イベント券やグッズ引換券、会員権などのNFTチケットを売り買いできる、日本初のマケプレアプリ「TicketMe」。
あらゆるモノの所有権やサービスの利用権を売買できるのが特徴で、権利利用前に「チケット」が流通されると、利益のなかから10~90%が1次販売者に還元される。
2023年10月には、NFTチケットの売買を制御する技術で特許も取得済みだ。インタビューを通して、「流通革命」を目指すチケミー宮下氏のミッションに迫る——
テクノロジーとアイデアで現状の課題を突破する
——以前は1度の流通ごとに5%が1次販売者に還元する仕組みを実装していましたが、直近アップデートした点をお聞かせください。
チケ男:以前は1次販売者に流通ごとに上乗せ分の5%が還元される仕組みでした。その後、利用者様からの要望もあって、利益のなかから還元率を選択できるという仕組みに変えました。
具体的には10%~90%の値から任意で設定可能です。最初に2万円で売れて、それが8万円で2次流通されたとしたら、その差額の6万円の10%から90%が販売者に還元されます。
この還元率の設定は、還元率を下げるとリセールの可能性は高くなりますが一回あたりの還元金額が減り、還元率を高く設定するとリセールはされにくくなりますが一回当たりの還元率が増える、という難しい面もあります。
2つの数値は反比例の関係となるので、弊社では、今まさにそれぞれを最大化させる還元率の数値(ポイント)をみつけようとしているところです。
データを蓄積していけばしていくほどチケットごとに最適な数値がわかりますので、その数値をユーザーに提示することにより、価値を生み出した人や事業者への還元を最大化できる流通が生まれると見込んでいます。
——データの提示はアプリ上を想定していますか?
チケ男:はい。今我々が分析しているのは、実際に販売された時に、販売されたものに対してどれくらいのアクセスがあるかとか、オファーされるまでの時間というデータです。
さまざまなデータを分析することによって、価値の還元を最大化できるように、分析した最適な数値をアプリ内で提示する予定です。
あるべき場所にあるべき価値を届ける
——昨年の夏からリアルワールドアセット(RWA)が話題となっています。RWAの強みというのはどういうところにあると思いますか?
チケ男:RWAのなかでもコモディティに近いものと、遠いものというのがあるという認識です。金やオイルなどは比較的コモディティに近いですよね。
逆に通貨や債権、株価指数などはコモディティから遠い位置にあります。我々はいわゆるコモディティに比較的近いアセットの中でも特に消費されるものの権利、たとえばイベント券をトークン化したり、モノの引換券をトークン化しています。
その観点からいうと、RWAのメリットは「共通の在庫化をした上で流通性を高めること」にあると考えています。
たとえば、イベント券において、10席はAというプレイガイド(イベント券販売サイト)で、次の10席はBというプレイガイドというようにわかれているとしましょう。
プレイガイドAで販売されているイベント券は、プレイガイドBで販売されるイベント券とは別の規格のものと捉えられる状況です。
しかし、これを共通在庫化することにより、あらゆるプレイガイドで発売されたイベント券の売買が簡単にできるようになります。結果として流動性が高くなります。
お金についても同じようなことがいえると思っていて、その場その場で両替をするとなると手数料や送金までの時間など、さまざまな課題があると思うのですが、これをトークン化することによってこれらの課題は解決し、流動性が高くなります。これがRWA、ひいては共通在庫化の大きな利点です。
——流動性が高まることにより商品の選択肢が広がるメリットがあると思いますが、事業者側からみて流動性が高まるメリットは何でしょうか?
チケ男:流動性が高くなると市場原理によって商品が高く売れやすくなります。流動性の高い市場において需要と供給のバランスを考えると、供給側の量は基本的には大きな変動があることは稀ですが、流動性が高ければ高いほど需要側は増えていきます。
需要が高くなっていくと、価格は上がっていきます。流動性が高くなるということは、マーケットへの参加者が増えているということです。
その結果、価格は本来あるべき価格へ上がりやすい環境になる。これにより、本当に欲しい人は購入することができ、結果として、事業者側は売上が伸びるという事業者へのメリットがあると思います。
エンタメ領域で今課題となっていることの1つとして、イベント券で特定の席ごとに価格を変動させることができないということがあります。
もう少し具体的にいうと、Aブロックの席、Bブロックの席というブロックごとの価格設定が一般的です。
これが仮にA席とB席の間の列の席の価格に流動性を持たせることができると、A席の中でも一番前は高いままですが、後ろの方の席は価格を下げることもできるようになるでしょう。
今よりも柔軟な価格が市場によって決まる未来が訪れると思っています。
チケミーの強みとは?
