——まずはHeadlineとIVCの事業内容について教えてください。
田中章雄(以下、田中):Headlineはヨーロッパの大手メディアグループ「ベルテルスマン」から、ベンチャーキャピタル部門が独立するかたちで誕生した投資ファンドです。Web3.0ではない、通常のエクイティ(株式)に投資するベンチャーキャピタルで、現在の運用資産額はグローバルで6,000億円ほどになっています。
当初はヨーロッパから始まり、そこから米国、アジア、南米へと事業を展開していったのですが、私がもともとAdobeでアジアを中心にベンチャー投資の責任者をしてたこともあり、「私がやるよ」と手をあげてHeadline Asiaを立ち上げました。
Headline全体の戦略のなかでWeb3.0領域にも投資をしていたのですが、徐々にトークンへの出資という形をとるWeb3.0プロジェクトが増加してきました。そこで、エクイティではなく「トークンに出資するファンド」としてIVCを立ち上げたのです。
IVCとしてはアジアだけではなくグローバルでさまざまなWeb3.0プロジェクトに投資をしています。
Web3.0業界は“冬”から“春”に向けて動き出している
——昨年までは暗号資産市場が低迷したこともあり、”クリプトの冬”ともいわれていました。最近では市況が徐々に上向いているような雰囲気もありますが、2024年3月現在のWeb3.0業界をどのようにみていますか?
田中:冬の間も、本気でWeb3.0に取り組んでいる人たちが残り、ようやくヒットの兆しがみえ始めているように感じます。
我々が投資しているもののなかで例をあげれば、南米でフィンテック事業をしている『Belo』というプロジェクトがあります。このプロジェクトは長期間にわたってくすぶっている状況だったのですが、最近になって勢いが増していて2023年第4四半期だけで売上2億円弱、さらに2024年1月だけでその半分ほどを売り上げています。
また、インドで農作物コモディティをデジタルトークン化するRWA(Real World Asset=現実のモノや資産をトークン化すること)プロジェクトが1,000億円規模に拡大するなど、”冬の雪の下”から芽が伸びようとしていますね。
——IVCとしてさまざまな分野のWeb3.0プロジェクトに投資していますが、投資をする際はどのような点を考慮していますか?
田中:我々が投資するタイミングは、主に創業前もしくは創業直後のシード段階です。まだプロダクトの構想やトークン発行のスケジュール、もしくはコミュニティだけはある、というような。要するに、何もない段階といえるかもしれません。
そこでまず重要になるのは、ファウンダーやチームメンバーがどういう人なのかですね。起業するまでの経歴や評判はついてまわるものなので、まずはそこをみます。
また、Web3.0領域ではコミュニティを育成する取り組みも重要になります。継続的に応援してくれて、ともにプロジェクトを推進してくれるファンを獲得することですね。そのために、ディスコードなどでのコミュニティ運営力やファウンダーの発信力なども必要になります。
Web2.0のように、宣伝費を大量に使って人を集めればいいというだけの発想では、Web3.0プロジェクトを成功まで持っていくことは困難ですから。ただし、ここまでは前提の話です。その上で、作ろうとしているプロダクトが誰かのニーズに応えているか、それを作り上げる開発力はあるのかをチェックします。
——国内でもWeb3.0スタートアップが次々と立ち上がり、プロダクトをリリースし始めています。日本のWeb3.0プロジェクトをどのように感じていますか?
田中:Astar Network(渡辺創太氏が創業したパブリックブロックチェーン)やOasys(松原亮氏が創業したゲーム特化型ブロックチェーン)のように、グローバルに展開するプロジェクトもありますが、全体としては日本市場に目を向けているガラパゴスなプロジェクトも少なくありません。
ただ、国内向けのビジネスは仮に成功したとしても、グローバル向けよりも上限が低くなってしまいますよね。
我々はベンチャーキャピタルなので、やはりグローバルを狙うプロジェクトの方が魅力的であると感じます。かつてソニーやトヨタといった企業がグローバルで成功して外貨を稼ぎ日本に還元したように、日本発のWeb3.0プロジェクトのなかからグローバルで成功するものが出てきたらうれしいですね。
Web3.0でビジネスを立ち上げるならグローバル市場にフォーカスを
そのためにはグローバルな人材を巻き込む力が重要になる
——日本からグローバルに届くようなWeb3.0ビジネスが生まれる可能性はあるのでしょうか?
田中:2008年頃にドイツやフランスに行ってスタートアップと会うと、ドイツ人中心のチームが「ドイツ国内向けのECサイトを作る」というような話をしていることが多かったんです。ところがそれから10年くらい経つと、多国籍チームでグローバル向けの製品を作っているという企業ばかりになっていました。
結果、ヨーロッパは日本よりもはるかにユニコーン企業が生まれていますし、投資額も大きくなっています。そんな風に、日本もこれからグローバルに目を向けたWeb3.0プロジェクトがスタンダードになることに期待したいですね。
そのために、これからWeb3.0の世界で勝負する人はグローバルな人材を巻き込む力が重要になります。
我々も、世界中のWeb3.0起業家、投資家、開発者が集まる日本最大級のクリプトカンファレンスである「IVS CRYPTO」を開催して、それを支援しています。2024年も7月に京都で開催されるので、ぜひお越しください。
すでに“ビジネスの軸足”を持っている人が、本気でWeb3.0を理解して組み合わせたあらたなビジネスに大きなチャンスあり
——最後に、今後どういうWeb3.0プロジェクトに期待していますか?
田中:すでにビジネスの軸足を持っている人たちが、真剣にWeb3.0の仕組みを勉強してあたらしいビジネスを立ち上げることに期待しています。専門のビジネス領域は持っているけどWeb3.0はよくわからない、もしくはWeb3.0だけ詳しい、というチームでは成功を掴むのは難しいですね。
Web3.0の何が革新的なのかを理解して、Web3.0の世界に生まれているさまざまな技術や仕組みを、自分が持っているこれまでの経験や知識と組み合わせる。リスクをとってそういうビジネスを立ち上げる人が次々とあらわれてほしいですね。
Profile
田中 章雄|Akio Tanaka
Headline/IVC創業パートナー
Adobeのアジアにおける元ベンチャー投資責任者。2008年にHeadline Asiaを創業後、freee・WealthNavi・Yeahkaなど多数のフィンテックベンチャーに事業早期より投資している。また2021年度にはトークンファンドIVC(Infinity Ventures Crypto)を設立。Headline及びIVCのポートフォリオにはSorare・C2X・Crypto Unicorns・YGG・JPYC・Yay!、double jump.tokyo、Oasysなどが並ぶ。