現物ETFの申請も投資企業らから行われており、審査が進められている。米国において、ETFの承認フローには複数の期限が設けられており、最大でも240日。現在申請済みのイーサリアム現物ETFの最終承認期限は24年5月なので、まずはこの時期にイーサリアム現物ETFの承認可否が話題になるはずだ。
5月にイーサリアム現物ETFが承認されるかについては、意見がわかれている。ビットコインを承認したことから、イーサリアムもスムーズに承認へと進むという意見もあるが、「SECはビットコイン現物ETFの先行き、影響をよくみて判断したいはず」という声もある。
イーサリアム現物ETFの承認を受けるためには、まずは「イーサリアムは証券ではない」というSECによる明確な意思表示が必要になるはずだ。
また、ビットコイン現物ETFが、最初の申請から実に7年もの月日を経てようやく承認されたように、SECは暗号資産に対しては非常に慎重で、厳しい対応を取り続けていることも忘れてはならないだろう。
いつかはイーサリアム現物ETFが承認されるとしても、それは数年単位の時間を必要とするかもしれないと考えるのが妥当かもしれない。
イーサリアム現物ETFを巡る議論のポイント!
- 証券性問題がカギ。イーサリアムは「証券である」とも「証券ではない」とも言及されていないグレーな状態。
- SECがイーサリアム現物ETFの申請を却下するロジックを失えば承認される。
- ビットコイン現物ETFが承認されるまでにかかった期間を考えれば、イーサリアム現物ETFも承認まで数年単位で時間がかかる可能性もある。
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