——ソウルバウンドトークン(SBT)などの技術を活用して不正転売防止をしていることも強みであるとお伺いしましたが、今後大手企業が参入してくるなかでの戦略というものをお聞かせください。
チケ男:現在の動きとして、1次販売のシステムに外付けをして、リセール市場をつくるという事業連携を進めています。
イベント券についてはすでに取り組みを始めていて、Gettiiというイベント券販売システムにおいては、発券の方法として今まで電子チケットと紙チケットの取り扱いしかなかったところを、NFTチケットという選択肢を加えていただきました。
これにより、今までリセールができない紙チケットや電子チケットを利用されていた方々にNFTチケットを利用していただき、チケミー上でリセールしてもらうことができます。
チケミーとしては、今後あらゆる1次販売のシステムにリセール市場を外付けしていき、1次流通がどこでされても関係なく、あらゆるモノの所有権やサービスの利用権を売買できる世界を目指しています。
今後も「リセールはチケミーでやりましょう」と提案をして、大手企業さんと提携していきたいと考えています。
ブロックチェーン技術を活用し、二重消費問題を解決
——大手企業に営業に行かれる際には、どのようなプレゼンをされるのでしょうか。
チケ男:既存のプレイガイドの企業様は、現状のリセールシステムに課題を感じている印象ですが、改修しようにもシステム改修など大変な面もあります。
我々は「企業様の自社プラットフォームを大きく改造することなく、外付けでリセール市場を提供し、なおかつ、御社に利益が還元されるシステムを提供します」と説明させていただいております。
既存の利益が損なわれることなく、今まで買えていなかったという人のユーザビリティを高めることができるので、三方両得になるという未来像をお伝えしています。
——イベント券の不正転売の解決に向けて、マイナンバーカードを使ってDID(Decentralized Identifier)との連携に努めているとお伺いしたのですが、進捗状況はいかがでしょうか?
チケ男:DIDというのは分散型IDということで、中央集権組織から独立した、個人管理のIDです。自分が自分の情報を本当に提供したい時にだけ、提供するという仕組みです。
マイナンバーカードを毎回みせたり、預けたりすることはプライバシーの保護という観点でもいくつかの課題があります。プライバシーを守りつつ、セキュリティを高めることは、イベント券に限らず非常に重要なのですが、その両立はなかなか難しいことです。
このような相反する問題を解決できるのがDIDです。チケミー上だけで認証されるのではなくて、DIDの基盤があった上で認証されているので、ほかの認証済みのユーザーが増えれば連携されていくということでもあります。チケミー上で毎回個別に認証される必要もなくなります。
——大手企業のRWAへの取り組みが、加速していくと予想される環境におけるチケミーの戦略を教えてください。
チケ男:大手企業さんと対抗するつもりはなくて、それこそ消費財の売買に特化した独自チェーンを作り、連携を加速していきたいと考えています。
消費財の二重消費問題を解決するためのSBT化のシステムをデフォルトで組み込み、リセールでロイヤリティを得ることができるようなチェーンをさまざまな企業様と一緒につくって、関係性を深めることができたらと思いますね。
——2024年1月に大手ファンドから2.2億円を資金調達したことを発表されました。投資家や既存ユーザーの方々はチケミーのどのような点に魅力を感じていると思いますか。
チケ男:事業者側からすると、今まで抱えていた不満をチケミーが解消できるという点が大きいと思います。
今のイベント券業界というのは、各企業は在庫を1個1個登録する必要があります。これを共通在庫化すれば、企業は市場に一度に流通させることができて在庫の管理コストは格段に下がりますし、ユーザーさんも買いやすくなります。
また、今までリセールは企業にとって1円も利益にならなかったところが、還元されるというメリットもあります。
——NFTに関する税法上の整備が整っていない点がありますが、チケミー上でのチケットのやり取りで発生する可能性がある税金について教えてください。
チケ男:消費税の対応などは順次進めています。インボイス制度が始まり、プラットフォームでも事業者やユーザーが使いやすいように対応していかなければならないと思います。
DAOという組織の中で商売ができる可能性は面白い
——DAO法によるチケミーのメリットは何でしょうか?
チケ男:社内でも今後「DAO法が成立したら面白いことがいろいろできるよね」と話をしていて、不動産の受益権売買とかDAOとして売買できたら今まで利益が還元されなかった海外の方々にも還元できるようになります。
具体的には、まず商品をつくる会員権を持ちます。最初に会員になることで出資したことになります。それにより農作物ができたり、不動産を所有したりした場合、今までは利益の分配が難しかったりしたのですが、会員権を持つことによりDAOに加入したことになれば、簡単に利益が分配できるようになる可能性があります。
DAOという緩やかな組織のなかで商売をすることができるようになるという可能性は面白いですよね。
今までよりも遥かに豊かな「流通革命」を実現する
——今後の展望を教えてください。
チケ男:チケミーは、流通革命を起こしたいと考えています。あらゆるものがチケットに乗って、誰もが簡単に売買できる。いつでも売れるし、いつでも買えるという世界を実現していきたいと考えています。
Profile
宮下 大佑(チケ男)| Daisuke Miyashita
早稲田大学政治経済学部入学と同時に、アパレルを扱うECサイトを起業。その後、事業売却したのち、独立系 VCのEastVenturesにてリサーチ業務に従事。2022年6月日本初のNFTチケット販売プラットフォーム「TicketMe」を提供する株式会社チケミーを設立。代表取締役に就任。
関連記事
NFTを活用した「流通革命」 株式会社チケミー チケ男 | GIANT KILLING Vol.4
チケットを介して「あるべき場所」に「あるべき価値」を届ける │ 赤塚育海インタビュー